Multi-Criteria Decision Analysis (MCDA)

MCDA多基準決断分析はMultiple Criteria Decision Analysisとも呼ばれています。MCDAでは、選択肢がいくつかある場合、それらを比較するための判定基準となる評価項目あるいは基準項目Criteriaをいくつか設定しモデルを作成します(図)。

評価項目の相対的重要性を決め、さらにそれぞれの評価項目ごとにどの選択肢が好ましいかを決めます。これらの決め方にはいろいろな方法があります。たとえば、Analytic Hierarchy Process (AHP)階層分析法では9分の1から9倍まででスコアリングします(図)。

各選択肢について選択肢の比較のスコアと基準項目の比較に基づく重みの積を合計してひとつの値に集約し、その値が最大の選択肢を最善の選択肢とします。多くの場合、スコアと重みは標準化(合計が1あるいは100%)になる様に変換する)してから計算が行われ、Eigen valueを用いたり、Centroidが用いられたりすることも行われています。AHPとOrdinal method(Rank order method)順位法については森實敏夫:第35回 価値観を反映した益と害の評価法。あいみっく 2015;36:86-91.を参考にして下さい。

さて、MCDAにはさまざまな手法がありますが、ISPOR MCDA Emerging Good Practices Task ForceがMCDAに関する2つの報告を出しています(文献リスト)。

その中でThokala P 2016ではMCDAが適用されるであろう例としてShared Decision Making協働意思決定を上げています。SDMにおける患者と臨床家のMCDAの適用は、”関連するリスクとベネフィットが症例ごとに異なる場合、患者さんが異なる好み(preferences)を持っている場合の一度きりの決断(one-off decision)。したがって、基準とその重要性は決断ごとに異なる。”場合であると。

我が国の医療経済評価への取り組み:技術的方法論

厚生労働省の政策科学総合研究事業(政策科学推進研究事業)「医療経済評価の政策 応用に向けた評価手法およびデータの確立と評価体制の整備に関する研究」班 による「費用対効果評価の分析ガイドライン改定案について」が公開されています。

これは、中医協(費用対効果評価・薬価・保健医療材料 専門部会合同部会)の2019年1月23日 厚生労働省資料の中の 、中央社会保険医療協議会費用対効果評価専門部会・薬価専門部会・保険医療材料専門部会合同部会(第15回)事次第に含まれています。費薬材-3(PDF:455KB)としてPDFファイルをダウンロードできます。

この費用対効果評価の分析ガイドライン改定案」から重要と思われる点を一部抜粋して以下に記述します。このガイドラインは案であることを認識した上で、また以下の記述は抜粋なのでもし各自が評価したい場合は必ず上記のリンクから全文を得て熟読してからして下さい。

1.1 本ガイドラインは、中央社会保険医療協議会において、評価対象として選定された医薬 品・医療機器(以下、評価対象技術)の費用対効果評価を実施するにあたって用いるべき分 析方法を提示している。
2.2 費用や比較対照技術、対象集団などについて公的医療保険制度の範囲で実施する 「公的医療の立場」を基本とする。
5.1 費用対効果を検討するにあたっては、評価対象技術の比較対照に対する追加的な有用 性の有無を評価する
6.1 効果を金銭換算せず、費用と効果を別々に推計する費用効果分析を分析手法として用 いることを原則とする。  
6.2 「5.」の分析に基づき、追加的有用性が示されていると判断される場合には、各群の期 待費用と期待効果から増分費用効果比(Incremental cost-effectiveness ratio: ICER) を算出する。
6.3.1 対照技術と比べて効果が同等以上(増分効果の大きさが非負)で、かつ費 用が安い場合。このとき、ICER を算出せずに優位(dominant)であるとする。
6.3.2 対照技術と比べて効果が同等以下(増分効果の大きさが非正)で、かつ費 用が高い場合。このとき、ICER を算出せずに劣位(dominated)であるとする。
6.3.3 「5.」の分析により、アウトカムは同等と考えられるものの、追加的有用性を 有すると判断できない場合には、比較対照技術との費用を比較する。(いわゆる「費 用最小化分析(Cost-minimization analysis :CMA)」)
7.1 評価対象技術の費用や効果におよぼす影響を評価するのに十分に長い分析期間を用 いる。
8.1 効果指標は質調整生存年(Quality-adjusted life year: QALY)を用いることを原則 とする。
8.1.1 QALY を算出することが困難であり、かつ CMA を実施する場合は、協議に おける両者の合意のもとで、QALY 以外の評価尺度を使用することもできる。
8.2 QALY を算出する際の QOL 値は、一般の人々の価値を反映したもの(選好に基づく尺 度(preference-based measure: PBM)で 測 定 し た も の 、 あ る い は 基 準 的 賭 け (Standard gamble: SG)法時間得失(Time trade-off: TTO)法などの直接法で測定し たもの)を用いる。ただし、TTO と SG での測定値には系統的な差がある可能性について留 意すること。
10.4 各健康状態の費用の推計において、適切な場合には、「10.3」の観点から実臨床を 反映した国内におけるレセプトのデータベースを用いることを推奨する。ただし、レセプト上で 健康状態の定義が困難である、評価時点においてデータの十分な蓄積がないなど、推計の 実施が困難な場合はその限りではない。
11.1 公的介護費用や当該疾患によって仕事等ができない結果生じる生産性損失は、基本 分析においては含めない
12.1 将来に発生する費用と効果は割引を行って、現在価値に換算しなければならない。  
12.1.1 ただし、分析期間が 1 年以下、あるいは短期間でその影響が無視できる 程度であるときは、割引を行わなくてもよい。
12.2 費用・効果ともに年率 2%で割引を行うこととする。
12.3 割引率は、感度分析の対象とし、費用・効果を同率で年率 0%から 4%の範囲で変化 させる。
13.1 「7.」の原則に基づき、予後や将来費用を予測するために決定樹モデル、マルコフモ デル等を用いたモデル分析を行ってもよい。
14.6 確率的感度分析(Probabilistic sensitivity analysis: PSA)もあわせて実施すること が望ましい。その場合、使用した分布についても明らかにするとともに、費用効果平面上の散 布図費用効果受容曲線(Cost-effectiveness acceptability curve: CEAC)を提示す る。

以上、費用対効果分析Cost-effectivness analysis (CEA)を行う際のガイドラインの一部をあくまで、CEAの技術的方法論の視点から紹介しました。