Storyboardストーリーボード

ストーリーボードはさまざまな目的で使われています。例えば、ビデオの作成の際に絵コンテを作成して、全体のストーリーを考えたり、確認したりということは聞いたことがあると思います。レクチャー、セミナー、プレゼンテーション、ワークショップ、実習、eLearning、等々を構想、設計する時に利用できます。

THINKIFICではストーリーボードを次の様に解説しています:”ストーリーボードは、映画制作をルーツとする企画手法である。元々、ストーリーボードは、映画やアニメーションのイベントのシーケンスを事前に視覚化するために使用されていた。教育分野では、コース、レッスン、講義、その他あらゆる種類の学習体験の内容を計画するのに役立つ。情報の優先順位付け、トレーニングプログラムの要素を論理的な順序に並べる、ビデオ教材のマッピング、音声ナレーションの計画など、さまざまなことに役立つ。”

医学の領域でも、例えば、健康診断のデータをモバイル用に可視化したり、生活習慣病に対する教育コンテンツを作成したりするのに、ストーリーボードを用いたという報告(Aida A 2020)があります。心肺蘇生の学習ビデオを作成する際にスクリプト、ストーリーボードを用いたという報告(Alves MG 2019)もあります。文献欄にいくつかリストアップしておきます。

レクチャーを設計する際や、eLearningのコンテンツを設計・制作する際に、案を練る、共同制作者と議論する、ステークホルダの意見を聴く、等の際に有用と考えられます。

いろいろなフォーマットが使われていますが、Devlin Peck氏のYouTubeの動画、How to write a storyboard?では基本形がいくつか紹介されています。Wordでこの投稿の最後に示すような表形式で、連続したコンテンツを書いていけばストーリーボードができます。このようなフォーマットであれば、プロンプト、ナレーションの文章、プログラミング、画像、オンスクリーンのテキストなど、詳細を検討することができます。

また、MindMapのようなフォーマットでもストーリーボードを作ることができます。このようなフォーマットは、全体の流れを確認したり、足りない要素が無いか確認したりすることに向いています。一例はこちらです。

Subject Matter Expert (SME)やContents expert (CE)は一人で教材の制作を行っていることが普通でしょう。あるいは今まで行ってきたと思います。文章を中心としたコンテンツについてはそれで十分かもしれません。教科書を読めばいいのであれば、それで十分かもしれません。

しかし、マルチメディアを活用したeLearning教材では、PowerPointのスライドにナレーションを付けただけよりも、もっと複雑なコンテンツを作ることができ、それがより優れた教育的効果あるいはコンピテンシーの獲得につながることが証明されているものもあります。少なくとも教科書とオンラインのeLearning教材の両方ある方が、医学部の学生には好まれているということが報告されています。また、医療技術を学ぶには、Virtual reality, Extended virtual realityも含めた、マルチメディア学習教材が安全性の面から有用であり、学習効果の点からも有効であることは容易に想像できます。

ストーリーボードは製作者の立場で作るだけでなく、例えば、学習者を主人公にして作ることもできます。対象の学習者は学生や研修医だけでなく、患者さん、介護者、一般市民も含まれます。これら学習者の立場に立った、ストーリーボードを作成することは、学習体験Learning expericnesを明確にし、コンテンツや方略をブラッシュアップするのに役立つと思います。学習者が学習を開始し、学習体験を進めて行く中で何を見て、何を聞いて、何をして、何を感じ、何を獲得するかを熟考し、学習者を含めたステークホルダーのインプットを取り入れるのにも役立ちます。

文献:
Aida A, Svensson T, Svensson AK, Urushiyama H, Okushin K, Oguri G, Kubota N, Koike K, Nangaku M, Kadowaki T, Yamauchi T, Chung UI: Using mHealth to Provide Mobile App Users With Visualization of Health Checkup Data and Educational Videos on Lifestyle-Related Diseases: Methodological Framework for Content Development. JMIR Mhealth Uhealth 2020;8:e20982. doi: 10.2196/20982 PMID: 33084586

Alves MG, Batista DFG, Cordeiro ALPC, Silva MD, Canova JCM, Dalri MCB: Production and validation of a video lesson on cardiopulmonary resuscitation. Rev Gaucha Enferm 2019;40:e20190012. doi: 10.1590/1983-1447.2019.20190012 PMID: 31389480

Roberts ML, Mazurak JOE. Virtual Clinical Experiences in Nursing Education: Applying a Technology-Enhanced Storyboard Technique to Facilitate Contextual Learning in Remote Environments. Nurs Educ Perspect. 2021 Aug 23. doi: 10.1097/01.NEP.0000000000000883. Epub ahead of print. PMID:34431824.

Rim D, Shin H. Effective instructional design template for virtual simulations in nursing education. Nurse Educ Today. 2021 Jan;96:104624. doi: 10.1016/j.nedt.2020.104624. Epub 2020 Oct 10. PMID: 33099091.

Storyboardのテンプレートの例
Storyboardのテンプレートの例

EPAとCompetency

Entrustable Professional Activities (EPA)”委託可能な専門的活動”については、以前の投稿で解説しました。

コンピテンシーは個人の能力=知識、技能、態度、他のことを示して用いられることが多く、コンピテンスはその職業や業務に必要な能力という意味でより公式の意味合いで用いられることが多く、中身はほぼ同じです。

EPAとコンピテンシーの違いについてはどうでしょうか?Society of American Gastrointestinal and Endoscopic Surgeons (SAGES)は年次集会やウェビナーから有用な内容のものをYouTubeのチャンネルで紹介しています。その中で、2019年 Brenessa Lindeman, MD, MEHPによる”Entrustable Professional Activities – Competency Assessment as a Day-to-Day Activity”というタイトルの講演を見ることができます。

この講演から、アメリカにおける専門医教育の現状、Competency-Based Medical Education (CBME)やEPAについての情報が得られます。

Lindeman先生によると、コンピテンシーとEPAの違いは次の様になります。

項目コンピテンシーEPA
評価単位個人の能力活動のアウトカム
内容文脈に依存しない臨床の文脈に埋め込まれている
スコープ個々の能力の知識/技能/態度を取り扱う統合化された能力の知識/技能/態度を取り扱う
Dr. Brenessa Lindeman, MD, MEHP, at SAGES meeting in 2019.

個人のEPAの評価は毎日の活動に対して行われ、0. 見学だけ、1. 直接的指導・監督の下で行える、2. 間接的な監督の下で行える、3. 監督無しで行える、4. 自分が他の人の指導・監督ができる、のレベル評価を、Patient Care (PC), Knowledge for Practice (KP), Practice-Based Learning and Improvement (PBLI), Interpersonal and Communication Skills (IPC), Professionalism (P), Systems-Based Practice (SBP), Interprofessional Collaboration (IPC), Personal and Professional Development (PPD)などのそれぞれのコンピテンシーの観点から評価するとのこと。

EPAという概念を取り入れることで、すべてが変わると言えるほどの変化が医学教育、臨床の教育にもたらされるように思えます。

Action Mappingアクションマッピング

Cathy MooreによるAction Mapping – A visual approach to training designについて簡単に紹介します。

アクションマッピング

ゴールは知識を増やすことではない。
知識=情報ではない。
クイズを用意すればそれで十分ではない。

ゴールを達成するには、知識だけではなくアクションが必要。

アクションマッピングが必要。

⒈ ゴールを設定する。具体的にxができるようになり、yが得られる。ゴールは測定可能でなければならない→関連あるアクティビティをデザインする、必須のコンテンツを決める、プロジェクトの成功を評価する、あなたの仕事がビジネスをどのようにサポートするかを示す。

ゴールを中心に置く。

⒉  人々が何をする必要があるのかを同定する。(何を知る必要があるかではない!)知識ではなくアクションを!

ゴールの周囲にアクションを配置する。
人々がなぜ必要なアクションを取らないのかを同定する。
何がそれを困難にしているのか?知識?スキル?動機付け?環境(ツール、カルチャー、プロセス、etc)
トレーニングは問題を解決するだろうか?知識、スキルはトレーニングの対象、しかし、動機付け、環境はトレーニングの対象では無い。
人々はなぜそれをしていないのか?

⒊ それぞれのアクションに対して、リアルな練習アクティビティをデザインする。ゴールの周囲に練習アクティビティを配置する。現場での実作業に役立つ練習アクティビティ。

⒋ 人々は何を本当に知っていないといけないのか?それぞれのアクティビティーを完遂するために、人々が持っていないといけない情報を同定する。最小限度の情報に限定する。

情報を練習アクティビティに関連付けて配置する。そのアクティビティーを直接サポートする知識以外は含めないこと。

全ての要素がゴールをサポートすることを確認する。

⒌ 練習アクティビティと情報を一連の流れにまとめる。

アクションマップの利点
焦点を絞った無駄のない教材。
現実的で説得力のあるアクティビティー。
関係のない情報を含まない。
現実的で測定可能な成果が得られる。

以下は投稿者の意見です:すべての教育が、アクションができるようになることが目的ではないので、学習者の特性や、学習目的によっては、知識の獲得とその応用が重要な場合も多いでしょう。ここでは情報と呼んでいて、練習でのアクティビティの際に、その情報があれば、アクションができると考えているので、Cognitive loadが小さいことを前提としているように思えます。(普通の認知能では、Working memoryは5~7つの項目しか保持できないことが示されています。)実際には、記憶していることと、その場で得た情報とを、総合的に用いて何らかのアクションをするので、目的によってAction Mapが、トレーニングの設計に最適だと言えない場合もあるかもしれません。しかし、実習を設計するのであれば、非常に有用と考えられます。予習を前提にするFlipped classroomの場合も有用かもしれません。

文献:
Cathy Moore: Map It: The hands-on guide to strategic training design. 2017, Montesa Press.

Cathry Mooreのウェブサイトはこちら

ASPIREモデル

ASPIREモデルは、ソフトウェア開発では一般的とされているステップを含んでいますが、質の高いヘルスケアデジタルトレーニングをデザインするのにも最適とされているモデルです。簡単にまとめてみました。カリキュラム、学習コース、トレーニング、eラーニングを制作する時にASPIREモデルを考えてみてください。

図 ASPIREモデル(Konstantinidis ST 2021)。

Aims:  ①学習者の特徴、②カバーすべきトピック領域、③学習ゴール
Storyboard:  ステークホルダが協働してアイディアを出し、ストーリーボードを用いて、コンテンツを決め、リソースをデザインする。
Population/Production (Populate 配役 &Produce 制作): アイディアからメディアコンポーネントを作成する。
Integration: メディアコンポーネントを配置、統合して学習リソース(ウェブページ、動画、クイズ、インタラクティブなウェブ等)を制作する。例えば、HTML5が基盤として用いられる。
Release: Virtual learning environment (VLE)、ウェブ、レポジトリーなどで公開する。
Evaluate: トレーニング/学習リソースを評価する。

特徴
Participatory co-design principles デザイン協働参加のプリンシプル (根拠となる学習理論がある。デジタルテクノロジーの使用は、テクノロジーそのものではなく教育学の成果に基づいてリードされるべきである!)テーマによっては共同制作co-creationもありえます。

最初のステップASと最後のステップEで、エンドユーザー、その他のステークホルダの意見、専門的見解expertise、希望、経験を聴くことが強調されています。ただし、必ずしもそれらをそのまま取り入れるわけではありません。

また、プラクティスのコミュニティー形成を重要視する。

ストーリーボードは映画製作で用いられる絵コンテのようなもの。

Evaluationについては、Kirkpatrick Modeが知られている。
Level 1: 質の評価。
Level 2: アウトカムの評価。
Level 3: 行動変容の評価。
Level 4: インパクト(個人、その分野、社会、他への)

Level 1: Reaction: 学習者がトレーニングを自分の仕事と関連深いと思ったか、興味深いと思ったか。有用と思ったかを測定。
Level 2: アLearnig: 学習者がトレーニングプログラムが焦点を定めた知識、スキル(技能)、態度、自信、覚悟を持てたかどうかを測定。
Level 3: Behavior: 学習後の行動の変化を測定し、彼らがトレーニングで学習したことを取り上げ、自分の仕事に適用しているかを見る。
Level 4: Results: 組織のメンバーの支持とアカウンタビリティとともに、目的のアウトカムがトレーニングプログラムの結果としてもたらされたのかを測定する。

eラーニングリソースの制作は普通Contents expertだけではできません。動画やアニメーションの作成、Infographicsの作成など画像関係の制作、ナレーション、クイズなどプログラミング、さまざまなウェブデザイン、コンテンツ制作、データ管理、Leraning Management Systemの維持・管理、ユーザー管理、サーバーのファイル管理、等々はコンテンツエキスパートだけでできる場合は少なく、もしできたとしてもユーザーに訴求できるデザインまではなかなか手が回らないでしょう。

アメリカでは、Instructional Designerが職業として成立しており、彼らからは、コンテンツエキスパートはSMEつまりSubject Matter Expertとして位置づけられています。つまり、学習体験learning experienceをより良いものにして、学習アウトカムを高度に保持できるように、さまざまな工夫を凝らして学習コースあるいはトレーニングをデザインし、制作する役割の人がいます。企業研修の場で活躍することが多いようです。

Subject Matter Expert (SME)と教育学を履修したInstruction Designerとウェブデザインに詳しいICTのエキスパートに利用者が加わって制作したインタラクティブ性を持つ学習リソースは今後のスタンダードになるかもしれません。

学習者がが求めているのは、あるタスクを実行するために必要な知識、スキル、態度を身に着けて、そのタスクを実行できるようになることです。教師は自分の持っている知識をきれいに、面白く・楽しく見せる=プレゼンテーションすることを目的にしただけでは不十分です。知識を活用して、目的のタスクが実行できるようになるにはどうしたらいいかをよく考える必要があります。単なる情報の提供だけでは十分とは言えません。

文献:
Konstantinidis ST, Bamidis PD, Zary N: Digital Innovations in Healthcare Education and Training. 2021, Elsevier Science, Oxford, UK. Amazon

Dratsiou I, Varella A, Stathakarou N, Konstantinidis S, Bamidis P: Supporting Healthcare Integration of Refugees Exploiting Reusable Learning Objects: The ASPIRE Framework. Stud Health Technol Inform 2021;281:565-569. doi: 10.3233/SHTI210234 PMID: 34042639

Carver R. Theory for practice: a framework for thinking about experiential education. J Exp Edu. 1996;19: 8– 13.

Wenger E. Communities of practice: learning, meaning and identity. Cambridge, UK: Cambridge University Press; 1998.

Clark RC, Mayer REE. Learning and the science of instruction. San Francisco: Jossey-Bass; 2003. 8. Mayer RE. The Cambridge handbook

Mayer RE. The Cambridge handbook of multimedia learning. New York: Cambridge University Press; 2005.

Ng JY. Combining Peyton’s four-step approach and Gagné’s instructional model in teaching slit-lamp examination. Perspect Med Educ 2014;3( 6): 480– 5.

Laurillard D. Rethinking university teaching: a conversational framework for the effective use of learning technologies. London: Routledge Falmer; 2002.

Windle R, Wharrad HJ. Reusable learning objects in health care education. In: Bromage A, Clouder L, Gordon F, Thistlewaite J, eds. Interprofessional e-learning and collaborative work: practices and technologies. USA: IGI Global; 2010.

JISC Quality considerations 2016 :
Open Educational Resources (OERs)のQuality
Accuracy
Reputation of author/institution
Standard of technical production
Accessibility
Fitness for purpose

Kirkpatrick JD, Kirkpatrick WK: Kirkpatrick’s four levels of training evaluation. 2016, ATD Press, USA.2016.

The Kirkpatrick Model .

Hughes A: eLearning Development And The Role Of SMEs.