ベースラインリスクと治療閾値

アウトカムが起きる確率がどれくらいになったら治療をすべきか?すなわち、ベースラインリスクがどれくらい高かったら治療を開始すべきか?についてDjulbegovic Bらは図1のような方法を提示しています。

図1. ベースラインリスクと治療閾値。

文献:Djulbegovic B, Hozo I, Mayrhofer T, van den Ende J, Guyatt G: The threshold model revisited. J Eval Clin Pract 2019;25:186-195. doi: 10.1111/jep.13091 PMID: 30575227

この例では、静脈血栓塞栓症(Venous thromboembolism, VTE)の患者で原疾患の診断が確定している、すなわち疾患確率p=1に設定し、アウトカムVTEの再発の確率、すなわちベースラインリスクが0~1まで変動させた場合に、抗凝固薬rivaroxaban投与を開始すべき値の求め方を述べています。益のアウトカムはVTE再発でそれの抑制が望ましい効果になり、プラセボで0.071の確率で起きるのに対して、投薬によりリスク比0.188、相対リスク減少RRR0.812の効果が得られます。害のアウトカムである出血事象の起きる確率Hrxは0.048で、プラセボでは0に設定しています。図1の中で、RVHは害のアウトカムの重要性を益のアウトカムに対して何倍とみなすか?すなわち患者の価値観によって設定する値で、この例では1に設定していますが、もし、出血事象がVTE再発に比べて2倍重要と考えるなら2、半分と考えるなら0.5に設定します。

アウトカムの発生確率の、すなわちベースラインリスクの治療閾値はRVH*Hrx/RRRで算出され、この例では、0.059になります。グラフで示すと図2の様になります。

図2.ベースラインリスクと期待効用による治療閾値。青はU(A-)すなわちプラセボ、オレンジはU(A+)すなわち抗凝固薬投与の場合を示します。

Djulbegovic Bらは、疾患確率とアウトカムの起きる確率と二重にカウントすることを避けるため、図1のように疾患確率を1に設定すると説明しています。実は、この点については、疾患確率とアウトカムの起きる確率の両方を取り込んだDecision treeを作成することによって解決できます。次回それについて解説しようと思います。

治療閾値は益と害(Benefit and harm)あるいは益とコスト(Benefit and cost)、さらにその比B/HあるいはB/Cで決まりますが、治療閾値を超えた疾患確率あるいはアウトカムの起きる確率ではB>Hとなりますが、BとHの差、すなわち正味の益Net benefitは疾患確率あるいはアウトカムの起きる確率が高くなるほど大きくなります。治療閾値はそれを超えたら治療をしてもいい値ですが、疾患確率の場合は、益を最大化するには、何らかの診断法を実施して疾患確率を高くしてから治療を開始すべきと考えられますし、実臨床ではそれが実行されていると思います。