SoF tableから正味の益 Net benefitの分析へ-1

GRADEアプローチではエビデンス評価のまとめとして、”Evidence profile”と、さらに”SoF (Summary of Findings) table”を作成することになっています。SoF tableは単なる結果のまとめ表ではありません、SoF tableには次の7つの要素を含める必要があります。

1.すべての重要+重大なアウトカムおよびエビデンス総体の総括
2.これらアウトカムのベースラインリスク
3.介入群の絶対リスク(イベント率)、あるいは絶対リスク減少=絶対効果指標
4.リスク比、ハザード比などの相対効果指標
5.参加者の人数(総数)と研究数
6.アウトカムごとのエビデンス総体のエビデンスの確実性:ABCD4段階
7.コメント。

SoF tableの最大の目的はアウトカムごとのエビデンス総体のエビデンスの確実性を示すことではなく、望ましい効果=益Benefitと望ましくない効果=害Harmの大きさとバランスを分析するために必要な絶対リスクと絶対効果指標を示すことであると言えます。

益と害の大きさとバランスを分析するには、批判的吟味、エビデンスの確実性の評価を超えた知識・スキルが必要です。”Decision analysis”決断分析、定量的な益と害の分析、確率的感度分析を行うのであれば、統計学、モンテカルロシミュレーションの知識・スキルも必要になります。

益と害のバランス=正味の益を知るには、①測定されたアウトカムが有益な事象か有害な事象か、すなわち効果推定値が大きい方が望ましい効果なのか逆に小さい方が望ましい効果なのかをまず明確にする必要があります。そして、②アウトカムが二値変数の場合は、絶対リスク(各群のイベント率)または絶対リスク減少=リスク差、連続変数の場合は、絶対リスク(各群の平均値)または平均値差が必要になります。さらに、③アウトカムの重要性を設定する必要があります。SoF tableでは②を含めることを求めていると言えます。ここでのアウトカムの重要性は、患者の価値観と同じ意味で、クリニカルクエスチョン設定時のSRの施行の必要性、エビデンス総体の総括の評価に用いるかどうか、推奨を決めるのに用いるかどうかを決めるアウトカムの重要性の設定とは異なります。そのアウトカムに患者あるいは個人が、アウトカム間で相対的にどの程度の価値を置くかということです。

また、WHOのGRADEprofiler helpでは、5.5.1.6.1 Calculation of absolute effectで相対効果指標から絶対効果を求める方法が紹介されています。対照群のイベント率をCERとします。オッズ比ORの場合は、OR/[1 – CER×(1 – OR)]でリスク比RRに変換し、ハザード比HRの場合は、[1 – exp{HR×ln(1 – CER)}]/CERでリスク比RRに変換します。リスク比RRからは、CER×(1 – RR)で絶対効果の値が得られます。この値は、リスク差あるいは絶対リスク減少に相当し、100倍すれば100人あたり、1000倍すれば1000人当たり、10000倍すれば10000人当たりの効果が確認できる人数が得られることになります。expはexponential、lnは自然対数です。

益と害のバランスあるいは正味の益、絶対効果、絶対リスク、ベースラインリスク、ハザード率とハザード比とイベント率、アウトカムの重要性と価値観、これらについて理解したうえで、Multi-Criteria Decision Analysis (MCDA)多基準決断分析、Quantitative Benefit-Risk AnalysisあるいはQuantitative-Benefit Harm Analysis定量的な益と害の分析について理解することは、推奨作成において今後より重要になると思います。 定量的な益と害の分析について は、すでにこれまで解説してきましたが、まだ解説していないGail/NCIの方法も含めて、より総合的にわかりやすく解説したいと思っています。今回は、図1と図2をどこまで理解できるか、考えてみてください。

  • Gail MH, Costantino JP, Bryant J, Croyle R, Freedman L, Helzlsouer K, Vogel V: Weighing the risks and benefits of tamoxifen treatment for preventing breast cancer. J Natl Cancer Inst 1999;91:1829-46. PMID: 10547390 
  • Multi-Criteria Decision Analysis (MDCA)>
  • Multi-Criteria Decision Analysis (MCDA)のステップ >
  • Keeney and RaiffaのSwing weightingを用いたMCDA >
  • Swing weightingを用いたMCDAの結果 >
  • EMAのBenefit-risk methodology >
  • FDAのBenefit-Risk Assessment Framework >
  • FDAのBenefit-Risk Assessment(続き) >

ピクトグラム作成ウェブツール

対照群および介入群のアウトカム生起例数を入力してDrawボタンをクリックすると下のようなピクトグラムPictgramを作成するウェブページを作りました。1000人単位の場合は、To per 1000をクリックしてください。100人単位の場合は、To per 100をクリックして戻ってください。

2群間の差分をリスクが低下する場合は、緑、リスクが上昇する場合は赤で色付けしています。

描画されたピクトグラムを右クリックして、ファイルとして保存したり、コピーしたりすることができます。

100人単位でリスクが低下する例。左側が対照群、中央が介入群、右側は差分を緑にしています。横に10人×10行。
1000人単位でリスクが上昇する例。 左側が対照群、中央が介入群、右側は差分を赤にしています。横20人×50行。

英国NICEのShared Decision Making guideline

英国NICE (National Institute for Health and Care Excellence)は2021年6月にShared Decision Making協働意思決定に関するガイドラインを発表しています。

その中で、リスク、ベネフィット、結果のコミュニケーションに関する部分では以下の様に述べられています。

1.4 リスク、ベネフィット、結果(Consequences)のコミュニケーション

1.4.1 リスク、ベネフィット、および結果について、それぞれの人の人生とその人にとって何が重要か という観点から話し合う。リスクコミュニケーションには、質の高い患者意思決定支援ツールやピクトグラムなどの図解を用いることが有効であることを知っておく(推奨1.3.1~1.3.3参照)。

1.4.2 リスク、ベネフィット、結果についての情報は、できる限り個人に合わせて提供する。提供する情報が個人にどのように適用されるか、また、それにどの程度の不確実性が伴うかを明確にする。不確実性への対応の詳細については、General Medical Council’s guidance on decision making and consentを参照

1.4.3 組織は、リスク、ベネフィット、結果に関する情報を人々に提示するスタッフが、その情報を十分に理解し、どのように適用し、明確に説明するかを確認する必要がある(推奨1.1.12および1.1.13参照)。

1.4.4 その人に特有のリスク、ベネフィット、結果に関する情報が得られない場合は、本ガイドラインに概説されている協働意思決定の原則を引き続き使用する。

数値情報について話し合う

1.4.5 肯定的な情報と否定的な情報(推奨1.4.11参照)を同時に見ることができるように、例えば、率の値とピクトグラムあるいはアイコン配列を合わせて提示するなど、数字と絵を組み合わせて使用することを考える。

1.4.6 利用可能であれば、リスクを説明するために数値データを使用する。「リスク」、「まれ」、「めずらしい」、「一般的」などの用語は、人によって解釈が異なることに注意する。

1.4.7 相対リスクではなく絶対リスクを用いる。例えば、ある事象のリスクが 2 倍になるのではなく、1,000 人に 1 人から 1,000 人に 2 人に増加するというように。

1.4.8 パーセンテージ(10%)ではなく、頻度数(例えば、100人に10人)を使用する。

1.4.9 データを使用する際には一貫性を持たせる。例えば、リスクを比較する際には、14分の1と5分の1ではなく、あるリスクには100人に7人、別のリスクには100人に20人というように、同じ分母を使用する。

1.4.10 適切な場合は、定義された期間(月または年)にわたるリスクを提示する。例えば、100人が1年間治療を受けた場合、10人が特定の副作用を経験するとする。

1.4.11 ポジティブなフレーミングとネガティブなフレーミングを両方用いる。例えば、100人のうち97人は治療が成功し、100人のうち3人は治療が失敗するとします。

NICEのShared Decision Makingに関するウェブページでは、医療提供者、医療利用者向けの情報や、Patient decision aids (PDA)などに関する情報もあります。

アメリカのAHRQのSHAREアプローチについてはすでに紹介しましたが、比べてみてください。(SHAREアプローチツール4ツール5)。

診療ガイドライン作成方法解説

YouTubeのIZ statというチャンネルで、「Rの使い方」、「診療ガイドライン作成方法解説」という動画再生リストを公開しています。

診療ガイドライン作成方法解説」は以下の動画を含んでいます。

「診療ガイドライン作成プロセス全般の概要のエッセンス」(3分40秒)
「診療ガイドライン作成におけるスコープ作成プロセスのエッセンス」(6分10秒)
「診療ガイドライン作成におけるシステマティックレビュープロセスのエッセンス」(7分10秒)
「診療ガイドライン作成における推奨作成プロセスのエッセンス」(4分45秒)

「システマティックレビューのためのAnalyltic framework分析的枠組み」(20分)
「Googleスプレッドシートを使ってPubMedからダウンロードした文献を管理する」(6分)

*ナレーションはVOICEROID+東北きりたんEXを用いています。聞きやすい声です。