NCCN Evidence Blocks

NCCN National Comprehensive Cancer Networkの診療ガイドラインではEfficacy of Regimen/Agent、Safety of Regimen/Agent、Quality of Evidence、Consistency of Evidence、Affordability of Regimen/Agentの項目(measure)ESQCAについてそれぞれ1~5までの5段階評価を正方形のブロック(Evidence Blocks)を用いて表示しています。青の正方形の割合を見ることで、一目で評価ができるようになっています。

新薬が次々と出てくるような分野では、このEvidence Blocksが有用と考えられます。”Some patients will want an emerging therapy even with limited data; others will be most concerned about the exposed side effects of the treatment indicated in the safey column. Still others may be very sensitive to cost.”と解説にあります。エビデンスの確実性が高くなくても新しい治療を受けたい人がいる。もし、最も重要なアウトカムが生存/死亡という場合にはそう希望する人も多いと考えられます。

Modeling

実世界をとらえたり、分析したりするときは、より単純化されたモデルを作って、モデルで比較したり、モデル上でさまざまなデータを入れて結果を比べたりすることが行われます。また、われわれが実世界に働きかける場合も、モデルを通してそれを行っています。実世界ではあまりに多くの要素が相互作用して結果が出てくるので、より単純化して重要な要素だけを解析するしかないとも言えます。今後は、患者さんの全体験をビッグデータとして記録して、解析することが可能になるかもしれません。記録用のデバイス、記録方法、データ保存、データ解析法など開発が必要ですが。

さて、モデルを作ることをmodeling(米)、modelling(英)といいます。日本語ではモデル化あるいはモデル作成ということになります。

医療の分野で、診断的介入あるいは治療的介入の効果Effectivenessを調べる際は、介入の影響を受け変化するであろうその人に関する様々な要素を測定します。介入を受けて変化する要素は無数にあり、すべてを測定することはできないので、重要な要素に限定します。それはアウトカムOutcomeと呼ばれています。しかも、ランダム化比較試験では主要アウトカムはひとつに限定することが推奨されています(CONSORT The Consolidated Standards of Reporting Trials statement)。それは統計学な理由と、参加する患者さんの人数(サンプルサイズ)をできるだけ少なくするためです。それ以外は、副次アウトカムとして数個設定されるのが普通です。サンプルサイズは主要アウトカムに対する効果の推定値に基づいて計算されるので、副作用などの頻度の低い副次アウトカムはサンプルサイズが足りなくて検出されないことも多くなります。歴史的には、発売後に大勢の患者さんが使ってはじめて重大な副作用が起きることがわかって販売中止になったり、適用がより限定されたりしたことが起きています。

なお、患者さんが直接測定して報告するアウトカムのことはPatient-reported outcome (PRO)と呼ばれ、近年重要視されてきました。アメリカでは2009年にPatient-Centered Outcomes Research Institute (PICORI)が設置され、そのホームページには”Improving Outcomes Important to Patients. PCORI funds studies that can help patients and those who care for them make better-informed healthcare choices.”と書かれています。”患者さんにとって重要なアウトカムを改善する。患者さんと医療者がより良い情報を与えられたうえでの医療の選択ができるよう手助けする研究に研究費を助成する”と書かれています。

さて、益と害Benefits/Harmsの複数のアウトカムに及ぼす介入の効果の大きさと確実性に基づいて、全体としての益と害の大きさとバランス、正味の益を評価する際にさまざまなモデルが提唱されてきました(Mt-Isa S 2014, Puhan MA 2013,
Boyd CM 2012, Guo JJ 2010 などにまとめられています)。どのモデルを使う場合でも、重要なアウトカムを無視していないか慎重でなければなりません。取り上げたアウトカムだけで最善の介入を決めていいかどうかよく考える必要があります。また、未知のアウトカムが将来問題になることもありうることも認識しておく必要があります。

すべてのアウトカムに関して、ひとつの介入が優れていれば、価値観・好みは関係なく、最善の介入がどれかを決めることができます。トレードオフがある場合には、アウトカムに対する価値観と好みValues and preferencesがわからないと、評価ができません。益と害のバランスあるいは正味の益がわかっても、さらに、負担Burdensと費用Cost・資源Resourceが問題になってきます。負担は入院、手術を受けるといったことで、費用は金銭的な費用、資源は医療設備、人的リソース(専門性や医療技術などを含む)などです。

そして、最善の介入を決める際に用いるモデル自体にも不確実性が伴っていることを忘れてはいけません。

PROTECT

PROTECTはPharmacoepidemiological Research on Outcomes of Therapeutics by a European Consortiumのことで、”治療アウトカムに関する薬剤疫学的研究ヨーロッパコンソーシアム”のこと。

Hallgreen CE, et al: Literature review of visual representation of the results of benefit-risk assessments of medicinal products. Pharmacoepidemiol Drug Saf 2016;25:238-50. PMID: 26521865の論文もPROTECT Benefit-Risk groupから出されている。

PROTECT Benefit-Risk groupのサイトのVisualisationsのページはかなり包括的で興味深い。VisualizationsではなくVisualisationsというスペルはアメリカより英国に近いということだが、ヨーロッパ系であることがわかる。医療者と患者・介護者のコミュニケ―ションについても研究がかなり行われており、Evidence-based communicationという言葉も使われている。

PROTECTからは PrOACT-URL: Problem, Objectives, Alternatives, Consequences, Trade-offs, Uncertainty, Risk tolerance, and Linked decisions というBenefit-Risk assessmentのためのフレームワークが提言されている。

PrOacTive

フォーマル(正式)な益と害の評価法として提言されている方法のひとつです。

” Do not use verbal expressions such as leikely, possibly, rarely, occasionally. Use probabilities and related numerical expressions.  You can not reach an agreement while using the same expressions for differenct nunmbers. “と書かれています。しかし、エキスパートは、無意識の内にすべての要素を取り入れたうえで決断しているので、後でうまく説明できないこともあります。

このPrOacTiveと似た方法で、PrOACT-URLというのもあります。

Alternativesとは介入の選択肢のことで、Optionsという言葉が使われることが多いかもしれません。ConsequencesはOutcomesと同じことです。Trade-offsトレードオフは”あちらを立てればこちらが立たず”ということです。たとえば、益のアウトカムに対して治療効果はAの方がいいが、副作用はBの方がいいという場合にはTrade-offがあるということになります。

医療経済の分野と臨床医学の分野では同じ概念に対して異なる用語が用いられていることが結構あります。Harm害に対してRiskリスクという言葉が使われている場合も多いです。