NCQA-HEDISと医療のパフォーマンス

NCQAはアメリカのNational Committee for Quality Assurance国立品質保証委員会のことで、そのミッション:ヘルスケアの質を向上させること、ビジョン:より良いヘルスケア、より良い選択、より良い健康、だそうです。HEDISはNCQAの一部で、HEDISはHealthcare Effectiveness Data and Information Setヘルスケア有効性データおよび情報セットで、最も広く用いられているヘルスケアの改善ツールだそうです。

NCAQのプログラムは、1. Health Care Providers & Practices, 2. Health Plans & Other Organizations, 3. Data & Information Technologyがあり、3にはHealth Information Technology Prevalidation Programs, Digital Measurement Community, Telehealth – Taskforce on Telehealth Policyなど多数のプログラムがあります。

HEDISでは医療のパフォーマンスの測定を1.ケアの有効性 Effectiveness of Care、2.ケアのアクセス/可用性 Access/Availability、3.ケアの体験 Experience of Care、4.利用およびリスクで調整した利用 Utilization and Risk Adjusted Utilizatoin、5.健康プランの記述的情報 Health Plan Descriptive Information、6.電子的臨床データシステムを用いて報告された測定項目 Measures Reported Using Electronic Clinical Data Systemesの6つのドメインに分類される90の測定項目から行います。

例えば、ケアの有効性のドメインには、Prevention and Screening, Respiratory Conditions, Cardiovascular Conditions, Diabetes, Musculoskeletal Conditions, Behavioral Health, Medication Management and Care Coordination, Overuse/Appropriateness, Measures Collected Through the Medicare Health Outcomes Survey, Measures Collected Through the CAHPS Health Plan Surveyの項目があり、それぞれの項目の下にさらに多くの項目が含まれています。

例えば、Overuse/Appropriatenessの下位には、Non-Recommended Cervical Cancer Screening in Adolescent Femalesという項目があります。16-20歳の女性を対象に、不必要な子宮頸癌のスクリーニング検査を受けた割合を測定項目としており、なぜそれが問題なのかについては、子宮頸癌のスクリーニング検査は益benefitsより害harmの方が多い。思春期の女性は一過性のHPV感染が多く、子宮頸部の病変は自然消退する、したがって、偽陽性が多いので、不必要で有害な可能性のあるフォローアップ検査と治療を招くことになる、と述べられています。

さて、2021年3月に発表されたJaklevic MCらの論文は、便潜血反応(Fecal Immunochemical Test, FIT) が陽性の場合、大腸鏡検査までどれくらい間隔があいても不利益を被らないか?について論じています。この中で、HEDISの影響の大きさについて記述があります。もし、医療のパフォーマンスの測定項目にFITが陽性の場合、例えば、6か月以内に大腸鏡を受けた患者の割合を追加すると、大腸癌による死亡が減少することが期待できるかもしれない。

Jaklevic MC. The Push for Timely Follow-up After Abnormal At-home Colon Cancer Screening Results. JAMA. 2021 Mar 31. doi: 10.1001/jama.2021.2018. Epub ahead of print. PMID: 33787816.

Quality Indicator (QI)などとの関係も含め、HEDISの活動には今後も注目する必要がありそうですが、データの規模・正確さ、取り扱う医療の範囲、スピードなど様々な点で、HEDISのアプローチは優れているように思えます。また、”ビッグデータ”とも関係があります。HEDISのウェブページにはLATEST HEDIS VIDEOSがあり、多数のビデオがアップされています。

EBM crisis?

MGICappのウェブサイトPublicationsのタブを開くと、Vandvik Pの2016年のGuidelines International Network (G-I-N)における”The Evidence Ecosystem”と題する発表のビデオがあり、その2分6秒(2:06)で取り上げられている論文が、2014年のGreenhalgh TらのBMJに発表された論文です。タイトルは”Evidence based medicine: a movement in crisis?”です。7年前の論文ですが、「Evidence based medicineは多くの利点があったが、いくつかの意図されなかった負の結果があった」ことが述べられています。

Crisisとして挙げられているのは、次のようなことです:
・エビデンスに基づいた「品質マーク」が既得権益者に悪用されている。
・エビデンスの量、特に臨床ガイドラインの量が多すぎて参照しきれなくなっている。
・統計的に有意な利益は、臨床現場ではわずかmarginalなものかもしれない。
・融通の利かないルールやテクノロジーを駆使したプロンプトは、患者中心ではなくマネージメント主導のケアを生み出す可能性がある。
・エビデンスに基づくガイドラインは、複雑な多臓器疾患にはうまく対応できないことが多い。

次に、☆Real evidence based medicine(真のEBM)は次のようなものであると述べています:
・患者の倫理的なケアを最優先事項とする。
・臨床家と患者が理解できるフォーマットで個別化したエビデンスを求める。
・機械的な規則に従うことではなく専門家の決断により特徴づけられる。
・意味のある対話を通して患者と決断を共有する。
・臨床家-患者の強い関係とケアの人間的側面の上に構築する。
・エビデンスに基づく公衆衛生にはコミュニティーレベルでこれらの原則を適用する。

そして、☆真のEBMを提供するためのアクションとしては以下のものが挙げられています:
・患者はより良いエビデンス、より良い提示、よりよい説明、そしてより個別化した方法で適用されることを要求すべきである。
・臨床研修は文献検索と批判的吟味を超えた、専門家としての判断と協働意思決定Shared Decision Makingへ進むべきである。
・エビデンスサマリー、診療ガイドライン、意思決定支援ツールの作成者は利用者、目的、制約を明確にすべきである。
・出版者は研究が方法論的水準だけでなく利用しやすさusabilityの水準を満たすことを要求すべきである。
・政策決定者は既得権益者によるエビデンスの手段としての生成と利用に抵抗すべきである。
・独立した資金提供者が質の高い臨床的および公衆衛生のエビデンスの創生、統合、配布を形成することがますます必要である。
・研究計画はより広範で、より学際的で、疾患経験、エビデンスの解釈に関する心理学、臨床家と患者の交渉とエビデンスの共有、過剰診断による害の予防法を取り込むべきである。

そして、”真のEBMは個々の患者のケアを最優先事項とし、これらの状況下で、その疾患あるいは病態のこの時点で、何がこの患者のための最善の一連のアクションか、を問うものである”。”そのためには、エビデンスはその患者のために個別化されなければならない。適切なケアの決断は最善の(平均としての)エビデンスとは異なるかもしれない”と述べています。

この点ではDecision science, Multi-criteria decision analysis (MCDA)、Shared Decision Makingの理解と実践スキルが求められていると思います。

Comparative Effectiveness Research比較効果研究の必要性も関連してきます。

臨床研修はルールに従うことから、方向を変える必要があることも主張されています。”基礎的な数量リテラシーnumeracy、データベース検索、研究に対してシステマティックに質問できる能力を含む批判的吟味のスキルはEBMのコンピテンスの前提であり、臨床家はこれらを実際の患者に適用する必要がある”ということも述べられています。

最後に、☆真のEBMのためのキャンペーンとして、過剰医療への対策、すべての臨床研究の登録、医学研究おける無駄の低減、出版の水準の改善、統合化された医学教育が挙げられています。

2014年の論文なので、この論文で指摘された問題や課題は、今2021年の時点では、その後、解決されたり、解決に向かって進みつつあるものもあるでしょうし、2014年の時点ではまだわからずその後新たに出てきた問題や課題もあるでしょう。

MAGICappは、いまだ解決されていない課題に応えようとする活動のひとつのようですが、解決法はひとつではないでしょう。