SoF tableから正味の益 Net benefitの分析へ-4

このシリーズの1回目では絶対効果、Gail/NCIの方法、2回目では銀行口座の残高を”正味の益net benefit”に例えて、正味の益の計算、3回目では架空の治療薬の正味の益を4つのアウトカムに対するリスク差(RD、Risk Difference)から計算する方法を解説しました。4回目の今回は、Gail/NCIの方法で正味の益を計算するExcelシートを作ってみます。

アウトカムの重要性の設定は0~100の値でも0~1の値でも標準化、すなわち重要性の値の総和で割り算すると同じ値になるということを確認しておきましょう。また、アウトカムの重要性は患者さんの価値観Valuesによって決まる、すなわち個人の主観によって決まるので、人によって異なるのが当たり前です。当然のことながら、その個人の理解の度合いの影響も受けます。したがって、感度分析、すなわちありうるさまざまな値を設定して結果が変わらないかどうかを検討することが必要になります。

また、RDはそのアウトカムが生起する人の割合の2群の差なので、例えばアウトカムが益のアウトカムであれば、その益を受ける人数とその介入により得られる益の総和は比例する、つまり直線関係にあることが前提になります。さらに、異なるアウトカムが同じ人で生起した場合の価値はそれが2人の別の人で起きた場合と同じであるとみなしています。つまり、延べ人数で益と害の量を見ているということです。これらの前提は2つの介入を比較し、その差を解析することで、最終判断にエラーが起きる可能性はほとんどないと言えると思います。

図 Gail/NCIの方法に基づく正味の益を計算するExcelシート。

図にExcelシートの画面を示します。最大で10個のアウトカムに対処できます。必要であれば、行を追加してより多くのアウトカムに対処することも可能です。

ベージュのセルにはデータを入力します。薄緑のセルは入力規則を用いたプルダウンメニューから選択したデータが入力できるようになっています。白のセルは演算結果が出力されます。薄青のセルには総スコアすなわち正味の益の値が出力されます。下の方のセルには、該当するセルに入力されている式を示しています。もしこのシートを自分で作るのであれば、4行目のセルは、そのセルをコピーして以下の行のセルに貼り付けてください。

図のデータ例は3回目の例と同じデータで計算しています。結果は全く同じになります。

このシートは2つの値、すなわちリスク差RDと標準化したアウトカムの重要性を掛け算して総和を求めるという非常に単純なものです。

さらに、リスク差の95%信頼区間の値を用いて、総スコアの95%信頼区間を計算することもできますが、シートが大きすぎてここで示すのは難しいので今回は止めておきます。また、係数を掛け算した正規分布に従う変数の総和の分散を計算する必要があり、行列の計算が必要になります。ExcelではMMULT( )という関数があるので、計算は簡単ですが、ここで解説するには複雑すぎるので、やはり今回は止めておきます。

図のExcelシートはこちらからダウンロードできます。RR, OR, HRからRDを計算するためのExcelシートも入れてあります。

Gail/NCIの方法では二値変数のアウトカムしか扱えないので、連続変数のアウトカムも含めて正味の益を求めるには、二値変数に変換する必要がありますが、Keeney &RaiffaのSwing-weightingなどの方法を用いれば連続変数のまま分析することができます。Swing-weightingについては本ブログでも何回か解説しています(リンク1, リンク2)。Swing-weightingを用いたExcelシートもすでに作成してあり、各アウトカムに対する効果の相関も調整を実行できるシートも作成済みです。機会があれば公開しようと思います。また、Rを使う方法については”あいみっく”誌上で解説していますし(あいみっく40(2) 2019あいみっく40(3) 2-19)、本ブログでも取り上げています(上記リンク1、リンク2)。

益と害の大きさとバランス=正味の益を評価することは特に医療では非常に重要であり、比較効果研究Comparative Effectiveness Research (CER)でもNAMの定義に”比較効果研究は…益と害を比較するエビデンスの生成と統合を行うことである。”と述べられています

エビデンスの確実性の評価だけではその介入を実施すべきかどうかを決めるには不十分です。EBMの概念が導入されだした当初からEBM実践のStep 3は”エビデンスの妥当性とインパクトと適用可能性の批判的吟味を行う”となっています。すなわち、エビデンスの確実性と効果の大きさと非直接性の3つです。インパクトは定量的な大きさの意味を含んでいます。益と害の定量的評価 Quantitative Benefit Harm AnalysisあるいはQuantitative Benefit Risk Analysis/Assessmentは難しいと最初から拒絶されることが多いのですが、実は、掛け算して足し算するだけです。

最後に、益と害のバランス=正味の益を知るには、複数のアウトカムに対する介入の効果を知る必要があり、それらを総合して判断する必要があります。それがどういうことなのか考えてみてください。エビデンスの確実性もいままではひとつの主要なアウトカムに対する効果推定値に対してどれくらい確信を持てるかという観点で評価されてきていますが、複数のアウトカムに対する効果を総合的に考える際には、エビデンスの確実性はどのように評価したらいいのか考えてみてください。そして、正味の益の確実性とは?そして、3つ以上の介入を比較するには?

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