成人で急性虫垂炎になった場合、抗菌薬投与による保存的治療を受けるか外科的虫垂切除を受けるか?どちらの方が良いだろう?
これら2つの治療的介入を比較した4件のランダム化比較試験のメタアナリシスの結果得られた効果推定値を用いて解析してみます。
Swing weightingによるアウトカムの重要度の設定、すなわち、重みの設定には図のような最善の効果(矢じり)、最悪の効果(縦線)を表したグラフが役に立ちます。
アウトカムとカッコ内に単位が書いてあります。値が大きい方が最善になるものと、逆に値が小さい方が最善になるものがあります。”Swing”つまり、横幅が大きいものと小さいものがあります。
大きい場合は、二つの介入の効果の差が大きいことになります。たとえば、虫垂切除(1か月以内)(率)をみると、最善は約0.05つまり約5%で、最悪は約1.0つまり100%です。手術を受けないで治癒することが良いことであるという考えが背景にあるので、手術を受ける介入は約100%手術になり、抗菌薬の治療を受ける介入は1か月以内でみると約9%の人しか手術をうけません。ここでは、それぞれ95%信頼限界の値を最善値、最悪値に設定していますので、もう少し幅が広くなり、100%→4.8%になっています。
他のアウトカムについても、ありうる最善の効果と最悪の効果として95%信頼限界の値の中の最大値あるいは最小値を設定してあります。
このグラフを見ながら、どのアウトカムを一番重要と考えますか?
急性虫垂炎は手術を受ければ、それで治ります。今は、腹腔鏡下の手術で傷跡も小さく、数日の入院で済みます。そして、二度と虫垂炎になることはありません。つまり、再発は0です。一方で1か月以降1年以内の再発無し(率)を見ると、抗菌薬の治療では最悪30%くらいが1年以内に再発します。そうなると、その時点で結局は手術を受けることになってしまいます。
例えば、ある人は”1か月以降1年以内の再発無し”のアウトカムを一番重要と考えました。いつ再発するか心配しながら生活するのは嫌だと思いました。そうすると、このアウトカムの重みは100にします。それ以外のアウトカムについても、このアウトカムと比べて相対的にいくつにするかを考え、結論としてその人は、虫垂切除(1か月以内)20、主要な合併症20、そのほかの合併症15、入院期間10、病休期間20、費用5という重みを設定しました。
このような選好Preferenceの人の場合、抗菌薬投与による保存的治療を受ける方がいいのか、それとも外科的虫垂切除を受ける方がいいのかどちらになるでしょうか?
手術を受けないで済めばそれに越したことはないと考えて、虫垂切除(1か月以内)を20ではなく60にしたらどうなるでしょうか?
さらに、やはり傷跡が残るのは嫌なので、手術を受けないで済むことが一番重要でしかも”Swing”も一番広いからと考えて、虫垂切除(1か月以内)を100にして、1か月以降1年以内の再発無しを70にしたらどうなるでしょう?
益と害のアウトカムが複数あり、介入の効果がすべてのアウトカムについて一つの治療選択肢が優れていれば、判断は容易です。トレードオフがあって、効果の程度もさまざまな場合には、直観的に決めるのが難しくなります。特に、介入の間の差が小さいとさらに判断が難しくなります。このような際にはSwing weightingを用いたMCDAは有用なツールになりえます。
また、価値観が人によって異なり、最善の選択肢が人によって変わるかもしれない、さらに、選択肢の間の差が小さい、このような際にはSwing weightingを用いたMCDAはその個人の選択の適切さを確認するための有用なツールになりえます。
さて、アウトカム毎の”Swing”グラフに2つの選択肢の効果推定値、この場合は率または平均値ですが、の表示を追加したグラフを示します。上のグラフと比べて、どちらの方が、重みの決定がやりやすいでしょうか?