我が国の医療経済評価への取り組み:技術的方法論

厚生労働省の政策科学総合研究事業(政策科学推進研究事業)「医療経済評価の政策 応用に向けた評価手法およびデータの確立と評価体制の整備に関する研究」班 による「費用対効果評価の分析ガイドライン改定案について」が公開されています。

これは、中医協(費用対効果評価・薬価・保健医療材料 専門部会合同部会)の2019年1月23日 厚生労働省資料の中の 、中央社会保険医療協議会費用対効果評価専門部会・薬価専門部会・保険医療材料専門部会合同部会(第15回)事次第に含まれています。費薬材-3(PDF:455KB)としてPDFファイルをダウンロードできます。

この費用対効果評価の分析ガイドライン改定案」から重要と思われる点を一部抜粋して以下に記述します。このガイドラインは案であることを認識した上で、また以下の記述は抜粋なのでもし各自が評価したい場合は必ず上記のリンクから全文を得て熟読してからして下さい。

1.1 本ガイドラインは、中央社会保険医療協議会において、評価対象として選定された医薬 品・医療機器(以下、評価対象技術)の費用対効果評価を実施するにあたって用いるべき分 析方法を提示している。
2.2 費用や比較対照技術、対象集団などについて公的医療保険制度の範囲で実施する 「公的医療の立場」を基本とする。
5.1 費用対効果を検討するにあたっては、評価対象技術の比較対照に対する追加的な有用 性の有無を評価する
6.1 効果を金銭換算せず、費用と効果を別々に推計する費用効果分析を分析手法として用 いることを原則とする。  
6.2 「5.」の分析に基づき、追加的有用性が示されていると判断される場合には、各群の期 待費用と期待効果から増分費用効果比(Incremental cost-effectiveness ratio: ICER) を算出する。
6.3.1 対照技術と比べて効果が同等以上(増分効果の大きさが非負)で、かつ費 用が安い場合。このとき、ICER を算出せずに優位(dominant)であるとする。
6.3.2 対照技術と比べて効果が同等以下(増分効果の大きさが非正)で、かつ費 用が高い場合。このとき、ICER を算出せずに劣位(dominated)であるとする。
6.3.3 「5.」の分析により、アウトカムは同等と考えられるものの、追加的有用性を 有すると判断できない場合には、比較対照技術との費用を比較する。(いわゆる「費 用最小化分析(Cost-minimization analysis :CMA)」)
7.1 評価対象技術の費用や効果におよぼす影響を評価するのに十分に長い分析期間を用 いる。
8.1 効果指標は質調整生存年(Quality-adjusted life year: QALY)を用いることを原則 とする。
8.1.1 QALY を算出することが困難であり、かつ CMA を実施する場合は、協議に おける両者の合意のもとで、QALY 以外の評価尺度を使用することもできる。
8.2 QALY を算出する際の QOL 値は、一般の人々の価値を反映したもの(選好に基づく尺 度(preference-based measure: PBM)で 測 定 し た も の 、 あ る い は 基 準 的 賭 け (Standard gamble: SG)法時間得失(Time trade-off: TTO)法などの直接法で測定し たもの)を用いる。ただし、TTO と SG での測定値には系統的な差がある可能性について留 意すること。
10.4 各健康状態の費用の推計において、適切な場合には、「10.3」の観点から実臨床を 反映した国内におけるレセプトのデータベースを用いることを推奨する。ただし、レセプト上で 健康状態の定義が困難である、評価時点においてデータの十分な蓄積がないなど、推計の 実施が困難な場合はその限りではない。
11.1 公的介護費用や当該疾患によって仕事等ができない結果生じる生産性損失は、基本 分析においては含めない
12.1 将来に発生する費用と効果は割引を行って、現在価値に換算しなければならない。  
12.1.1 ただし、分析期間が 1 年以下、あるいは短期間でその影響が無視できる 程度であるときは、割引を行わなくてもよい。
12.2 費用・効果ともに年率 2%で割引を行うこととする。
12.3 割引率は、感度分析の対象とし、費用・効果を同率で年率 0%から 4%の範囲で変化 させる。
13.1 「7.」の原則に基づき、予後や将来費用を予測するために決定樹モデル、マルコフモ デル等を用いたモデル分析を行ってもよい。
14.6 確率的感度分析(Probabilistic sensitivity analysis: PSA)もあわせて実施すること が望ましい。その場合、使用した分布についても明らかにするとともに、費用効果平面上の散 布図費用効果受容曲線(Cost-effectiveness acceptability curve: CEAC)を提示す る。

以上、費用対効果分析Cost-effectivness analysis (CEA)を行う際のガイドラインの一部をあくまで、CEAの技術的方法論の視点から紹介しました。

「我が国の医療経済評価への取り組み:技術的方法論」への2件のフィードバック

  1. コメント欄のテストも兼ねて質問させていただきます。
    これは、新しいやデバイスの薬価申請時に、標準薬と比べて有意な根拠を示すときのガイドラインということでしょうか。エビデンスレベルとしてMinds2007の図を挙げて頂いていますが、Mindsから出す診療ガイドラインのための医療経済評価のガイドラインは、理論武装された世界標準の仕様でお願いしたいです。

    1. 1.1のところに書かれている通りです。中央社会保険医療協議会において用いる方法です。

      1.1 本ガイドラインは、中央社会保険医療協議会において、評価対象として選定された医薬 品・医療機器(以下、評価対象技術)の費用対効果評価を実施するにあたって用いるべき分 析方法を提示している。

      Mindsのマニュアル中に追加する医療経済評価の方法論についてはまだ最終形は出てきていません。
      もともとCost-effectiveness analysis (CEA)の際にSRから得られる効果指標の値はバイアスリスクや非直接性で定量的に調整が行われていないですし、GRADEアプローチが採用されているとは限らないです。
      Cochraneの方法や、GRADEアプローチで不確実性を評価しても効果指標の値にそれを反映させることをしていないので、CEAの際にはProbabilistic sensitivity analysisで効果指標の値も含めたパラメータの値をいろいろ設定して検討することで、対処できるはずです。

      また、中医協のこの方法は世界標準と変わらないと思います。

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