信頼できる診療ガイドライン作成とCOI

全米科学アカデミー医学研究所Institute of Medicine (IOM, 現全米医学アカデミーNational Academy of Medicine, NAM) は2011年に”Clinical Practice Guidelines We Can Trust“を発表しています。まさに「信頼できる診療ガイドライン」です。

その中で、”第4章 信頼できる診療ガイドライン作成のための現在最善の方法とスタンダードの提言:パート1 作業の開始”でConflict of Interest (COI)利益相反に関するスタンダードが述べられています。

COIの申告、開示、管理は診療ガイドライン作成の過程の透明性確保のために必須であり、その目的は信頼できる診療ガイドラインを作成することです。この第4章はCOIに限定した議論ではなく、信頼できる診療ガイドラインを作成するために必須の事項の一つとして、COIの申告、開示、管理を位置付けています。COIについてはGuidelines International Network (G-I-N)も声明を発表していますが、こちらはCOIが中心の声明で、9つの原則について述べています。日本医学会からは「日本医学会診療ガイドライン策定参加資格基準ガイダンス2017年 」が発表されておりCOIについて詳しく述べられています。

COIは経済的COIだけではなく、知的COI Intellectual COIも問題になります。American Heart Association/the American College of Cardiology (ACC/AHA)その他9つの学会から2017年に出された高血圧の診療ガイドラインに対し、アメリカ家庭医学アカデミーは、作成プロセスの問題、より低い目標血圧によるベネフィットがわずかなことから支持しないことを決定したそうです(Miyazaki K 2018)。特に知的COIの問題、すなわちSPRINT試験の代表がガイドラインパネルの議長を務めたことが問題視されています。

IOMの”第4章 信頼できる診療ガイドライン作成のための現在最善の方法とスタンダードの提言:パート1 作業の開始”のまとめの項は以下の通りです。

  1. 透明性の確保
    1.1 CPG (Clinical Practice Guideline)の作成と資金調達の過程は明確、詳細で公衆がアクセスできるようにすべきである。
  2. 利益相反(COI)の管理
    2.1 ガイドライン作成グループ(GDG, Guideline Development Group)の選任に先立ち、参加を考慮中の個人は作成グループの活動との間でCOIを生じうるすべての利益と活動を招集者に書面で申告すべきである。
    ・申告は現在の、そして計画されている、CPGの想定されるスコープに関連する商業的(そこから収入のかなりの部分を得ている業務・サービスも含む)、非商業的、知的、患者‐公衆に関する活動のすべてを反映すべきである。
    2.2 GDG内でのCOIの申告:
    ・GDGメンバーのすべてのCOIはその仕事を開始する前に報告され、これから形成されるであろう作成グループによって議論されるべきである。
    ・各パネルメンバーはそのCOIが診療ガイドライン作成プロセスあるいは個別推奨にどのように影響しうるかを説明すべきである。
    2.3 (株式などの)処分
    ・GDGメンバーは各自および家族が保有する経済的投資を自ら売却・処分すべきで、その利益が診療ガイドラインの推奨により影響を受けうる企業体のマーケティングあるいはアドバイザリーボードに参加すべきではない。
    2.4 適用除外Exclusions
    ・可能な限りGDGメンバーはCOIを有するべきではない。
    ・いくつかの状況では、メンバーは診療ガイドラインに関連のあるサービスから収入のかなりの部分を得ている関連のある臨床専門家のような、COIを有するメンバーなしで、その仕事を遂行できないかもしれない。
    ・COIを有するメンバーはGDGの少数派にとどめるべきである。
    ・ 議長あるいは副議長はCOIを有する者であってはならない。
    ・資金提供者はCPG作成で何らかの役割を持ってはならない。
  3. ガイドライン作成グループの構成
    3.1 GDGは方法論の専門家、臨床家、そして診療ガイドラインで影響を受けるであろう集団などさまざまな人々から構成され、多くの専門分野のバランスがとれた構成にすべきである。
    3.2 患者と市民の参画は現在の患者あるいは疾患経験者、患者支援者あるいは患者・医療利用者団体の代表者をGDGに含むことで(少なくともクリニカルクエスチョン作成時点と診療ガイドライン草稿のレビューの時点で)強化すべきである。
    3.3 エビデンスの批判的吟味のトレーニングを含む、患者と医療利用者の代表の効果的な参加を増やす戦略がGDGにより採用されるべきである。
  4. 診療ガイドライン-システマティックレビューの交差(Intersection)
    4.1 診療ガイドライン作成者はInstitute of Medicineの比較効果研究のシステマティックレビューのスタンダードにより設定された基準を満たすシステマティックレビューを用いるべきである。
    4.2 システマティックレビューが特定のガイドラインに情報を与えるために特異的に実施される時は、GDGとシステマティックレビューチームは両者のスコープ、アプローチ、そしてアウトプットについて協働すべきである。

COIのことだけを論じるのではなく、いかに透明性を確保し、いかに信頼できる診療ガイドラインをつくるかという観点で議論することが重要ではないかと思います。