MacでR, JAGS, rjagsを使うNetwork meta-analysisをやってみる

Rはフリーの統計解析プラットフォームおよびプログラミング言語ですが、今は相当普及していて、アカデミアでも、使っている人が大勢いると思います。The Comprehensive R Archive NetworkではWindows版のみならずMac版、Linux版が提供されています。普段Windows10のノートPCを使うことが多いのですが、周りにはMacを使う人も多く、私自身も以前はMacを主に使っていました。今も時々iMacを使うことがあります。しばらくMacでRを使うことはなかったのですが、今日はMacでRの最新バージョンをインストールして、さらにXQuartzをインストールし、Bayesian推定に使われるJAGS (Just Another Gibbs Sampler)をインストールし、Rのパッケージであるrjagsgemtcをインストールして、動かして見ました。

Network meta-analysisネットワークメタアナリシスにはすでに紹介したことのある、OpenBUGSが使われる事が多いのですが、ネットワークメタアナリシス用のRのパッケージであるgemtcとpcnetmetaはRからrjagsを介してJAGSを動かしてMarkov Chain Monte Carlo (MCMC) simulationを実行するようになっています。gemtcはコントラストベースcontrast-basedのネットワークメタアナリシス、pcnetmetaはアームベースarm-basedのネットワークメタアナリシスができるRのパッケージです。

rjagsとJAGSを使う事で、WindowsだけでなくMacでも同じようにデータ解析ができるというのが最大の利点だろうと思います。OpenBUGSはもともとWinBUGSと呼ばれていたもので、Windowsでしか動きませんが、JAGSは同じコードがMacでもWindowsでも動くので、Macの利用者のことを考えてこのような選択になったのだろうと思います。Windowsであれば、RからOpenBUGSを動かしてデータのやり取りをするにはBRugsというパッケージがあります。

Mac用のRはR-4.0.0.pkgでバージョンは4.0.0になっています(2020.5.22時点)。CRANのメインページから左サイドバーのMirrorsを開き、Japanのサイトのいずれかを選びます。Download R for (Mac) OS Xのページを開き、R-4.0.0.pkgをダウンドードして他のMac用ソフトと同じようにインストールします。続いて、同じページにあるXQuartzのリンクを開き、XQuartz-2.7.22.dmgをダウンロードしてインストールします。

JAGSは上記のリンクを開いて、Downloadsの項のfiles pageのリンクを開き、JAGSのリンクを開き、4.xを開き、MacOSを開いて、JAGS-4.4.0.dmgをダウンロードしてインストールします。JAGSはRとは独立したソフトウェアです。

これで後はRを起動して、Rのパッケージでであるrjagsとgemtcをインストールします。個別に、自分でRの”パッケージとデータ”メニュー から”パッケージインストーラ”を選んで、そこからインストールすることもできますし、以下のスクリプトをRのファイルメニューから新規文書で開かれるエディタに貼り付けて実行(command+return)することでもインストールする事ができます。その行にカーソルを置いてcommand+returnで実行されます。(Windowsだとctrl+rまたは実行ボタン)。packneed=c( )のパッケージ名を変更する事で他のパッケージのインストールにも使えます。

packneed=c(“gemtc”,”rjags”);current=installed.packages();addpack=setdiff(packneed,rownames(current));url=”https://cran.ism.ac.jp/”;if(length(addpack)>0){install.packages(addpack,repos=url)};if(length(addpack)==0){print(“Already installed.”)}

ここではuseRsで私が紹介しているgemtcを動かすスクリプトを実行した結果を示します。”#4. GeMTCを用いるベイジアンネットワークメタアナリシス”のScriptをクリックして出てくるバーのD:の右の四角をクリックするとクリップボードに内容がコピーされるので、Excelを開いて貼り付け、データを確認して下さい。サンプルデータの形式でデータを用意すれば、(上が二値変数、下が連続変数のデータサンプルです)。二値変数アウトカムでも連続変数アウトカムでもどちらも解析可能です。効果指標の値が小さいほうが望ましい場合は、上の#4-1のScript、値が大きい方が望ましい場合は、下の#4-2のScriptを使います。W:がWindows用、M:がMac用のスクリプトになっています。

この例は連続変数のアウトカムで、下のサンプルデータを用いています。Node-splittingモデルのプロットも出力するので、直接比較と間接比較の効果推定値のインコヒレンスincoherenceの評価がやりやすくなると思います。

自分でデータを用意するときは、Excelで同じ形式で用意し、データ範囲を選択し(この例ではセルA1からM11)、コピー操作をしてから、Rに戻り以下のいずれかのスクリプトを実行します(エディターのスクリプト上にカーソルを置いて、command+enterを押す)。上のスクリプトは値が小さい方が望ましい効果指標の場合、下のスクリプトは値が大きい方が望ましい効果指標の場合です。これらのスクリプトはuseRsでScriptをクリックして出てくるバーのM:の右の四角をクリックするとクリップボードにコピーされます。(Windowsの場合はW:の右の四角をクリックします)。

exdat=read.delim(pipe(“pbpaste”),sep=”\t”,header=TRUE);source(“http://zanet.biz/med/stat/ma/nma_gemtc_simpleL.R”)

exdat=read.delim(pipe(“pbpaste”),sep=”\t”,header=TRUE);source(“http://zanet.biz/med/stat/ma/nma_gemtc_simpleH.R”)

これらのスクリプトでは、私が利用しているウェブサーバーに置いてあるスクリプトのファイルをsource( )関数で読み込んで実行することでクリップボードにコピーされたデータに対して、データ処理、解析が行われるようになっています。スクリプトのファイルはhttpプロトコールでインターネットを介してダウンロードされ、そのままRで実行されます。Rは自分のPCに置かれているスクリプトファイルだけでなく、インターネットを介し別のサーバーに置かれているスクリプトを実行できる仕組みがあり、またデータもそのような仕組みで取り扱え、遠隔での共同作業がやりやすいようになっている点が素晴らしいと思います。

最後に、二値変数のアウトカムの場合のデータサンプルとそのネットワークグラフを示します。

解析データは1行に一つの硏究のデータが含まれています。データの内t[,1], t[,2], t[,3]には治療番号のデータが入力されています。治療番号1が参照治療comparatorになります。必要に応じて、カラムや行を増やして使う事ができますna[]は治療アーム数です。

上の例では、2行目と3行目の研究は3アームで同時に3つの治療が比較されたランダム化比較試験です。それ以外の研究は2アームなのでt[,3]はNAになっています。行3,と行22の2つの研究は治療2と3を直接比較した研究です。治療2と3を治療1を介して間接比較できる研究は治療1と3を直接比較した行2, 4〜10, 13〜15, 18〜21の15研究と治療1と治療2を直接比較した行11,12,17の3研究があります。これら治療1と2の直接比較と治療2と3の直接比較から得られる効果推定値を差を求めることで、治療2と3の間接比較の効果推定値が得られることになります。そして、これら直接比較の効果推定値と間接比較の効果推定値の一致の程度を評価する事が必要になるので、ネットワークメタアナリシスに基づくエビデンスの確実性の評価は作業量が多くなり大変です。

ネットワークグラフで閉じられたループがあると、直接比較の効果推定値だけでなく間接比較の効果推定値が得られる事がわかります。この例では、2と3を結ぶ線より、3と1を結ぶ線が太く、そこに多くの研究がある事が示されています。2と1を結ぶ線もあるので、2と3を比較する間接比較のデータが得られ、2と3を比較するネットワーク効果推定値には間接比較のデータがかなり影響するであろうと考えられます。実際、Node-splittingモデルのプロットを見ると、3 vs 2のnetwork estimateはindirectのestimateの影響で、オッズ比が0.93 (0.22-3.9)から1.4 (0.63-3.3)と大きな値になっています。

なお、この解析結果は#4-1のデータを#4-2のスクリプトで解析したものです。つまり、オッズ比の値が大きい方が望ましい結果です。Rankogramを見ると、治療4が最も治療効果が高い確率が最も高い事が言えます。しかし、上のNode-splittingモデルの4 vs 3の比較を見ると、間接比較の点推定値がかなり大きく、直接比較との間の検定ではP=0.0819ですが、バイアス、非直接性、非移行性intransitivityなどによって偏りが生じている可能性をチェックする必要があると言えます。

このようにネットワークメタアナリシスに基づくエビデンスの確実性の評価はかなりの作業量が必要となる事がわかります。ネットワークがもっと大きく、複雑になるとペア比較の数も多くなり、ネットワークの構造が複雑になり、間接比較と直接比較の効果推定値を比較する事も大変な作業になります。

バイアスの効果とバイアス調整

バイアスの効果はリスク比あるいはオッズ比などで表すことができます。バイアスの効果を定量的に推定できるのであれば、実際に得られた効果推定値をそれで調整して真の値により近づけることができます。

バイアスのモデル化についてはTurner RM 2009らのJournal of the Royal Statistical Society Series Aに発表された論文が精細な内容で参考になります。個別研究のバイアスドメイン・項目を評価しバイス調整をしたうえで、複数の研究のメタアナリシスの統合値を得る手法です。

バイアスの効果とバイアス調整について図にしてみました。

バイアス効果とバイアス調整。観察された効果推定値は黒、真の値はグレー、バイアス効果は青で表示。リスク比で表した場合真の値にバイアスの効果が加わって観察された値は掛け算、自然対数にすると足し算で得られる。バイアスで調整する場合は割り算あるいは引き算になる。

バイアスの効果には大きさと方向(過大評価、過小評価)と不確実性の3つの要素があります。

バイアスの効果を定量的解析する場合には、例えば、リスク比あるいはオッズ比を効果指標にした場合、自然対数に変換すると、正規分布に従うとみなせ、研究で得られた効果推定値は真の値とバイアス効果の加算された値になります。バイアス調整をする場合は、推定されるバイアス効果の大きさをリスク比で表し、その自然対数を引き算することで、真の値が得られはずです。分散は両者の合計になります。多変量正規分布の原理です。

メタアナリシスで得られた統合値の95%信頼区間の上限値(あるいは下限値)がNull effectあるいは臨床的閾値を超えるほどの大きさのバイアスの効果は簡単に計算できます。一般的に行われているバイアスリスクRisk of biasの評価結果でバイアスリスクが高く、バイアスの大きさがこの値よりも大きな効果を持っていると判断できる場合は、エビデンスの確実性が低くなると考えることができます。もし、そのようなバイアス効果の大きさがあり得ないほど大きいのであれば、ある程度のバイアスリスクがあっても、エビデンスの確実性は高いと考えることができるでしょう。

文献:
Turner RM, Spiegelhalter DJ, Smith GC, Thompson SG: Bias modelling in evidence synthesis. J R Stat Soc Ser A Stat Soc 2009;172:21-47. PMID: 19381328

Turner RM, Lloyd-Jones M, Anumba DO, Smith GC, Spiegelhalter DJ, Squires H, Stevens JW, Sweeting MJ, Urbaniak SJ, Webster R, Thompson SG: Routine antenatal anti-D prophylaxis in women who are Rh(D) negative: meta-analyses adjusted for differences in study design and quality. PLoS One 2012;7:e30711. PMID: 22319580

Darvishian M, Gefenaite G, Turner RM, Pechlivanoglou P, Van der Hoek W, Van den Heuvel ER, Hak E: After adjusting for bias in meta-analysis seasonal influenza vaccine remains effective in community-dwelling elderly. J Clin Epidemiol 2014;67:734-44. PMID: 24768004

Dias S, Sutton AJ, Welton NJ, Ades AE: Evidence synthesis for decision making 3: heterogeneity–subgroups, meta-regression, bias, and bias-adjustment. Med Decis Making 2013;33:618-40. PMID: 23804507

Thompson S, Ekelund U, Jebb S, Lindroos AK, Mander A, Sharp S, Turner R, Wilks D: A proposed method of bias adjustment for meta-analyses of published observational studies. Int J Epidemiol 2011;40:765-77. PMID: 21186183

Wilks DC, Mander AP, Jebb SA, Thompson SG, Sharp SJ, Turner RM, Lindroos AK: Dietary energy density and adiposity: employing bias adjustments in a meta-analysis of prospective studies. BMC Public Health 2011;11:48. PMID: 21255448

Wilks DC, Sharp SJ, Ekelund U, Thompson SG, Mander AP, Turner RM, Jebb SA, Lindroos AK: Objectively measured physical activity and fat mass in children: a bias-adjusted meta-analysis of prospective studies. PLoS One 2011;6:e17205. PMID: 21383837

Schnell-Inderst P, Iglesias CP, Arvandi M, Ciani O, Matteucci Gothe R, Peters J, Blom AW, Taylor RS, Siebert U: A bias-adjusted evidence synthesis of RCT and observational data: the case of total hip replacement. Health Econ 2017;26 Suppl 1:46-69. PMID: 28139089

Doi SA, Barendregt JJ, Onitilo AA: Methods for the bias adjustment of meta-analyses of published observational studies. J Eval Clin Pract 2013;19:653-7. PMID: 22845171

McCarron CE, Pullenayegum EM, Thabane L, Goeree R, Tarride JE: Bayesian hierarchical models combining different study types and adjusting for covariate imbalances: a simulation study to assess model performance. PLoS One 2011;6:e25635. PMID: 22016772

McCarron CE, Pullenayegum EM, Thabane L, Goeree R, Tarride JE: The importance of adjusting for potential confounders in Bayesian hierarchical models synthesising evidence from randomised and non-randomised studies: an application comparing treatments for abdominal aortic aneurysms. BMC Med Res Methodol 2010;10:64. PMID: 20618973

Phillippo DM, Dias S, Welton NJ, Caldwell DM, Taske N, Ades AE: Threshold Analysis as an Alternative to GRADE for Assessing Confidence in Guideline Recommendations Based on Network Meta-analyses. Ann Intern Med 2019;170:538-546. PMID: 30909295

Caldwell DM, Ades AE, Dias S, Watkins S, Li T, Taske N, Naidoo B, Welton NJ: A threshold analysis assessed the credibility of conclusions from network meta-analysis. J Clin Epidemiol 2016;80:68-76. PMID: 27430731

Phillippo DM, Dias S, Ades AE, Didelez V, Welton NJ: Sensitivity of treatment recommendations to bias in network meta-analysis. J R Stat Soc Ser A Stat Soc 2018;181:843-867. PMID: 30449954

Bias adjustment thresholds

2019年にAnnals of Internal MedicineにPhillippo DMらからネットワークメタアナリシスによるエビデンスの確実性からさらに臨床決断へのバイアスの影響を評価する方法について新しい手法が報告されました(1)。GRADE (Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)のエビデンス総体の確実性の評価方法(2, 3)と比較した結果が述べられています。

Bias adjustment thresholdsを用いる方法です。GRADEアプローチではバイアスリスク、非直接性、不精確性、非一貫性、出版バイアスを評価し、複数の研究をまとめたエビデンス総体の確実性の評価を行いますが、直接、臨床決断あるいは推奨への影響を評価するわけではありません。Phillippo DMらの方法では、臨床決断を逆転させるバイアスの閾値を評価し、実際の研究の結果に対してそれ以上のバイアスの影響があるかどうかを判断して、臨床決断が逆転しうるかどうかを解析しています。実際にGRADEの方法を用いた場合と異なる結論が得られることが示されています。

Phillippo DMらの論文は、もともと2016年に発表された同じグループのCaldwell DMらの論文(4)がもとになっています。さらに、2018年にはJournal of Royal Statistical SocietyのSeries AにPhillippo DM, Dias S, Ades AEらの論文(5)として発表されています。Journal of Royal Statistical Societyには2009年にTurner RMらのバイアスの定量的モデル化の論文(6)が発表されており、当然のことながら引用されています。

ネットワークメタアナリシスだけでなく通常のペア比較のメタアナリシスについても同じ手法が適用可能です。非常に重要な論文だと思います。

文献:
(1) Phillippo DM, Dias S, Welton NJ, Caldwell DM, Taske N, Ades AE: Threshold Analysis as an Alternative to GRADE for Assessing Confidence in Guideline Recommendations Based on Network Meta-analyses. Ann Intern Med 2019;170:538-546. PMID: 30909295
(2) Guyatt G, Oxman AD, Sultan S, Brozek J, Glasziou P, Alonso-Coello P, Atkins D, Kunz R, Montori V, Jaeschke R, Rind D, Dahm P, Akl EA, Meerpohl J, Vist G, Berliner E, Norris S, Falck-Ytter Y, Schünemann HJ: GRADE guidelines: 11. Making an overall rating of confidence in effect estimates for a single outcome and for all outcomes. J Clin Epidemiol 2013;66:151-7. PMID: 22542023
(3) Balshem H, Helfand M, Schünemann HJ, Oxman AD, Kunz R, Brozek J, Vist GE, Falck-Ytter Y, Meerpohl J, Norris S, Guyatt GH: GRADE guidelines: 3. Rating the quality of evidence. J Clin Epidemiol 2011;64:401-6. PMID: 21208779
(4) Caldwell DM, Ades AE, Dias S, Watkins S, Li T, Taske N, Naidoo B, Welton NJ: A threshold analysis assessed the credibility of conclusions from network meta-analysis. J Clin Epidemiol 2016;80:68-76. PMID: 27430731
(5) Phillippo DM, Dias S, Ades AE, Didelez V, Welton NJ: Sensitivity of treatment recommendations to bias in network meta-analysis. J R Stat Soc Ser A Stat Soc 2018;181:843-867. PMID: 30449954
(6) Turner RM, Spiegelhalter DJ, Smith GC, Thompson SG: Bias modelling in evidence synthesis. J R Stat Soc Ser A Stat Soc 2009;172:21-47. PMID: 19381328

下の図を見て、バイアスの効果についてちょっと考えてみてください。

Bias effects. RR: Risk Ratio; Log (Natural logarithm) of RR normally distribute and are additive, while on ratio scale RR is multiplicative.

Network Meta-analysisをOpenBUGSで

Network Meta-analysisもだいぶ普及してきているけど、Arm-based modelというのが出てきて、今までの相対的効果指標を統合するという考え方がチャレンジを受けたような状態になっていると思う。

今までの主流はContrast-based modelですよね。

そうなんだ。しかも、ベースラインリスクについは、外部のデータを用いることが勧められていたりする。Dias SたちはそれをBaseline modelと呼んでいる*。

ランダム化比較試験の対照群のデータをそのまま使わない方がいいという考え方にも一理ある。ランダム化比較試験は対象者がセレクトされているから、Real worldでは違う絶対リスクである可能性は高いと考えられるから。しかも、個人個人はリスクが異なるから、リスク比のような相対的効果指標をメタアナリシスで統合して、それを適用して絶対効果を考えた方がいいという考えは理解できる。しかし、一方で絶対リスクをどのデータから求めるべきか?なかなか簡単にはいかない。

リスク比のような相対的効果指標の値はベースラインリスクが変わっても大きくは変動しないということが経験的データでも示されていて、メタアナリシスで統合されるそれぞれの研究のベースラインリスクが異なっていても相対的効果指標はほぼ同じになるはずだからそれを統合したほうがいいと思われて来た。 

単純に論理的にのみ考えると、Arm-based modelは研究ごとのランダム割り付けを無視することになるという批判も正しいようにも思えるけど、実際にはそうでもないという反論もあって一概にはそうは言えないでしょう**。

まずはZhang J, et al: Network meta-analysis of randomized clinical trials: reporting the proper summaries. Clin Trials 2014;11:246-62. PMID: 24096635で出てくるArm-based modelのネットワークメタアナリシスのためのBUGSコードとデータ部分を示します。(こちらの論文もよく書かれています:Zhang J, et al: Bayesian hierarchical models for network meta-analysis incorporating nonignorable missingness. Stat Methods Med Res 2017;26:2227-2243. PMID: 26220535)

今日の目的はOpenBUGSを動かしてネットワークメタアナリシスを実行することなんだけど、このArm-based modelのネットワークメタアナリシスをやってみようと思う。OpenBUGSの使い方の第一歩は以前投稿しました。

(参考文献:
*Dias S, Ades AE, Welton NJ, Jansen JP and Sutton AJ: Network Meta-Analysis for Decision Making. 2018, John Wiley & Sons Ltd.
**Hong H, Chu H, Zhang J, Carlin BP: Rejoinder to the discussion of “a Bayesian missing data framework for generalized multiple outcome mixed treatment comparisons,” by S. Dias and A. E. Ades. Res Synth Methods 2016;7:29-33. PMID: 26461816

model {
for(i in 1:tS) {
p[i]<-phi(mu[t[i]]+ vi[s[i], t[i]]) # model
r[i]~dbin(p[i], totaln[i]) # binomial likelihood
}
for(j in 1:sN){
vi[j, 1:tN]~dmnorm(mn[1:tN], T[1:tN,1:tN]) # multivariate normal distribution
}
invT[1:tN, 1:tN]<-inverse(T[,])
for (j in 1:tN){
mu[j]~dnorm(0, 0.001)
sigma[j]<-sqrt(invT[j, j])
probt[j]<-phi(mu[j]/sqrt(1+invT[j, j]))
#population-averaged treatment specific event rate
}
T[1:tN,1:tN]~dwish(R[1:tN, 1:tN], tN) # Wishart prior
for (k in 1:tN) {
rk[k]<- tN+1-rank(probt[],k) # ranking
best[k]<-equals(rk[k],1) # prob {treatment k is best}
}
for (j in 1:tN){ # calculation of RR, RD and OR
for (k in (j+1):tN){
RR[j, k] <- probt[k]/probt[j]
RD[j, k] <- probt[k]-probt[j]
OR[j, k] <- probt[k]/(1-probt[k])/probt[j]*(1-probt[j])
}
}
}
#DATA
list(tN=4,sN=24,tS=50,mn=c(0, 0, 0, 0),R=structure(.Data=c(1, 0, 0, 0, 0, 1, 0, 0, 0, 0, 1, 0, 0, 0, 0, 1),.Dim=c(4,4)))
s[] t[] r[] totaln[]
1 1 9 140
1 3 23 140
1 4 10 138
2 2 11 78
2 3 12 85
2 4 29 170
3 1 75 731
3 3 363 714
4 1 2 106
4 3 9 205
5 1 58 549
5 3 237 1561
6 1 0 33
6 3 9 48
7 1 3 100
7 3 31 98
8 1 1 31
8 3 26 95
9 1 6 39
9 3 17 77
10 1 79 702
10 2 77 694
11 1 18 671
11 2 21 535
12 1 64 642
12 3 107 761
13 1 5 62
13 3 8 90
14 1 20 234
14 3 34 237
15 1 0 20
15 4 9 20
16 1 8 116
16 2 19 146
17 1 95 1107
17 3 134 1031
18 1 15 187
18 3 35 504
19 1 78 584
19 3 73 675
20 1 69 1177
20 3 54 888
21 2 20 49
21 3 16 43
22 2 7 66
22 4 32 127
23 3 12 76
23 4 20 74
24 3 9 55
24 4 3 26
END

上のブロックをすべて選択して、コピーして、OpenBUGSを立ち上げて、FileメニューからNewを選んで、エディター画面に貼り付けました。

そうそう。そしたら、下の図のように、ModelメニューからSpecification…を選んで、Specification Toolを表示させ、コードのmodelの文字列を選択して反転した状態で、Specification Toolのcheck modelボタンをクリックします。

check model

ボトムバーにmodel is syntactically correctと表示されました。確か次のステップはデータの読み込み、load dataでしたよね。

そうそう。#DATAのlistの文字列を選択して反転させて、Specification Toolのload dataボタンをクリックしましょう。

listをダブルクリックしたら、Specification Toolのload dataボタンがアクティブになりました。クリックしました。あっ、ボトムバーにdata loadedと表示されました。

load data

それでは次に解析対象のデータを読み込ませます。このデータはRのパッケージであるpcnetmetaやいろんなパッケージに付属している禁煙治療のランダム化比較のデータです。
研究数は24件、治療の数は4種類(1) no contact (NC); 2) self-help (SH); 3) individual counselling (IC); 4) group counselling (GC)で、治療アームの数は50です。一行がひとつの治療アームです。コードの#DATA中のtNが治療の数、sNが研究数、tSが比較ペアの数、に対する変数名になってます。治療の種類は次のデータ部分のt[]という変数に1~4の整数で指定されています。研究番号は同じくs[]という変数で表してます。
このデータソースはHasselblad V (1998) “Meta-analysis of multitreatment studies.” Med Decis Making 18(1), 37–43. だそうです。

なるほど。残りのデータは表形式みたいですね。確か、Excelで用意して、コピーして、OpenBUGSのEditメニューからPaste Special…でPlain Textで貼り付けるんでしたね。

その通り。で、s[]から一番下のENDの最後まで選択して、反転させ、Specification Toolのload dataボタンをクリックしてください。

やりました。ボトムバーにdata loadedと表示されたので、Specification Toolのcompileボタンをクリックします。
ボトムバーにmodel compiledと出ました。
load initsとgen initsボタンがアクティブになりましたね。

今回は、初期値の設定のためのデータを特に用意していません。事前分布の値priorをサンプリングする場合、幅広い分布の場合、初期値を設定しないと、非常にはじっこの方の値が得られた場合、Markov Chain Monte Carlo (MCMC)によるGibbsサンプリングがうまく動かなくなることがあるので、そのような場合は、初期値の設定用のデータを用意した方がいいです。書き方は、#DATAのlist()と同じような書き方です。
今回は、T[1:tN,1:tN]~dwish(R[1:tN, 1:tN], tN) # Wishart priorのコードの部分で、マトリックスデータRからWishart分布のランダムサンプリングを行って、マトリックスTに格納する操作をしているので、いずれにせよgen initsの実行が必要になります。load initsなしで、gen initsを実行すると、すべてのランダムサンプリングが実行され、それらの値からMCMCが開始されることになります。

gen initsボタンをクリックしたら、ボトムバーにinitial values generated. model initializedと出ました。
次は、ModelメニューからUpdate…を選んで、Update Toolでupdatesの回数を設定するんでしたね。10000回に設定してみました。それで、updateボタンをクリックしてバーンインを実行します。

Update Tool

あっという間にバーンインが終了しました。

次は、サンプリングした値を記録する変数nodeを設定するんでしたね。InferenceメニューからSamples…を選んで、Sample Monitor Toolを表示して、nodeの右のフィールドに、probtと入力して、setボタンをクリックします。続けて、RR、RD、OR、rk、bestと入力して順次setボタンをクリックしました。全部で6個の変数です。
probtは各治療群の絶対リスクAbsolute risk、RRは各治療ペアでのリスク比、RDは同じくリスク差、ORはオッズ比、rkは各介入が1、2位…の確率、bestは各介入が最善である確率ですね。

その通り。それでは、サンプリングの個数を50000に設定して、つまり、Update Toolのupdatesを50000に変えて、updateボタンをクリックしましょう。

今度は30秒くらいかかりました。結果を見るには、Sample Monitor Toolでnodeのフィールドに*を入力してstatsボタンをクリックするんでしたね。これで、記録された全部の変数nodeの平均値、中央値、95%確信区間などの値が表示されるはずですよね。
出ました。

この結果で、Arm-based modelの特徴として、各治療群の絶対リスクAbsolute riskが得られるということがあげられます。このデータでは、probtの値が大きい方がよい結果です。つまり禁煙成功率が高いということです。
治療4が一番成績がいいことが分かりますね。これはGroup counsellingが禁煙効果が最も高いということですね。best[4]の平均値が0.6667なので、治療4が最善である確率がおよそ0.67であることが分かります。

なるほど、RR, OR, RDについてはすべてのペア比較の値が出てますね。
InferenceメニューからComparison Tool…を選んで、Comparison Toolを表示して、nodeにRRと入力して、caterpillarプロットを表示してみました。プロットを右クリックして、Propertiesからフォントを変えたりしてみました。
probtとRRのdensity(確率密度分布)も表示してみました。

density

リスク比はそのままだと、正規分布ではないですね。対数変換すると左右対称の分布になるはずです。

さて、今回はArm-based modelを用いたNetwork Meta-analysisをOpenBUGSで行いました。同じ解析をRのパッケージであるpcnetmetaを使って実行することができます。同じ結果が得られるはずです。nma.ab.bin()という関数を使うんだけれど、model=”het_cor”にした場合、今回のモデルと同じになります。pcnetmetaでは、下のような、Network Graphも作成できます。

pcnetmetaだけでなく、RのパッケージのプログラムやデータファイルはGitHubで見られるんですね。これってすごいですね。

今回は、OpenBUGSの動かし方についての説明だけで、Network Meta-analysisの統計学的モデルの説明はしなかったけれど、本当はそっちが重要ですね。Arm-based modelは今までの、通常のペア比較だけのメタアナリシスに対しても適用できて、しかも単一群のつまりSingle-armのコホート研究や疾患レジストリーのデータなども活用できる可能性がある。Zhang J, et al: Bayesian hierarchical methods for meta-analysis combining randomized-controlled and single-arm studies. Stat Methods Med Res 2019;28:1293-1310. PMID: 29433407の論文でわかるよ。それと、間接比較の際に、欠損値の補完という考えを適用するというHong Pらの方法も画期的ですね。Hong H, et al: A Bayesian missing data framework for generalized multiple outcome mixed treatment comparisons. Res Synth Methods 2016;7:6-22. PMID: 26536149

これはすごい進歩ですね。本当に。まだまだ議論が続きそうな気配ですね。問題は、直接比較と間接比較のインコヒレンスだけではないですね。

最後にArm-based modelとContrast-based modelを式で表したものを見せるね。

Arm-based model
Contrast-based model