Excelのデータからそのままメタアナリシス:Meta-analysis IZ exと評価シートへの実装

Excelで一定の形式でデータを入力して、アドインメニューからDo Meta-analysisをクリックすると、ブラウザが開かれ、Forest plot、Funnel plot、結果の数値データが表示されるMeta-analysis IZ exというExcel bookを作りました。インターネットに接続された環境で使用します。

VBAで書かれたプロブラムで、メタアナリシスに必要なデータを結合して、GETメソッドで送信し、PHPのプログラムで受信し、JavaScriptのプログラムで解析して、ブラウザに結果を表示します。Forest plot、Funnel plotは右クリックしてコピーしたりPENGファイルとして保存できます。

VBAのプロブラムを動かすには、Excelでマクロが動作する設定にする必要があります。必要な場合、Excelファイルを開いてから、ファイルメニュ–>オプション–>トラストセンター–>トラストセンターの設定(T)…ーー>マクロの設定–>VBAマクロを有効にするをチェックしてください。一度閉じて、再度開いてください。このマクロに関する設定は、他のExcelファイルに対しても適用されるので、他のExcelファイルでマクロが付いている場合も、無条件にマクロが実行可になります。セキュリティ上は、電子署名されたマクロを除き、VBAマクロを無効にする(G)の設定が望ましいので、さまざまなソースのExcelファイルを使用する方は、あとで設定をそのように変更してください。

このExcel bookのファイル名は2025_meta-analysis_ex.xlsmです。下記のLinkからダウンロードして、ダウンロードしたファイルを開いてください。上記のごとく、最初に、マクロを有効化して使用してください。

また、Mindsの評価シートをBookとしてまとめた、2025_excel_book_for_sr.xlsmというファイルと、そこから必要なシートをコピーして、システマティックレビューに使用するシートを集めたBookを各自作るための2025_My_SR Book.xlsmというファイルも入れてあります。システマティックレビュー用の評価シートに必要なデータを入力後、アドインメニューからMeta-analysis → Do Meta-analysisをクリックするとブラウザが開かれ、結果が表示されます。これらのBookの評価シートは、Rのパッケージmetafor, forestpolotを用いて、Rで動作するメタアナリシスを行うのスクリプトも含んでいるのでRを使ってメタアナリシスをすることもできますし、後述するMeta-analysis IZ rというウェブツールを使ってメタアナリシスをすることもできます。

Link: 2025_meta-analysis_ex.zip
2025.2.2 より前にダウンロードされた方、一部修正しましたので再度ダウンロードしてください。ZIPファイルから外に保存してから使ってください。

ここからは、2025_meta-analysis_ex.xlsmについての解説です。最初のシートに使い方の解説があります。二値変数アウトカムの場合、リスク比、オッズ比、リスク差、生存分析の場合、ハザード比、連続変数アウトカムの場合は、平均値差、標準化平均値差を扱えます。

図 Meta-analysis IZ exの最初のシート。

それぞれのシートにはサンプルデータが入力されているので、自分のデータに書き換えて使用してください。

また、シートの任意のセルを選択した状態で、Shift keyを押しながら、Do Meta-analysisをクリックするとその場所に二値変数アウトカム用のデータ入力フレームワークが作成されます。Altキーを押しながら同様の操作でハザード比用、Shift keyとAltキーの両方を押しながら同様の操作をすると連続変数アウトカム用のデータ入力フレームワークが作成されます。それらの位置にデータを入力して、それに対してメタアナリシスを実行する場合は、authorのセルを選択してから、Do Meta-analysisをクリックしてください。その範囲のデータでメタアナリシスを実行します。新規に追加したシートでも同じことができます。デフォルトの位置はセルB3です。新規に追加したシートではまずそこにフレームワークを作成して、使用しましょう。

メタアナリシスの方法は、分散逆数法Inverse-variance method、ランダム効果モデルRandom-effects model、研究間の分散の計算はRestricted Maximum Likelihood (REML)法またはDerSimonian -Laird法です。Rのパッケージのmetaforと同じ結果が得られることを確認してあります。

DerSimonian -Laird法は古典的な方法でRevManはこの方法を用いています。REMLとDerSimonian -Lairdはほぼ同じ結果になりますが、数値は若干異なり、REMLの方をデフォルトにしています。

このExcel bookを用いると、データをコピーしてウェブサイトに貼り付けて、解析するというステップがワンステップで済みます。

YouTubeチャンネルIZ statで解説動画をアップロードしました。Link

Meta-analysis IZ rというメタアナリシスのためのウェブツールでも同じJavaScriptのプログラムで解析しています。Meta-analysis IZ rはこちらのLinkです。

参照リンク:
Rのメタアナリシス用のパッケージ by Viechtbauer W Link

Viechtbauer W (2010). “Conducting meta-analyses in R with the metafor package.” Journal of Statistical Software36(3), 1–48.  Link

Cochrane RevManの統計学的手法 Deeks JJ and JPT Higgins: Statistical algorithms in Review Manager 2022. PDF

Conflict of Interest (COI) 利益相反

Institute of Medicine (IOM), Guidelines International Network (G-I-N)のCOIに関する解説、COIへの対処法などについて、重要な箇所の原文と日本語訳です。これを読むとCOIについての理解が深まり、診療ガイドライン作成におけるCOIへの対処法が理解できると思います。

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Institute of Medicine 2009年の定義

“A set of circumstances that creates a risk that professional judgment or actions regarding a primary interest will be unduly influenced by a secondary interest” (IOM, 2009, p. 46).

「もっとも重要な一次的利害に関する専門的判断あるいは行動が二次的利害に不当に影響を受けるリスクを生じる一連の状況」

Clinical Practice Guidelines We Can Trust 2011年に引用されている。

さらにIOMの追加的説明:complementary descriptions of COI: “A divergence between an individual’s private interests and his or her professional obligations such that an independent observer might reasonably question whether the individual’s professional actions or decisions are motivated by personal gain, such as financial, academic advancement, clinical revenue streams, or community standing” 

「独立した観察者が、個人の専門的行動あるいは決断が経済的、アカデミックな昇進、臨床的収入の流れあるいは社会的地位のような個人的獲得利益に動機づけられているかどうかについて疑問を抱くかもしれないような、個人の私的利害とその専門家としての義務の間の相違」

さらにSchünemann HJ,らの解説:

“A financial or intellectual relationship that may impact an individual’s ability to approach a scientific question with an open mind” (Schünemann et al., 2009, p. 565).

「開かれた心で科学的疑問にアプローチする個人の能力に影響を与えるかもしれない経済的あるいは知的関係」

さらに知的COIについての説明:

intellectual COIs specific to CPGs are defined as “academic activities that create the potential for an attachment to a specific point of view that could unduly affect an individual’s judgment about a specific recommendation” (Guyatt et al., 2010, p. 739)

「診療ガイドラインに特異的な知的COIは、特異的な推奨に関する個人の判断に不当に影響しうる特異的な見解への執着の可能性を生み出すアカデミックな活動と定義される」

G-I-N 2016の定義

G-I-N 2016の定義はIOMの追加的説明と同じ内容である:

“A divergence between an individual’s private interests and his or her professional obligations such that an independent observer might reasonably question whether the individual’s professional actions or decisions are motivated by personal gain, such as direct financial, academic advancement, clinical revenue streams, or community standing.”

ーーーーー 第4章(75~107ページ)

1. Establishing Transparency 

1.1 The processes by which a CPG is developed and funded should be detailed explicitly and publicly accessible.

2. Management of Conflict of Interest (COI) 

2.1 Prior to selection of the guideline development group (GDG), individuals being considered for membership should declare all interests and activities potentially resulting in COI with development group activity, by written disclosure to those convening the GDG: 

•    Disclosure    should    reflect    all    current    and    planned    commercial (including services from which a clinician derives a substantial proportion of income), noncommercial, intellectual, institutional, and patient–public activities pertinent to the potential scope of the CPG. 

2.2 Disclosure of COIs within GDG: 

•    All COI  of each GDG member should be reported and discussed by the prospective development group prior to the onset of his or her work. 

•    Each panel member should explain how his or her COI could influence the CPG development process or specific recommendations. 

2.3 Divestment 

•    Members of the GDG should divest themselves of financial investments they or their family members have in, and not participate in marketing activities or advisory boards of, entities whose interests could be affected by CPG recommendations. 

2.4 Exclusions 

•    Whenever possible GDG members should not have COI. 

•    In some circumstances, a GDG may not be able to perform its work without members who have COIs, such as relevant clinical specialists who receive a substantial portion of their incomes from services pertinent to the CPG.

•    Members with COIs should represent not more than a minority of the GDG. 

•    The chair or cochairs should not be a person(s) with COI. 

•    Funders should have no role in CPG development.

3. Guideline Development Group Composition 

3.1 The GDG should be multidisciplinary and balanced, comprising a variety of methodological experts and clinicians, and populations expected to be affected by the CPG. 

3.2 Patient and public involvement should be facilitated by including (at least at the time of clinical question formulation and draft CPG review) a current or former patient, and a patient advocate or patient/consumer organization representative in the GDG. 

3.3 Strategies to increase effective participation of patient and consumer representatives, including training in appraisal of evidence, should be adopted by GDGs.

4. Clinical Practice Guideline–Systematic Review Intersection 

4.1 Clinical practice guideline developers should use systematic reviews that meet standards set by the Institute of Medicine’s Committee on Standards for Systematic Reviews of Comparative Effectiveness Research. 

4.2 When systematic reviews are conducted specifically to inform particular guidelines, the GDG and systematic review team should interact regarding the scope, approach, and output of both processes.

1. 透明性の確保

1.1 CPGの作成と資金調達の過程は明確、詳細で公衆がアクセスできるようにすべきである。

2. 利益相反(COI)の管理

2.1 ガイドライン作成グループ(GDG)の選任に先立ち、参加を考慮中の個人は作成グループの活動とCOIを生じうるすべての利益と活動を招集者に書面で申告すべきである。

・申告は現在の、そして計画されている、CPGの想定されるスコープに関連する商業的(そこから収入のかなりの部分を得ている業務・サービスも含む)、非商業的、知的、患者‐公衆に関する活動のすべてを反映すべきである。

2.2 GDG内でのCOIの申告:

・GDGメンバーのすべてのCOIはその仕事を開始する前に報告され、将来の作成グループによって議論されるべきである。

・各パネルメンバーはそのCOIが診療ガイドライン作成プロセスあるいは個別推奨にどのように影響しうるかを説明すべきである。

2.3 (株式などの)処分

・GDGメンバーは各自および家族が保有する経済的投資を自ら売却・処分すべきで、その利益が診療ガイドラインの推奨により影響を受けうる企業体のマーケティングあるいはアドバイザリーボードに参加すべきではない。

2.4 除外規定

・可能な限りGDGメンバーはCOIを有するべきではない。
・いくつかの状況では、メンバーは診療ガイドラインに関連のあるサービスから収入のかなりの部分を得ている関連のある臨床専門家のような、COIを有するメンバーなしでその仕事を遂行できないかもしれない。
・COIを有するメンバーはGDGの少数派にとどめるべきである。
・ 議長あるいは副議長はCOIを有する者であってはならない。
・資金提供者はCPG作成で何らかの役割を持ってはならない。

3. ガイドライン作成グループの構成

3.1 GDGは方法論の専門家、臨床家、そして診療ガイドラインで影響を受けるであろう集団などさまざまな人々から構成され、多くの専門分野のバランスがとれた構成にすべきである。

3.2 患者と公衆の参画は現在の患者あるいは疾患経験者、患者支援者あるいは患者・医療利用者団体の代表者をGDGに含むことで(少なくともクリニカルクエスチョン作成時点と診療ガイドライン草稿のレビューの時点で)強化すべきである。

3.3 エビデンスの批判的吟味のトレーニングを含む、患者と医療利用者の代表の効果的な参加を増やす戦略がGDGにより採用されるべきである。

4. 診療ガイドライン-システマティックレビューの交差

4.1 診療ガイドライン作成者はInstitute of Medicineの比較効果研究のシステマティックレビューのスタンダードにより設定された基準を満たすシステマティックレビューを用いるべきである。

4.2 システマティックレビューが特定のガイドラインに情報を与えるために特異的に実施される時は、GDGとシステマティックレビューチームは両者のスコープ、アプローチ、そしてアウトプットについて協働すべきである。

文献

IOM. 2009. Conflict of interest in medical research, education, and practice. Edited by B. Lo and M. J. Field. Washington, DC: The National Academies Press, USA.

Guyatt G, Akl EA, Hirsh J, Kearon C, Crowther M, Gutterman D, Lewis SZ, Nathanson I, Jaeschke R, Schünemann H: The vexing problem of guidelines and conflict of interest: a potential solution. Ann Intern Med 2010;152:738-41. PMID: 20479011

Schünemann HJ, Osborne M, Moss J, Manthous C, Wagner G, Sicilian L, Ohar J, McDermott S, Lucas L, Jaeschke R, ATS Ethics and Conflict of Interest Committee and the Documents Development and Implementation Committee: An official American Thoracic Society Policy statement: managing conflict of interest in professional societies. Am J Respir Crit Care Med 2009;180:564-80. PMID: 19734351


G-I-Nの9つの原則

1.ガイドライン作成者は直接的なCOIあるいは関連のある間接的COIを有する者をメンバーに含まないために可能な限り努力すべきである。
2.COIの定義とその管理は、専門性あるいは代表しているステークホルダに関わらず、ガイドライン作成グループの全員に適用され、これはパネルが構成される前に決められるべきである。
3. ガイドライン作成グループは利害申告に標準化されたフォームを用いるべきである。
4.ガイドライン作成グループはすべての直接的な経済的および間接的COI含む利害を公開すべきで、これらはガイドライン利用者が容易に閲覧できるようにすべきである。
5.ガイドライン作成グループのすべてのメンバーはグル―プの会議のたびにそして定期的に(例えば、ガイドライン作成グループのにいる間は1年ごとに)利害の変更について申告し更新すべきである。
6.ガイドライン作成グループの議長は直接的あるいは関連のある間接的COIを有するべきではない。議長の直接的あるいは間接的COIが避けられない場合、ガイドラインパネルをリードするCOIのない副議長を任命すべきである。
7.関連のあるCOIと特異的な知識あるいは専門性を持つ専門家は個々のトピックの議論への参加を許可しうるが、意見を求められる委員の間で適切なバランスがとられるべきである。
8.推奨の方向と強さを決めるガイドライン作成グループのメンバーは誰も直接的な経済的COIを有するべきではない。
9.統括委員会はCOIに関連した規則の作成と実行に責任を持つべきである。

補足:

1-.G-I-Nはそれが実際的でない場合に、例外が必要なことを認識しているが、そのような問題がこの原則の重要性を減少させるものではない。パネルメンバーがCOIを有する場合、COIを有するメンバーがガイドラインパネルで少数派になるように、そしてガイドライン作成者はCOIを有するメンバーを含める理由についてそしてCOIの管理について透明性を確保すべきである。
4-.COIはさまざまな設定のさまざまなレベルで起きるので、この開示の部分では診療ガイドライン作成グループはすべての特異的な金銭的価値のあるものを開示すべきである。もしわかるのであれば、実際のあるはおおよその金額を報告することは透明性を高める。開示のレジストリーを使うことが可能である。
6-.推奨の向きと強さに影響する場合は関連のあるCOIが存在する。そのようなCOIがない副議長の例は推奨の向きと強さに関係のある利害を持たない方法論専門家がある。
-7.いくつかの設定においては、この役割を満たせる者は診療ガイドライン作成グループの投票するあるいは投票しないメンバーではない専門的アドバイザーと考えてもよい。
-8.これらのメンバーはガイドライン作成の時点に参加すべきではない。彼らは、推奨の方向と強さに関する議論の場にはいないこと。
-9.統括委員会は論争になる問題に対処すべきで、診療ガイドライングループの議長に誰が投票し、だれが投票しないメンバーか、そして専門的アドバイザーとしてだれを指名するかについてアドバイスすべきである。

文献:

Schünemann HJ, Al-Ansary LA, Forland F, Kersten S, Komulainen J, Kopp IB, Macbeth F, Phillips SM, Robbins C, van der Wees P, Qaseem A, Board of Trustees of the Guidelines International Network: Guidelines International Network: Principles for Disclosure of Interests and Management of Conflicts in Guidelines. Ann Intern Med 2015;163:548-53. PMID: 26436619


低いレベルのCOI (排除なし)

直接的な経済的COIなし
間接的な経済的COなし
直接的な知的COIなし
-トピック領域で推奨を発表したことが無い
-違うトピック領域ではガイドライン作成をしたことがある

対応:全面的参画

中等度のレベルのCOI (部分的排除)

直接的経済的COI
-ガイドラインと関係のないトピック領域で雇用主への研究費を企業から受けている
-ガイドラインに直接関係のあるトピック領域で非営利組織(例えば、AHRQ、NIHなど)から資金を受けている

個人的な経済的COI
-製薬企業から近親者が資金提供を受けているが、ガイドラインのトピックとは関係がない。

直接的知的COI
– 別の組織のために同じガイドライントピックで仕事をしたことがある

対応:議論には参加するが、パネル、著者、投票には参加しない。

高いレベルのCOI(完全排除)

直接的な経済的COI

-講演、株式、ボードメンバー
-近親者がガイドラインに直接関係のある製品について製薬企業から金銭を受け取る、あるいは受け取ったことがある

対応:拒絶

2015年Guidelines International Network (G-I-N)でのプレナリーセッションでのGRADE working groupのHolger SchunemannとAmerican College of Phyisicians (ACP)のAmir Quaseemの発表スライド。

GRADEアプローチのエビデンスの確実性評価:3種類の文脈化

GRADEアプローチにおけるアウトカムごとのエビデンス総体のエビデンスの確実性の評価方法は、システマティックレビュー(SR)、医療技術評価(HTA)と診療ガイドライン(CPG)作成では、異なります。前2者は最小文脈化アプローチMinimally contextualized appproach、または、部分的文脈化のアプローチPartially contextualized approachを用い、CPGでは完全文脈化のアプローチFully contextualized approachを用います。最小文脈化、部分的文脈化のアプローチでは効果推定値が正しいことに対する確信の程度を決めること、完全文脈化では、各アウトカムに対する介入の効果推定値が推奨を支持する適切さに対する確信の程度を決めることが目的です(表1)。

表1.エビデンス総体のエビデンスの確実性評価と文脈化の程度。


エビデンスの確実性とは:GRADEはエビデンスの確実性を、真の効果が特定の閾値の片側あるいは効果量の選択された範囲にある確実性と定義した」(Schünemann HJ 2022)、あるいは、「GRADEワーキンググループは、個々のアウトカムに対するエビデンスの確実性をレーティングするとき、真の効果が特定の範囲にある、または、ある閾値の片側にあることに、我々がどれくらい確かだと思うかを我々はレーティングしているということを明確にしている」(Hultcrantz M 2017)とされています。

文脈化の程度と他のアウトカムの関連、大・中・小の閾値の設定、正味の益の算出、アウトカムの重要度(価値)の設定、確実性のレーティングの標的の関係を表2に示します。

表2. 文脈化の程度と各アプローチの特徴。

GRADEワーキンググループ(WG)は2017年にエビデンスの確実性の概念(costruct)について論文(Hultcrantz M 2017)を発表しました。その後のWGの議論を踏まえて、2021年の論文(Zeng L 2021)では、エビデンスの確実性評価の実際的なガイダンスについて述べています。そのガイダンスでは、エビデンスの確実性の評価者は、エビデンスの確実性の概念の何を評価するのかを明確にする必要があると述べており、それを確実性のレーティングの標的(the target of their certainty rating)と呼んでいます。

そして、確実性のレーティングの標的は、エビデンスの確実性評価の文脈化の程度によって異なり、最小文脈化のアプローチでは無効果あるいは効果ありの確実性、または、効果推定値が無効果を含むある範囲にある確実性が標的になります。部分的文脈化のアプローチでは閾値の片側にある確実性あるいは信頼区間が大・中・小の臨床的意味のある閾値と交差する数が標的になります。完全文脈化ではさらに、正味の益を明確にしたうえで、信頼区間の上限値、下限値でそれが反転するかどうかを見る(Hultcrantz M 2017)、あるいは、望ましくない効果の上限値の総和への影響を見る(Schünemann HJ 2022)ことになります。

完全文脈化のアプローチを用いる場合、前作業として部分的文脈化のアプローチによる各アウトカムに対する効果推定値の確実性の評価を行うことが勧められています。

大・中・小の閾値を設定する際には、絶対効果を用い、アウトカムの重要度を反映する必要があります。閾値はリスク差×アウトカムの重要度(効用値)をスケールとして用います。

図1.閾値の設定

効果推定値の95%信頼区間がこれら閾値といくつ交差するかによって、エビデンスの確実性をレートダウンします。1つの閾値と交差する場合は、1レベルレートダウン;2つの閾値と交差する場合は、2レベルレートダウン;3つの閾値と交差する場合は、3レベルレートダウンが原則です。

図2.閾値と信頼区間の関係とレートダウン。

効果推定値が大の閾値を超えるようなありそうもない大きな効果を示している場合、あるいは、わずかまたは小さな効果の場合に、Review Information Size(RIS)レビュー情報量を計算する必要があります。大・中・小の閾値に対する必要なRIS、すなわちその大きさの効果を証明に必要なサンプルサイズを計算し、その結果で、実際のサンプルサイズが•大きな効果の閾値より少ない ⇒ 3レベルレートダウン;•中等度の効果の閾値より少ない ⇒ 2レベルレートダウン;•小さな効果の閾値より少ない ⇒ 1レベルレートダウンすることが提案されています。ただし、効果推定値の95%信頼区間の大・中・小の閾値との交差と合わせて慎重に判断する必要があります。

OISは臨床的に意味のある効果推定値を証明するのに必要なサンプルサイズ。エビデンスの確実性の評価で、部分的文脈化あるいは完全文脈化アプローチを用いる場合は、大・中・小の閾値を設定する必要があり、それぞれに対する必要なサンプルサイズを計算するので、RISという用語を用いる。OIS: Optimal Information Size最適情報量; RIS: Review Information Sizeレビュー情報量

閾値の設定は困難な課題ですが、次のような情報を根拠とすることが提案されています:
•効用値と絶対効果から閾値を設定している研究を参照する。
•効用値に関する研究を参照する。
•閾値が用いられた診療ガイドラインを参照する。
•疾患専門家や意思決定に関与する利害関係者が何らかの情報(経験、文献情報)に基づいて、効用値を考えながら閾値を設定する。

また閾値を設定は、まずアウトカムの重要度を設定し、その後に行うべきとされています。以下の点に留意する必要があります:
•アウトカムの重要度をエビデンス評価の前に決めておく。
•アウトカムの重要度を決めてから閾値を設定する。
•アウトカムの重要度に関する新知見が得られたら閾値をアップデートする。
•アウトカムの重要度は少なくとも疾患に特異的であり、相対的な値なので、同じアウトカムがどのような疾患でも同じ価値を持つわけではない。また、介入により取り扱うべきアウトカムが異なることもあるので、同じ疾患でも、他のアウトカムの構成によって同じアウトカムでも異なる値を設定することがありうる。0~100(あるいは0~1.0)の値を設定する。

また連続変数アウトカムの場合の閾値の設定に関しては以下の提案がされています:
•大・中・小の閾値に関する経験的推定値がある場合、それを用いる。例:Chronic Respiratory Questionnaire 7ポイントスケールの場合、0.5, 1.0, 1.5; Visual Analogue Scaleの場合6, 10, 14
•Minimally Important Difference (MID)の推定値が得られる場合、それを小さい効果の閾値として用いる。
•標準化平均値差(SMD)を用いて、SMD 0.2, 0.5, 0.8に閾値を設定する。
•何らかの情報に基づく専門家の推定値。

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Hultcrantz M 2017で述べられていた完全文脈化のアプローチのステップは以下の様になります:

1.絶対効果の大きさとアウトカムの重要性の積の総和として正味の益を計算する(Alper BS 2019)。
2.各アウトカムに対する絶対効果の上限値と下限値で正味の益が逆転するかを見る。(逆転の閾値は0または評価者が設定した値)。
3.逆転する場合は、そのアウトカムに対する効果の不精確性をレートダウンし、(他のエビデンスの確実性評価ドメインと合わせて)エビデンス総体のエビデンスの確実性をレートダウンする。

なお、連続変数アウトカムの場合はそのままでは正味の益の計算に含めることはできません。

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Schünemann HJ 2022の論文で述べられている完全文脈化のアプローチのステップは以下の様になります:

0.  部分的文脈化アプローチで各アウトカムに対する効果推定値の不精確性の評価を行う。
1.益のアウトカムに対する効果推定値の95%信頼区間下限値に基づいてありうる最小の望ましい絶対効果量を特定する。
2.害のアウトカムに対する効果推定値の95%信頼区間上限値に基づいてありうる最大の望ましくない絶対効果量を特定する。
3.最小の望ましい効果を集約(aggregate)し、それに基づいて介入を推奨するのに許容しうる最大のありうる望ましくない効果の総和(overall)を決める(必要に応じて費用なども考慮する)。個々の望ましくないアウトカムに対する効果のありうる最大値に基づいて不精確性のレーティングを変更する必要があるかを決めるのにこの総和の閾値を考慮する。複数の望ましくない効果がある場合、これを各アウトカムについて個別に、あるいは集積した上で、行わなければならないことに留意する。
4.望ましくない効果の信頼区間が、許容しうる最大のありうる望ましくない効果の閾値と重なるかどうかを判定する。もし「はい」なら、完全文脈化アプローチの精確性のレーティングは変更されない。益と害のバランスが確実でないかもしれない、すなわち、明確な正味の望ましい健康効果がないため、ガイドライン委員会は通常、条件付推奨とする。
5.閾値が交差しない場合、不精確性に基づく不確実性は決定に影響を与えない可能性があり、正味の望ましい効果があるため、望ましい効果と望ましくない効果に対する不精確性の確実性を下げることは、推奨や決断のために必要ないであろう(これはまれであろう)。そして、総体のエビデンスの確実性が全体として中または高い場合、ガイドライン委員会は多くの場合、強い推奨とする。エビデンス全体の確実性が非常に低いか低い場合、たとえ正味で望ましい効果があったとしても、ガイドライン・パネルは通常、条件付き推奨とする。
注)例を挙げていないが、仮に、部分的に文脈化されたアプローチを用いて、どのアウトカムも不精確性で格下げが行われなかったとしても、すべての望ましいアウトカムまたはすべての望ましくないアウトカムの不確実性の累積が、望ましいアウトカムまたは望ましくないアウトカムの累積効果を不精確にする可能性がある。すべての望ましい結果または望ましくない結果を組み合わせた後の累積不確実性が非常に大きく、信頼区間が閾値を超えるような場合には、1つまたは複数の主要なアウトカムの不精確性を理由とした格下げが正当化される可能性がある。

なお、同論文には部分的文脈化のアプローチのステップも記述されていますので、必要に応じて、参照してください。

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完全文脈化のアプローチは複雑で、実行も容易とは思えません。各アウトカムに対する効果推定値の95%信頼区間の幅を評価する際に、大・中・小の区切りを閾値として設定するだけの様にも見えますし、大・中・小の閾値の設定はアウトカムの重要度の設定と同じように、個人によって差が出てくるように思えます。また、もともと絶対効果が小さい、あるいは、重要度が低いアウトカムに対する効果推定値の不確実性は、意思決定あるいは推奨に影響しない可能性が高く、エビデンスの確実性の厳密な評価をする意義が低くなると思います。

文献:
Hultcrantz M, et al: The GRADE Working Group clarifies the construct of certainty of evidence. J Clin Epidemiol 2017;87:4-13. doi: 10.1016/j.jclinepi.2017.05.006 PMID: 28529184

Alper BS, et al: Defining certainty of net benefit: a GRADE concept paper. BMJ Open 2019;9:e027445. doi: 10.1007/s11882-011-0185-8 PMID: 31167868

Zeng L, et al: GRADE guidelines 32: GRADE offers guidance on choosing targets of GRADE certainty of evidence ratings. J Clin Epidemiol 2021;137:163-175. doi: 10.1016/j.jclinepi.2021.03.026 PMID: 33857619

Schünemann HJ, et al: GRADE guidance 35: update on rating imprecision for assessing contextualized certainty of evidence and making decisions. J Clin Epidemiol 2022;150:225-242. doi: 10.1016/j.jclinepi.2022.07.015 PMID: 35934266

連続変数を二値化したスコアにする:閾値による割合スコア

連続変数を標準化することで、0~1の範囲の値に変換し、異なるアウトカムに関する効果推定値を互いに比較できるようにする方法について解説しました。もし、正規分布に従うことを仮定できるのであれば、閾値を設定して、曲線下の面積を比較することで、効果の大きさを表すことができるはずです。対照に対する介入の正味の益を計算したい場合、二値変数アウトカムと連続変数アウトカムの両方ある場合、連続変数を二値化したスコアにすることで、望ましい効果が得られた、あるいは、望ましくない効果が起きた対象者の割合を表すことができ、二値変数アウトカムと同じように扱えるはずです。そのアウトカムの重要度の設定もやりやすくなるはずです。


例えば、対照群と介入群の平均値と標準偏差から、望ましい値の下限値を閾値として設定すると、介入により、望ましい値の範囲に含まれる対象者の割合の変動を計算することができます。つまり、対照群と介入群の、絶対リスクの値と標準偏差の値が、分かれば、例えば、Rでの関数はpnorm(閾値,平均値,標準偏差)、あるいは、Excelでの関数はNORM.DIS(閾値,平均,標準偏差,TRUE)を用いて計算することができます。

Rのスクリプトであれば、以下の様に記述できます。

S=(1-pnorm(Th,Eik,SDik))-(1-pnorm(Th,Ejk,SDjk))=pnorm(Th,Ejk,SDjk)-pnorm(Th,Eik,SDik)

Excelの式であれば、以下の様になります。

=(1-NORM.DIST(Th,Eik,SDik,TRUE))-(1-NORM.DIST(Th,Ejk,SDjk,TRUE))

すなわち、

=NORM.DIST(Th,Ejk,SDjk,TRUE)-NORM.DIST(Th,Eik,SDik,TRUE)

閾値による割合(PD)スコアは、もし対象と介入の平均値が同じで、標準偏差も同じであれば、0になります。一方、介入の平均値が正常の平均値になれば、ほぼ1になります。あり得る最小値は0、あり得る最大値は1です。*PD: Proportion Difference

スライドの例は、血清アルブミン値のように、値が大きい方が望ましい連続変数アウトカムです。

例えば、HbA1cの様に、値が小さい方が望ましい連続変数アウトカムの場合は、閾値は正常の上限値に設定するか、臨床的に意義のある値に設定し、以下の式で割合(PD)スコアが計算できます。スライドに示す、値が大きい方が望ましい場合の計算で得られた結果の正負を逆にするのと同じ値になります。

Rのスクリプト:
S=pnorm(Th,Eik,SDik)-pnorm(Th,Ejk,SDjk)

Excelの場合:
=NORM.DIST(Th,Eik,SDik,TRUE)-NORM.DIST(Th,Ejk,SDjk,TRUE)

閾値Thは臨床検査の様に基準値が設定されている場合は、それを用いることが考えられます。また、介入により基準値の範囲にまで、改善することではなく、臨床的に意味のある値を、閾値に設定することも考えられます。

閾値を設定して、望ましい値の範囲に含まれる対象者の割合が介入によりどれだけ増加する、あるいは、減少するかをスコアとして示すことで、二値変数アウトカムの場合のリスク差と同じように取り扱うことができます。アウトカムの重要度の設定も相対的な比較がより容易になると考えられます。

標準化で得られる値は、sjk=0.687, sik=0.726, Sij=0.0393と全く異なります。


連続変数に対して閾値による割合(PD)スコアおよび二値変数はイベント率から正味の益を計算するためのExcelの計算表:あくまで参考資料で、完成版ではありません。。いろいろ値を入力して試すのは構いません。

URL: https://info.zanet.biz/lec/srsz/mcda_score_weight/abs_risk_prop.xlsx

(右クリックしてダウンロードして用いてください)

連続変数アウトカムの場合に、二値変数アウトカムの場合に効果指標として用いられるリスク比、オッズ比、リスク差などに変換する方法はいくつか提案されています(Guyatt GH 2012)。対照群と比較して介入群でどれくらいの効果が示されたかを知りたい訳ですが、連続変数のままでは、どれくらいの割合の人が良い状態になったかについては分かりません。それを知るには、ここで述べたような割合スコアを求めて、介入群の割合-対照群の割を計算してリスク差として評価する方法がひとつの方法です。設定した閾値以上の人の割合がどれくらい変化したか直接知ることができ、益と害の判定がやりやすくなります。

文献:
Guyatt GH, Thorlund K, Oxman AD, Walter SD, Patrick D, Furukawa TA, Johnston BC, Karanicolas P, Akl EA, Vist G, Kunz R, Brozek J, Kupper LL, Martin SL, Meerpohl JJ, Alonso-Coello P, Christensen R, Schunemann HJ: GRADE guidelines: 13. Preparing summary of findings tables and evidence profiles-continuous outcomes. J Clin Epidemiol 2013;66:173-83. doi: 10.1016/j.jclinepi.2012.08.001 PMID: 23116689

(2024.12.16追加)