WHO-INTEGRATE (INTEGRATe Evidence) framework version 1.0

GRADE Working Groupから2016年にEvidence-to-Decision (EtD) Frameworkが発表されました。(Alonso-Coello P 2016-1, Alonso-Coello P 2016-2)  これは、エビデンス評価の後の、推奨作成のプロセスを述べたものです。また、EtD frameworkのガイダンスMoberg J, Alonso-Coello P, Oxman AD. GRADE Evidence to Decision (EtD) Frameworks Guidance. Version 1.1 [updated May 2015], The GRADE Working Group, 2015. も発表されています。

ほぼ同時期に、15の国際的な診療ガイドライン作成で試用された際の評価が
Neumann I 2016らによって発表されました。彼らの評価は、”EtD frameworkは推奨作成の過程でガイドラインパネルの判断と議論を記録し報告する、構造化された明確な方法を提供し、さらに、推奨作成、その強さのアセスメントおよび研究ギャップの発見を促進する”ということでした。一方で、”価値と好み”、”益と害のバランス”については今後の開発が必要であると述べられています。

その後、WHOのグループから、WHOの診療ガイドライン作成または健康意思決定プロセスに適用する枠組みとして、WHO-INTEGRATE framework version 1.0が発表されました(Rehfuess EA 2019)。これはWHOのノルムおよび価値に基づいて、エビデンスから推奨への枠組みとして作られたものです。彼らによると、実際の使用経験から、GRADEのEtD frameworkにはいくつかの懸念があり、”Balance of benefits and harms”の項目に注力し、そのほかの項目はプロセスというよりチェックボックス的な使われ方になってしまうと述べています。そこで、新たなEtD frameworkを開発したとのことです。

  1. Balance of health benefits and harms.
  2. Human rights and sociocultural acceptability.
  3. Health equity, equality and non-disrimination.
  4. Societal implications.
  5. Financial and economic considerations.
  6. Feasibility and health system considerations.
  7. Meta-criterion quality of evidence.

これら7項目が推奨を作成する際に検討する項目です。全文が公開されており、Fig. 3にまとめられています。

FDAのBenefit-Risk Assessment Framework

FDA U.S. Food and Drug Administration米国食品医薬品局は2013年にStructured Approach to Benefit-Risk Assessment in Drug Regulatory Decision-Makingという実行プランを発表しています。そのアップデートが2018年3月30日にDraft PDUFA VI Implementation Planとして発表されています。(PDUFAは Prescription Drug User Fee Actのことです。)この文書の中で、Benefit-Risk Framework (BRF)を強化し、コミュニケーションを促進することがFDAの使命のひとつであると述べられています。

2016年12月16日に発効したThe 21st Century Cures Act (Cures Act)によって、許認可に関わる意思決定に資するために関係のある患者の経験のデータおよび関連のある情報を構造化されたBenefit-Risk Frameworkベネフィット・リスクアセスメントの枠組みにを取り入れることに対してFDAはどのように期待しているかを述べたガイダンスを出すことが求められています。

現時点で、FDA Benefit-Risk FrameworkはDecision FactorとしてAnalysis of Condition, Current Treatment Options, Benefit, Risk, Risk Managmentが設定されており、各項目に対してEvidence and UncertaintiesとConclulsions and Reasonsを記載し、まとめとしてBenefit-Risk Summary Assessmentを記載するように作られています。

EMAのBenefit-risk methodology

EMAはEuropean Medicines Agency (欧州医薬品局)のことで、European Union (EU)欧州連合の医薬品規制当局です。EMAは医薬品の許認可の際にBenefitsがRisksを上回るかどうかを審査します。次のように述べられています:”The European Medicines Agency’s opinions are based on balancing the desired effects or ‘benefits’ of a medicine against its undesired effects or ‘risks’. The Agency can recommend the authorisation of a medicine whose benefits are judged to be greater than its risks. In contrast, a medicine whose risks outweigh its benefits cannot be recommended for marketing.”すなわち、”医薬品の望ましい効果=Benefitsベネフィットがその望ましくない効果=Risksリスクより大きいと判断された時に認可を推奨する”とのことです。

EMAは医薬品のbenefitsとrisksのアセスメントをより一定した、より透明性の高い、審査がより容易なものにするために、当局の作業の中で使用できる、Decision-making model決断モデル(意思決定モデル)を見つけるためのBenefit-risk methodology projectを2009年に開始しました。その結果を5つのWork packageとして公開しています。ただし、これらはThe Committee for Medicinal Products for Human Use (CHMP) 欧州医薬品庁ヒト用医薬品委員会の見解を代表するものではなく、研究あるいは一つの例として取り扱うべきことが免責条項で述べられています。

Work packge 1 report: description of the current practice of benefit-risk assessment for centralised procedure products in the EU regulatory networkを見ると、2009年に、5か国の規制当局の42名のキーパーソンにインタビューをして当時の現状の調査をしています。インタビューの項目の中には、Benefits、Risksの理解、Benefit-risk assessmentのプロセスが含まれています。インタビューの結果、全員が”Benefit-risk balanceは専門家の判断によるものであり、許認可のプロセスで最も難しいステップである”ことを認め、”The benefit-risk balance is assessed mainly intuitively, the responsibility of an accountable senior assessor in some agencies or of a group in other agencies, as a result of extensive discussion. “と述べられています。つまり、この時点では、Benefit-riskのバランスは主に直感的に評価されていたと述べられています。

Work package 4 report: Benefit-risk tools and processesを見ると、Benefit-riskアセスメントの枠組みとしては、PrOACT-URL、モデルとしては、Multi-criteria decision analysis (MCDA) models(多基準決断分析モデル)が最も医薬品の許認可の作業プロセスに適合すること、また、これらの適用は”判断が難しい場合、異論が多い場合に有用であろう”と述べられています。具体的には、”ベネフィット・リスクのバランスが近接している、効果の臨床的意義の判断により望ましいあるいは望ましくないのいずれの方向にも傾きうる場合、多くの属性が相反する方向である場合”が上げられています。PrOACT-URLについてはPharmacoepidemiologic Reseach on Outcomes of Therapeutics by European Consortium PROTECT解説を参照してください。MCDAについてもPROTECTに解説があります。


USPSTFの方針とNAMの基準

全米医学アカデミーNational Academy of Medicine 、NAM(旧全米医学研究所Institute of Medicine, IOM)のCommittee on Standards for Developing Trustworthy Clinical Practice Guidelinesは2011年にClinical Practice Guidelines We Can Trustを出版していますが、この中で信頼できる診療ガイドライン作成に必要な基準を以下の8つの領域にわたって示しています。

  1. Establishing transparancy
  2. Managmement of conflict of interest (COI)
  3. Guideline development group composition
  4. Clnical practice guideline – systematic review interssection
  5. Establishing evidence foundations for and rating strength of recommendations
  6. Articulation of recommendations
  7. External review
  8. Updating

USPSTFはU.S. Preventive Services Task Force Procedure Manualにトピックの選択から推奨作成に至るまでの方法の詳細を発表していますが、さらに、USPSTFの方針がNAMの基準をすべて満たしていることをStandards for Guideline Developmentとして発表しています。