CHEERS statement

The Consolidated Health Economic Evaluation Reporting Standards CHEERS statement CHEERS声明ー医療経済評価における報告様式のガイダンスー は2013年に International Society for Pharmacoeconomics and Outcomes (ISPOR) 国際医薬経済・アウトカム研究学会から発表された医療経済評価に関する論文の執筆ガイダンスである。Husereau D, Drummond M, Petrou S, Carswell C, Moher D, Greenberg D, Augustovski F, Briggs AH, Mauskopf J, Loder E, ISPOR Health Economic Evaluation Publication Guidelines-CHEERS Good Reporting Practices Task Force: Consolidated Health Economic Evaluation Reporting Standards (CHEERS)–explanation and elaboration: a report of the ISPOR Health Economic Evaluation Publication Guidelines Good Reporting Practices Task Force. Value Health 2013;16:231-50. PMID: 23538175白岩らの日本語訳も発表されている。

以下の項目について、望ましい執筆方法が解説されている:
タイトルと抄録:タイトル、抄録、序論:背景と目的、方法:対象集団とサブグループ状況や場所、研究の立場、比較対照、分析期間、割引率、アウトカムの選択効果の測定、選好に基づくアウトカムの測定や評価、資源消費と費用の推計、通貨・時点・換算、モデルの選択、仮定、解析方法、結果:研究で用いたパラメータ、増分費用と増分アウトカム、不確実性異質性、考察:研究結果・限界・一般化可能性・現在の知見、その他:資金源、利益相反

太字で示した項目は、医療経済的解析のデータソースとして用いられる臨床研究の臨床疫学的な視点での評価に関係する。

Cost-Effectiveness Analysis (CEA)に関する書籍

◯ Welton NJ, Sutton AJ, Cooper N, Abrams K, Ades AE: Evidence synthesis for decision making in healthcare. (Statistics in practice), 2012, Wiley.
 “This book is at heart about a fusion of ideas from medical statistics, clinical epidemiology, decision analysis, and health economics.” と書かれているくらいで、Network meta-analysisも含め、ベイズ統計学と決断分析を背景に幅広い領域について書かれている。エビデンスの統合についても十分記載されている。Chapter 7: Evidence Synthesis in a Decision Modelling Frameworkという章がある。NICEのガイダンスに沿った方法を述べ、WinBUGSについても記述している。

◯ Neumann PJ, Sanders GD, Russell LB, Siegel JE, Ganiats TG: Cost-effectiveness in health and medicine (2nd ed). 2017, Oxford University Press. 
Box 1.1にアメリカおよび国際的な医療の領域における費用対効果分析の歴史がまとめられている。2010年に”The Patient Protection and Affordable Care Act (ACA)医療保険制度改革法(通称オバマケア)がPatient-Centered Outcomes Research Institute (PICORI)患者中心のアウトカム研究所にQALYあたりの費用の閾値を用いることを禁止した、と書かれている。(Patient Protection and Affordable Care Act, 42 U.S.C. § 18001 et seq. [2010])。

◯ Edlin R, McCabe C, Hulme C, Hall P, Wright J: Cost-effectiveness modelling for health technology assessment: A practical course. 2015, Springer. 
包括的で、実用的な内容。著者はイギリス、カナダ、ニュージーランドの人たち。 相関のあるパラメータの調整についても書かれている。

◯ Baio G, Berardi A, Heath A: Bayesian cost-effectiveness analysis with the R package BCEA. 2017, Springer.
RのパッケージBCEAの作者Gianluca Baio教授(University College London)の本。

◯ Briggs A, Sculpher M, Claxton K: Decision modelling for health economic evaluation. 2006, Oxford Unversity Press. 2012, Cambridge University Press.   
前書きに、この領域の進歩が速いこと、この本に書かれている方法は、ひとつの見方に過ぎず、必ずしも正しいわけではなく、他にもよいアプローチがあるかもしれない、と書かれている。さまざまなグラフ表示が出てくる。相関のあるパラメータの調整についても書かれている。

その他:
◯ 鎌江 伊三夫編:医療技術評価ワークブック ―臨床・政策・ビジネスへの応用。2016年、じほう。
わかりやすく実例も上げながら書かれている。

医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団/編 :基礎から学ぶ医療経済評価 単行本。2014年、 じほう。

城山英明 (監修), 鎌江伊三夫 (監修), 林 良造 (監修) :医療技術の経済評価と公共政策―海外の事例と日本の針路。 2013年、じほう。


我が国の医療経済評価への取り組み:技術的方法論

厚生労働省の政策科学総合研究事業(政策科学推進研究事業)「医療経済評価の政策 応用に向けた評価手法およびデータの確立と評価体制の整備に関する研究」班 による「費用対効果評価の分析ガイドライン改定案について」が公開されています。

これは、中医協(費用対効果評価・薬価・保健医療材料 専門部会合同部会)の2019年1月23日 厚生労働省資料の中の 、中央社会保険医療協議会費用対効果評価専門部会・薬価専門部会・保険医療材料専門部会合同部会(第15回)事次第に含まれています。費薬材-3(PDF:455KB)としてPDFファイルをダウンロードできます。

この費用対効果評価の分析ガイドライン改定案」から重要と思われる点を一部抜粋して以下に記述します。このガイドラインは案であることを認識した上で、また以下の記述は抜粋なのでもし各自が評価したい場合は必ず上記のリンクから全文を得て熟読してからして下さい。

1.1 本ガイドラインは、中央社会保険医療協議会において、評価対象として選定された医薬 品・医療機器(以下、評価対象技術)の費用対効果評価を実施するにあたって用いるべき分 析方法を提示している。
2.2 費用や比較対照技術、対象集団などについて公的医療保険制度の範囲で実施する 「公的医療の立場」を基本とする。
5.1 費用対効果を検討するにあたっては、評価対象技術の比較対照に対する追加的な有用 性の有無を評価する
6.1 効果を金銭換算せず、費用と効果を別々に推計する費用効果分析を分析手法として用 いることを原則とする。  
6.2 「5.」の分析に基づき、追加的有用性が示されていると判断される場合には、各群の期 待費用と期待効果から増分費用効果比(Incremental cost-effectiveness ratio: ICER) を算出する。
6.3.1 対照技術と比べて効果が同等以上(増分効果の大きさが非負)で、かつ費 用が安い場合。このとき、ICER を算出せずに優位(dominant)であるとする。
6.3.2 対照技術と比べて効果が同等以下(増分効果の大きさが非正)で、かつ費 用が高い場合。このとき、ICER を算出せずに劣位(dominated)であるとする。
6.3.3 「5.」の分析により、アウトカムは同等と考えられるものの、追加的有用性を 有すると判断できない場合には、比較対照技術との費用を比較する。(いわゆる「費 用最小化分析(Cost-minimization analysis :CMA)」)
7.1 評価対象技術の費用や効果におよぼす影響を評価するのに十分に長い分析期間を用 いる。
8.1 効果指標は質調整生存年(Quality-adjusted life year: QALY)を用いることを原則 とする。
8.1.1 QALY を算出することが困難であり、かつ CMA を実施する場合は、協議に おける両者の合意のもとで、QALY 以外の評価尺度を使用することもできる。
8.2 QALY を算出する際の QOL 値は、一般の人々の価値を反映したもの(選好に基づく尺 度(preference-based measure: PBM)で 測 定 し た も の 、 あ る い は 基 準 的 賭 け (Standard gamble: SG)法時間得失(Time trade-off: TTO)法などの直接法で測定し たもの)を用いる。ただし、TTO と SG での測定値には系統的な差がある可能性について留 意すること。
10.4 各健康状態の費用の推計において、適切な場合には、「10.3」の観点から実臨床を 反映した国内におけるレセプトのデータベースを用いることを推奨する。ただし、レセプト上で 健康状態の定義が困難である、評価時点においてデータの十分な蓄積がないなど、推計の 実施が困難な場合はその限りではない。
11.1 公的介護費用や当該疾患によって仕事等ができない結果生じる生産性損失は、基本 分析においては含めない
12.1 将来に発生する費用と効果は割引を行って、現在価値に換算しなければならない。  
12.1.1 ただし、分析期間が 1 年以下、あるいは短期間でその影響が無視できる 程度であるときは、割引を行わなくてもよい。
12.2 費用・効果ともに年率 2%で割引を行うこととする。
12.3 割引率は、感度分析の対象とし、費用・効果を同率で年率 0%から 4%の範囲で変化 させる。
13.1 「7.」の原則に基づき、予後や将来費用を予測するために決定樹モデル、マルコフモ デル等を用いたモデル分析を行ってもよい。
14.6 確率的感度分析(Probabilistic sensitivity analysis: PSA)もあわせて実施すること が望ましい。その場合、使用した分布についても明らかにするとともに、費用効果平面上の散 布図費用効果受容曲線(Cost-effectiveness acceptability curve: CEAC)を提示す る。

以上、費用対効果分析Cost-effectivness analysis (CEA)を行う際のガイドラインの一部をあくまで、CEAの技術的方法論の視点から紹介しました。

益と害の定量的評価法 Quantitative benefit-harm assessment

定量的に益と害の大きさを評価し、益と害のバランスあるいは正味の益の大きさを知るにはどうするか? 33文献のリストを作りました。また、Benefit-Risk assessmentという言葉も使われています。

このリストの中で、10.Hughes D 2016, 11. Hallgreen CE 2016, 16.Mt-Isa S 2014, 19.Boyd CM 2012, 31.Wen S 2014は必ず読むべき。

ほとんどのパラメータは不確実性を伴っているので、確率的感度分析が必要です。また、設定されたアウトカムあるいはConsequencesで患者さんの体験のすべてを評価できるかどうか熟慮が必要です。6. Yu T 2016の論文にはその限界も示されています。