SOLO taxonomy

SOLOとはStructure of Observed Learning Outcomesのことです。知識や技能の浅い理解から深い理解への分類で理論ではなく、エビデンスに基づく分類体系です。学習者が知識や技能を獲得していく過程の研究から生まれたものです。1982年のBiggsとCollisを嚆矢とします( Biggs JB, Collis KF: Evaluating the Quality of Learning: The SOLO taxonomy. 1982, New York: Academic Press. )。カリキュラムを作成する際に用いるタキソノミーすなわち分類体系と呼ばれるもののひとつです。

学習目標/アウトカムの知識、技能、態度すなわちコンピテンスが小さな単位に分割(全体の一部)され単独のものから、それらが複数集まったものになり、更に関連付が強化され、抽象化され他の領域ともつながるということになります。浅い理解から深い理解へということです。

他には理論に基づくBloom’s taxonomyというのが知られています。(Bloom BS, Engelhart MD, Furst EJ, Hill WH, Krathwohl DR (Eds): Taxonomy of Educational Objectives: The classification of Educational Goals – Handbook 1 Cognitive Domain. 1956, David McKay, New York, NY, USA. )こちらの方は、 知識の形式と知識の獲得・利用とが同列に扱われていることが問題点として指摘されています。

Hook & Millsはその著書で、SOLO taxonomyを用いることで、以下のことが実現できると述べています。
学習者と教師は
•学習企図と学習経験を思慮深くデザインできる。
•有効な方略と成功の基準を決めて、用いることができる。
•学習アウトカムのフィードバックと事前のアセスメントを提供することができる。
•次に何をすべきかについて意味のある振り返りができる。
(Hook P, Mills J: SOLO Taxonomy: A guide for Schools BK1: A common language of learning. 2011, Essential Resources Educational Publishers Limited, Laughton, UK.
Hook P, Mills J: SOLO Taxonomy: A Guide for Schools. Planning for differentiation. Book 2. 2011, Essential Resources Educational Publishers Limited, New Zealand. )

SOLO taxonomyでは学習アウトカムあるいは学習目標を以下の図および表に示すように分類します。アウトカムあるいは目標は知識だけでなく技能、態度にも適用できるはずです。

各レベルに対して、使用する動詞がおよそ決められていますが、それぞれの対象領域において必要なものを追加する必要があります。

たとえば、単構造では以下の動詞が用いられます。
define(定義する)
identify(同定する)
name(名前を言う)
find(見つける)
label(分類する)
match(合わせる)
follow a simple procedure(簡単な手順に従って作業する)

多構造では、
describe(記述・説明する)
list(列挙する)
outline(アウトラインを述べる)
follow an algorithm(アルゴリズムに従って作業する
combine(結合する)

関連多構造では、
sequence(並べ替える)
classify(分類する)
compare and contrast(比較対照する)
explain causes(原因を説明する)
explain effects(効果を説明する)
analyze (part-whole)(部分-全体を分析する
form an analogy(アナロジーを形成する)
organize(整理、構成する)
distinguish(区別する)
interview(インタビューする)
question(質問する)
relate(関連付ける)
apply(適用する)

拡張抽象的では、
generalize(一般化する)
predict(予測する)
evaluate(評価する)
reflect(振り返る)
hypothesize(仮説を立てる)
theorize(理論化する)
create(創造する)
prove(証明する)
plan(計画する)
justify(正当化する)
argue(論じる)
compose(構成する)
prioritize(優先順位を付ける)
design(デザインする)
construct(組み立てる)
perform(遂行する、実演する)

そして、HOT SOLO mapが学習支援のために用意されます。

HOT SOLO mapもその知識・概念の構造、学習アウトカムによってさまざまなものが使われます。これらはまた、学習者のセルフアセスメントにも使われます。

また、学習アウトカムを記述する際のボキャブラリーも最初に提供されます。

学習者は自分に次の問いかけをしながら学習を進めていきます。教師の側はこれらの質問に対応する資料を用意する必要があります。

自己管理のための三つの質問
1.どこに進んでいるか?
学習作業、ゴール、企図(SOLOコード)
成功/合格の基準 (SOLOで仕分けされた異なるレベル)
2.どれくらい進んでいるか?
基準に対して進行状況を自己査定
3.次はどこへ進むか?
次の学習ステップ
新しいゴール

International Shared Decision Making Society

International Shared Decision Making (ISDM) Society は2018年に発足したそうです(Web site)。

10th International SHARED DECISION Making Conference が2019年7月に開催されるそうです。

3名のキーノートスピーカーは、カナダCIHR’s Institute of Indigenous Peoples’ Health (IIPH) の Scientific Directorである Carrie Bourassa, PhD 、カナダOttawa大学、 Faculty of Health Sciences、 School of Nursingの Claire Ludwig, RN PhD(c) 、アメリカMayo Clinicの内科教授でアメリカAHRQの Center for Evidence and Practice Improvement のSenior Adviserでもある Victor M. Montori, MD です。

Panel Speakersとしては、 世界で初めて優先度の設定に患者さんが参加したランダム化比較試験をリードしたカナダモントリオールの家庭医であるAntoine Boivin, MD PhD 、研究におけるPatients-Usersとのコラボレーションの評価、医療提供者の教育、などの活動をしているカナダケベックの Maman Joyce Dogba, MD PhD 、Cystic fibrosisと1型糖尿病があり肺移植、肝移植を受けた経験のあるカナダモントリオールの患者コーディネータである Alexandre Grégoire 、そして、アメリカワシントンの Patient-Centered Outcomes Research Institute (PCORI) で Dissemination and Implementation program の  Senior Program Officer である Ethan N. Chiang, PhD が紹介されています。

これらのメンバーの多様性は驚くほどです。日本にいるとこのような世界の動きがなかなか伝わってきません。”国際協働意思決定学会”なんですが、ほかの領域も含め、その”国際”にどのようにかかわっていくかよく考える必要があります。日本は国際的な貢献をしたいとみんなが思っているはずですが、さまざまな領域でサークルの中に入れてもらえるように、普段から仲間を作っておく必要があります。

そのためには自分の頭で考えることが一番重要で、同じことを考えている人が、周りにいなくても、たとえ日本にいなくても、ほかの国には必ずいると思うべきだと思います。

Comparative Effectiveness Research (CER)比較効果研究

2009年1月15日、当時のオバマ大統領が一般教書演説の中で、CER 比較効果研究の推進について述べ、11億ドルの予算がつけられ、その後の医学研究、医療に大きな影響を与えることになりました。Institute of Medicine (IOM, 現National Academy of Medicine, NAM)のCERの定義は以下の通りです。

“The generation and synthesis of evidence that compares the benefits and harms of alternative methods to prevent, diagnose, treat, and monitor a clinical condition, or to improve the delivery of care. The purpose of CER is to assist consumers, clinicians, purchasers, and policy makers to make informed decisions that will improve health care at both the individual and population levels.”

“比較効果研究CERは臨床状態の予防、診断、治療、モニターのためあるいはケアの供給を改善するための方法の選択肢の益と害を比較するエビデンスの生成と統合を行うことである。CERの目的は個人および集団の両方で、消費者、臨床家、購入者と政策決定者が、ヘルスケアを改善するであろう、情報を与えられた上での決断を支援することである。”

さらに、CERの6つの特徴として以下の項目があげられている。
1.目的は特定の臨床決断に情報をあたえること。
2.それぞれが最善の医療となる可能性のある少なくとも2つの介入の選択肢を比較すること。
3.群(population)および亜群レベルで患者アウトカムを取り扱い記述すること。
4.益だけでなく害を含む患者にとって重要なアウトカムを測定すること。
5.対象となる決断に適切な研究手法およびデータソースを用いること。
6.介入が用いられるであろうセッティングに可能な限り近いセッティングで行われる。

定義およびこれらの項目からCERに関するキーワードをあげると以下のようになるでしょう。
Effectivenessすなわち実臨床における効果、②患者中心アウトカム、③益と害の評価、④決断支援、⑤選択肢の比較、⑥すべてのステークホルダーの最大限の参加・貢献および結果の活用、⑦エビデンスの生成と統合(一次研究と二次研究であるシステマティックレビュー/メタアナリシス)

PubMed Special Queries: Directory of Topic-Specific PubMed QueriesにはComparative Effectiveness Researchの検索式が用意されており、Research Categoryとして、
 〇Randomized controlled trials,
 〇Observational Studies (cohort, administrative data, registries, and electronic health records), 
 〇Systematic Reviews, Simulations, Models、
Selected Topicsとして、
 〇Health Disparities,
 〇Costs and Cost Analysis, 
 〇Comparative Effectiveness Research as Subject
が検索語句と組み合わせてPubMed検索ができるようになっています。これらのいずれか一つあるいはすべてを選択して検索ができます。

Randomized controlled trialsではrandomized controlled trial[pt]よりもより多くの文献が引き出され、一方Cochraneのランダム化比較試験のフィルターよりも少ない文献が引き出されます。

Comparative Effectiveness Research as Subjectを組み合わせると数は少ないですが、臨床へのインパクトがありそうな論文が引き出されてきます。

たとえば、acute appendicitisで検索したところ、28件の論文が引き出されましたが、その中の2番目の論文は、Ehlers AP, Davidson GH, Deeney K, Talan DA, Flum DR, Lavallee DC: Methods for Incorporating Stakeholder Engagement into Clinical Trial Design. EGEMS (Wash DC) 2017;5:4. PMID: 29930955で、CERの考え方、Patient-centered outcomeの重視、研究デザイン策定の段階から、患者さんを含む利害関係者の参加を求めるなど、臨床研究における新しい試みが追及されていることがわかります。

PrOACT-URLと診療ガイドラインにおける益と害の解析

PrOACT-URLはProblems, Objectives, Alternatives, Consequences, Trade-offs, Uncertainty, Risk tolerance, Linked decisionsの8つのステップからなる一般的な意思決定を行う方法ですが、欧州医薬品局は許認可の際の手順としてこれを適用しています。

PrOACT-URLはFovorable effects望ましい効果すなわち益とUnfavorable effects望ましくない効果すなわち害を解析することを重要な目的とする一連の手順と言えます。

Problemでは、1. 問題の性質と文脈を明らかにし、2. 問題の枠組みを決めます。
Objectiveでは、3. 達成すべき全体としての目的を示す目標を決め、4. a) 望ましい効果とb)望ましくない効果に対する評価基準(Criteria)を決めます。
Alternativesでは、5. 評価基準を用いて評価する介入の選択肢(Alternatives)を決めます。
Consequencesでは、6. 介入の選択肢がそれぞれの評価基準に対してどれくらい効果があるかを記述、すなわち、すべての効果の大きさとそれらの望ましさあるいは重大さ、およびすべての効果の頻度を明らかにします。
Trade-offでは、7. 望ましい効果と望ましくない効果のバランスを評価します。
Uncertaintyでは、8. 望ましい効果と望ましくない効果に伴う不確実性を報告し、9.望ましい効果と望ましくない効果のバランスが不確実性にどのような影響を受けるかを考えます。
Risk toleranceでは、10. 当該医薬品に対する意思決定者のリスクに対する態度(Risk attitude)の相対的重要性を判断し、11. これが9で報告されたバランスにどのように影響するかを報告します。
Linked decisionsでは、12. 過去の類似の意思決定とこの意思決定の一致について考え、この意思決定が将来の意思決定に影響しうるかを評価します。

“Effects Table”に望ましい効果と望ましくない効果が一覧できるようまとめることを推奨しています。

診療ガイドライン作成における益と害の解析の手順とほとんど同じように見えますが、異なる用語が使われているので、まずそれを見てみましょう。

Problemはクリニカクエスチョン、文脈というのは重要臨床課題あるいはAnalytic framework、あるいは診療アルゴリズムに該当するでしょう。

Objectiveは評価基準Criteriaがアウトカムoutcome measurementに相当します。益のアウトカムと害のアウトカムの両方を設定するのは同じです。目標を決めるというのはクリニカルクエスチョンの設定に近いと思います。

Alternativesはクリニカルクエスチョンで設定する介入のI/C (Interventions/Comparators)に相当します。治療選択肢に該当します。OptionsあるいはTreatment optionsではなく、Alternativesという言葉が使われています。

Consequencesは”目的に影響を与える事象eventの結末”で、リスクマネージメントの分野では、”結果”と訳されているようです。ここでは、各アウトカムあるいは各アウトカムに対する効果推定値に相当するでしょう。

Trade-offは望ましい効果と望ましくない効果のバランスということなので、診療ガイドライン作成の場合はTrade-offという言葉ではなく望ましい効果と望ましくない効果のバランスあるいは益と害のバランスという言葉が直接使われていることになります。

Uncertaintyはアウトカムごとの介入の効果の不確実性のことを言っているので、アウトカムごとのエビデンス総体の確実性と同じことになります。不確実性が望ましい効果と望ましくない効果のバランスあるいは益と害のバランスにどのように影響するかを評価することは同じように求められています。ただし、診療ガイドライン作成の場合は、確率的感度分析を行うことはあまり行われてないので、今後の課題だと思います。

Risk toleranceリスク許容度は診療ガイドラインの場合は、評価項目として明確には設定されていないと思います。Risk seek, Risk neutral, Risk avertのようなリスクに対する態度の違いが推奨にどう影響するかはフォーマルには検討されていないと思います。リスクが高くても、うまくいけば非常に大きな効果が得られるのであれば、その医療を受けようと考える人もいますし、リスクが低くないと大きな効果が得られることがあるとしてもその医療は受けたくないという人もいます。また、診療ガイドライン作成グループとしてのリスクに対する態度も推奨作成に影響します。各アウトカムの重要性を決める際にもリスク許容度が影響し、Risk avertな人は副作用などの害に対する重要性を相対的に高く設定するでしょう。

Linked decisionsは他の診療ガイドラインや過去の診療ガイドラインの推奨との整合性をチェックしたりすれば、同じようなことをしていることになりますが、スコーピングサーチである程度カバーされるかもしれません。

両者は考え方はほとんど同じだと思いますが、もともと対象と目的がかなり違うので、科学の同じ成果が少し違う形で適用されているように思えます。異なる点についてリストアップしてみました。

項目PrOACT-URL診療ガイドライン作成
解析の範囲医薬品の審査なので当該医薬品が中心対象疾患に関連するすべての診断的・治療的介入
解析の対象多くの場合、承認の可能性が高い、効果が十分大きく確実性が高い医薬品効果が小さい、不確実性が大きい介入も解析対象となる
解析データ論文化されていないデータも解析対象になる主に論文化されているデータが解析対象になる
推奨の目的当該医薬品の承認の可否決定の支援介入を実行すべきかの意思決定の支援
リスクトレランス明確に考慮され、推奨された医薬品では小さくなる可能性が高い明確に考慮されるステップはなく、大きくなる場合もありうる
発行後の調査ポストマーケットのサーベイランスも含まれる推奨順守のサーベイランスはほとんど行われないか限定的

一方、共通点は

  1. 比較する対照が(複数)ある。
  2. トレードオフを前提に益と害の両方を複数のアウトカムにわたって解析する。
  3. 患者・介護者の選好が正味の益の大きさに影響する。
  4.  不確実性に対処する必要がある。

診療ガイドラインの場合は、ランダム化比較試験がほとんど行われていない分野も多く、診断的・治療的介入の効果について不確実性が大きく、正味の益が十分であることに確信を持てない場合でも推奨を作ることが求められるという点が一番の違いかもしれません。

先に述べたように、両者がよりどころにしているのは科学の同じ成果であり、論理的で科学的であることを最大限追及することを前提にしていますが、取り入れている分野や重要視する分野が全く同じではないことがわかります。Decision science、Risk managmentなどの分野の成果がより多く取り入れられているように思えます。