FDAのBenefit-Risk Assessment Framework

FDA U.S. Food and Drug Administration米国食品医薬品局は2013年にStructured Approach to Benefit-Risk Assessment in Drug Regulatory Decision-Makingという実行プランを発表しています。そのアップデートが2018年3月30日にDraft PDUFA VI Implementation Planとして発表されています。(PDUFAは Prescription Drug User Fee Actのことです。)この文書の中で、Benefit-Risk Framework (BRF)を強化し、コミュニケーションを促進することがFDAの使命のひとつであると述べられています。

2016年12月16日に発効したThe 21st Century Cures Act (Cures Act)によって、許認可に関わる意思決定に資するために関係のある患者の経験のデータおよび関連のある情報を構造化されたBenefit-Risk Frameworkベネフィット・リスクアセスメントの枠組みにを取り入れることに対してFDAはどのように期待しているかを述べたガイダンスを出すことが求められています。

現時点で、FDA Benefit-Risk FrameworkはDecision FactorとしてAnalysis of Condition, Current Treatment Options, Benefit, Risk, Risk Managmentが設定されており、各項目に対してEvidence and UncertaintiesとConclulsions and Reasonsを記載し、まとめとしてBenefit-Risk Summary Assessmentを記載するように作られています。

EMAのBenefit-risk methodology

EMAはEuropean Medicines Agency (欧州医薬品局)のことで、European Union (EU)欧州連合の医薬品規制当局です。EMAは医薬品の許認可の際にBenefitsがRisksを上回るかどうかを審査します。次のように述べられています:”The European Medicines Agency’s opinions are based on balancing the desired effects or ‘benefits’ of a medicine against its undesired effects or ‘risks’. The Agency can recommend the authorisation of a medicine whose benefits are judged to be greater than its risks. In contrast, a medicine whose risks outweigh its benefits cannot be recommended for marketing.”すなわち、”医薬品の望ましい効果=Benefitsベネフィットがその望ましくない効果=Risksリスクより大きいと判断された時に認可を推奨する”とのことです。

EMAは医薬品のbenefitsとrisksのアセスメントをより一定した、より透明性の高い、審査がより容易なものにするために、当局の作業の中で使用できる、Decision-making model決断モデル(意思決定モデル)を見つけるためのBenefit-risk methodology projectを2009年に開始しました。その結果を5つのWork packageとして公開しています。ただし、これらはThe Committee for Medicinal Products for Human Use (CHMP) 欧州医薬品庁ヒト用医薬品委員会の見解を代表するものではなく、研究あるいは一つの例として取り扱うべきことが免責条項で述べられています。

Work packge 1 report: description of the current practice of benefit-risk assessment for centralised procedure products in the EU regulatory networkを見ると、2009年に、5か国の規制当局の42名のキーパーソンにインタビューをして当時の現状の調査をしています。インタビューの項目の中には、Benefits、Risksの理解、Benefit-risk assessmentのプロセスが含まれています。インタビューの結果、全員が”Benefit-risk balanceは専門家の判断によるものであり、許認可のプロセスで最も難しいステップである”ことを認め、”The benefit-risk balance is assessed mainly intuitively, the responsibility of an accountable senior assessor in some agencies or of a group in other agencies, as a result of extensive discussion. “と述べられています。つまり、この時点では、Benefit-riskのバランスは主に直感的に評価されていたと述べられています。

Work package 4 report: Benefit-risk tools and processesを見ると、Benefit-riskアセスメントの枠組みとしては、PrOACT-URL、モデルとしては、Multi-criteria decision analysis (MCDA) models(多基準決断分析モデル)が最も医薬品の許認可の作業プロセスに適合すること、また、これらの適用は”判断が難しい場合、異論が多い場合に有用であろう”と述べられています。具体的には、”ベネフィット・リスクのバランスが近接している、効果の臨床的意義の判断により望ましいあるいは望ましくないのいずれの方向にも傾きうる場合、多くの属性が相反する方向である場合”が上げられています。PrOACT-URLについてはPharmacoepidemiologic Reseach on Outcomes of Therapeutics by European Consortium PROTECT解説を参照してください。MCDAについてもPROTECTに解説があります。


CEA alongside clinical trials II

臨床試験実施時に医療経済的分析を臨床試験に含めて行う場合のガイダンスが International Society for Pharmacoeconomics and Outcomes Research (ISPOR) 国際医薬経済・アウトカム研究学会 より2014年に発表されている。 Ramsey SD, Willke RJ, Glick H, Reed SD, Augustovski F, Jonsson B, Briggs A, Sullivan SD: Cost-effectiveness analysis alongside clinical trials II-An ISPOR Good Research Practices Task Force report. Value Health 2015;18:161-72. PMID: 25773551

これは2005年に発表された報告の改訂版である。抄録から抜粋すると:” 臨床試験のデザイン、データ要素の選択、データベースのデザインと管理、分析、結果の報告についての推奨を2014年に改訂した。臨床試験はEfficacyではなくEffectivenessを評価し、臨床的アウトカムの測定を含むべきであり、研究対象者から医療資源の利用と健康状態効用値health state utilitiesを直接得るべきである。経済的データの収集もすべて研究の中に織り込むべきである。増分解析を治療企図アプローチを用いて行い、関連する亜群解析も補足的に行うべきである。不確実性の特徴を明らかにすべきである。論文は確立されている費用対効果分析の結果報告のスタンダードを遵守すべきである。臨床試験に伴う経済の研究は資源配分の決定をする際に臨床的効果(Efficacy)と伴に経済的価値のエビデンスを考慮する決定者のための情報として、価値のエビデンスを考えるモデル化研究のような他の評価を補足するものである。 ”

費用対効果分析の結果報告のスタンダードはCHEERSのこと。臨床試験で測定されるアウトカムがより多様化することになるのではないかと考えられる。

CHEERS statement

The Consolidated Health Economic Evaluation Reporting Standards CHEERS statement CHEERS声明ー医療経済評価における報告様式のガイダンスー は2013年に International Society for Pharmacoeconomics and Outcomes (ISPOR) 国際医薬経済・アウトカム研究学会から発表された医療経済評価に関する論文の執筆ガイダンスである。Husereau D, Drummond M, Petrou S, Carswell C, Moher D, Greenberg D, Augustovski F, Briggs AH, Mauskopf J, Loder E, ISPOR Health Economic Evaluation Publication Guidelines-CHEERS Good Reporting Practices Task Force: Consolidated Health Economic Evaluation Reporting Standards (CHEERS)–explanation and elaboration: a report of the ISPOR Health Economic Evaluation Publication Guidelines Good Reporting Practices Task Force. Value Health 2013;16:231-50. PMID: 23538175白岩らの日本語訳も発表されている。

以下の項目について、望ましい執筆方法が解説されている:
タイトルと抄録:タイトル、抄録、序論:背景と目的、方法:対象集団とサブグループ状況や場所、研究の立場、比較対照、分析期間、割引率、アウトカムの選択効果の測定、選好に基づくアウトカムの測定や評価、資源消費と費用の推計、通貨・時点・換算、モデルの選択、仮定、解析方法、結果:研究で用いたパラメータ、増分費用と増分アウトカム、不確実性異質性、考察:研究結果・限界・一般化可能性・現在の知見、その他:資金源、利益相反

太字で示した項目は、医療経済的解析のデータソースとして用いられる臨床研究の臨床疫学的な視点での評価に関係する。