The six characteristics of CER

IOMの定義する比較効果研究Comparative Effectiveness Research (CER)の6つの特徴は:

  1. CER directly informs a specific clinical decision (patient perspective) or a health policy decision (population perspective).
  2. CER results are described at the population and subgroup levels.
  3. CER compares at least two alternative interventions, each with the potential to be “best practice.”
  4. CER employs methods and data sources appropriate for the decision of interest.
  5. CER is conducted in settings that are similar to those in which the intervention will be used in practice.
  6. CER measures outcomes – both benefits and harms – that are important to patients.

”CERは特定の臨床決断(患者さんの観点)あるいは健康方針決定(ポピュレーションの観点)に直接情報を与えるものである”ということです。”直接”という意味は、そのまま意思決定に用いることができるということです。

”CERは患者さんにとって重要な益と害のアウトカムを測定する”ということです。

診療ガイドライン作成において、推奨作成に向けての作業はまさにCERですね。CERはエビデンスの生成だけでなくエビデンスの統合も含みますから。

文献: Velentgas P, Dreyer N, Nourjah P, Smith S, Torhia MM, ed : Developing a protocol for observational comparative effectiveness research: a User’s guide. AHRQ, 2013, Rockville. PubMedリンク

比較効果研究CERと診療ガイドライン作成

比較効果研究Comparative Effectiveness Research (CER)のNAM National Academy of Medicine (旧IOM Institute of Medicine)の定義は、“比較効果研究CERは臨床状態の予防、診断、治療、モニターのためあるいはケアの供給を改善するための方法の選択肢の益と害を比較するエビデンスの生成と統合を行うことである。CERの目的は個人および集団の両方で、消費者、臨床家、購入者と政策決定者が、ヘルスケアを改善するであろう、情報を与えられた上での決断を支援することである。”です。以前の投稿で述べたとおりです。

一方、診療ガイドラインのMindsの定義は、WHOやGRADE Working groupと同じですが、”診療上の重要度の高い医療行為について、エビデンスのシステマティックレビューとその総体評価、益と害のバランスなどを考量して、患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する文書”です。(Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017」)

CERは一次研究だけでなくエビデンスの統合も含まれます。つまり、システマティックレビュー/メタアナリシスもCERになる可能性があります。CERの目的のひとつは”個人および集団の両方で、…情報を与えられた上での決断を支援すること”になっています。ここには”推奨”という言葉は出てきませんが、”決断を支援する”、つまり”意思決定を支援する”ことが目的であることが明確に述べられています。

ひとつのクリニカルクエスチョンを取り上げてみると、診療ガイドライン作成における、システマティックレビューまでの過程をひとつのCERと呼ぶことにはあまり異論はないのではないかと思います*。また、患者さんの参加という点でもCERと共通点があります。推奨作成の過程も科学的に進めることができるのであれば、推奨も含めてひとつのCERであると言っていいのではないでしょうか。このような考えを認めるのであれば、”診療ガイドライン作成はCERを行うことである”ということになり、診療ガイドライン作成に参加され尽力された方の学問的業績として取り扱うべきであるということになります。

システマティックレビュー/メタアナリシスの論文として発表するだけでなく、決断分析なども含めた推奨までの過程をCERの論文として発表することを今後推進すべきではないでしょうか。そうすることで、推奨作成の過程も含めて、ピアレビューを受けたうえで、出版され、それらの蓄積を束ねる形で、診療ガイドラインを作成することが可能になります。

文献:——–
Asche CV ed.: Applying Comparative Effectiveness Data to Medical Decision Making: A Practical Guide. 2016, Adis (Springer International Publishing Switzerland) この本にはCERの定義について、IOMだけでなく、NIH、AHRQ、PCORI、Federal Coordinating Council for Comparative Effectiveness Researchの定義も記載されています。

*もともとIOMは2011年の時点で、システマティックレビューの定義のなかで、システマティックレビューは”scientific investigation”科学的研究であると述べています。 ”A systematic review is a scientific investigation that focuses on a specific question and uses explicit, preplanned scientific methods to identify, select, assess, and summarize the findings of individual, relevant studies. ” (Clinical Practice Guidelines We Can Trust, 2011) また、多くのシステマティックレビュー/メタアナリシスの論文がさまざなジャーナルに発表されていて、システマティックレビュー/メタアナリシスは学問的な活動の成果であることについては異論はないと思います。さらに、CERの条件にあえば、CERとしても成立します。

…integrating cost effectiveness evidence into clinical practice guidelines

Guidelines and Economists Network International ( GENI )という国際的組織があります。そのAgenda課題は、

” To facilitate the effective integration of Clinical Practice Guidelines (CPGs), economic and clinical evidence into national decision making and clinical practice in the health sector, especially hospitals and primary care. “

すなわち「 診療ガイドライン、経済的および臨床的エビデンスを特に病院とプライマリケアの健康セクターでの医療と国レベルの意思決定のために効率的に統合することを促進すること 」です。ここではEconomic evidenceとClinical evidenceという言葉が使われています。

GENIの Chair: Michael Drummond (UK)    CEO: Kathryn M. Antioch (Australia) とBoard Members: Louis Niessen (USA) 、 Hindrik Vondeling (Denmark) らの論文が2017年に発表されており、”Economic evidence”を”Clinical Practice Guideline”と”National decision making”にどのように取り入れるかについて、オーストラリアでの体験を踏まえて、述べています。

こちらの論文です。 Antioch KM, Drummond MF, Niessen LW, Vondeling H: International lessons in new methods for grading and integrating cost effectiveness evidence into clinical practice guidelines. Cost Eff Resour Alloc 2017;15:1 DOI 10.1186/s12962-017-0063-x. PMID: 28203120

Economic evidenceはCost-effectiveness analysis (CEA) thresholds, Opportunity cost, Willingness-to-pay (WTP)に関するものです。ただし、End-of-life therapiesは特別の考慮が必要とされます。さらに、”Involvement time, logistics, innovation price, price sensitivity, substitutes and complements, absenteeism and presentismに関わってきます。

Economic evidenceのグレーディングにはThe Consolidated Guidelines for the Reporting of Economic Evaluations (CHEERS) 24 item check listとthe Drummond ten-point check listおよび結果をスコア化するための質問票を用いることを提案しています。(CHEERSとその日本語訳については別の投稿で紹介しました)

この論文のTable 1 Assessing CEA evidence using shadow prices in Australia: NHMRC*ではRanking of evidence on costsとRanking of evidence on effectsの組み合わせで、生存年あたりの費用($)によって推奨する/推奨しないという判定の基準が示されています。(*National Health and Medical Research Council)

そして、”Priority setting remains essential and trade-off decisions between policy criteria can be based on MCDA, both in evidence based clinical medicine and in health planning.” すなわち、「優先度の設定は必須であり、方針基準の間のトレードオフのある意思決定はMCDA(Multi-Criteria Decision Analysis)をよりどころにできるであろう」と述べています。MCDAについてはISPORのGood Practice Guidelines for conduction MCDAの論文、Thokala P 2016Marsh K 2016が引用されています。(以前の投稿で紹介しました。)

Willingness to pay per QALYまたはLYG (life years gained)の受け入れ可能な最大値(閾値)を設定することで、Cost-Effectiveness Analysis (CEA)のDecision ruleを設定できるのではないかと述べられています。その最大値は、患者と家族のQOL, 生存の改善、機能的状態、重篤でまれで予防可能であるいは若年で永続的な効果につながるか、他の選択肢がない、その介入が平等の見地から他のセクションへの有害な流れを防止できる、などの項目を検討したうえで、妥当性が検討されます。

診療ガイドライン作成者は最新のCost-effective methodologyを知る必要があり、NICEのReference Caseはその一つであることが述べられています。NICEの医療経済評価については以前の投稿で紹介しました。

また、International Health Economists Association (iHWA )という組織があり、2019年7月13-17日スイスBaselで学会が開催されます。そのミッションは以下のとおりです。医療経済学の発展が大きな目的のようです。

“iHEA’s mission is to:    Increase communication among health economists;    Foster a higher standard of debate in the application of economics to health and health care systems; and    Assist young researchers at the start of their careers. “

さて、MCDAについてですが、医療経済学的な評価の結果と臨床的な効果の評価は異なる尺度が用いられているので、MCDAでトレードオフのある複数の評価項目に含めて評価し介入を比較するのはワンステップではできません。やはりスコア化のステップが必要です。

診療ガイドライン作成への患者・市民の参加状況

2017年に発表された論文です。

2011年のInstitute of Medicine (IOM)の”CPG we can trust”では患者・市民がガイドラインパネルに参加すること、CPGのドラフトに対して患者・市民からのインプットを求めることを推奨している。しかし、実際にはそれが十分には行われていない。患者市民の参加は、次のような点で必要である:
1.ガイドラインの優先すべき事項を決めること。
2.新しいトピックを紹介すること。
3.重要な対象者とアウトカムを同定すること。
4.知見が意味があるかについて情報を与えること。
5.ケアに対する全人的アプローチを促進すること。
6.推奨が患者の価値観とどのように関係するかを評価すること。
7.わかりやすい表現を用いたバージョンを作成することを求めること。

Armstrong MJ, Bloom JA: Patient involvement in guidelines is poor five years after institute of medicine standards: review of guideline methodologies. Res Involv Engagem 2017;3:19. PMID: 29062544