Medical Decision Making書籍

Medical Decision MakingあるいはClinical Decision Making、日本語では臨床決断に関する書籍のリストです。

McNutt RA:Your health, your decisions: How to work with your doctor to become a knowedge-powered patient. 2016, The University of North Carolina Press. この本はアメリカで一般の人向けに書かれた本です。著者のMcNutt先生はここに書かれている手法(絶対効果を棒グラフで人数のデータを表でベースラインリスクとともに示すMulticriteria decision analysisの手法を取り入れた方法)を25年以上実際の診療で使ってきたそうです。このような本が2016年にアメリカで一般向けに出版されたということは驚きです。

Sox HC, Higgins M, Owens DK: Medical Decision Making (2nd ed.). 2013, Wiley-Blackwell. この本はアカデミックな内容を臨床家に理解できるようにという意図で書かれています。それでも理解するのはなかなか難しい内容を含んでいますが、単なる知識にとどまらず、実用的なレベルまで書かれています。必読書ではないかと思います。

Anderson BL, Schulkin J ed.: Numerical Reasoning in Judgements and Decision Making about Health. 2014, Cambridge University Press.この本は包括的な内容で、特にChapter 7 Using visual aids to help people with  low numeracy make better decisions.  は興味深く有用です。Evidence-based communicationについて考えさせられます。

Schwartz A, BergusG: Medical Decision Making: A Physician’s Guide. 2008, Cambridge University Press. 心理学的な面も取り上げられています。

◯ Elwyn G, Edwards A, Thompson R, ed.: Shared Decision Making in Health Care: Achieving Evidence-based Patient Choice. 2016, Oxford University Press. この本はShared Decision Making協働意思決定に関する教科書というような内容です。実用的な面は米AHRQ Agency for Healthcare Research and Quality医療研究・品質調査機構のThe SHARE Approach の方が参考になるでしょう。

◯ Welton NJ, Sutton AJ, Cooper N, Abrams K, Ades AE: Evidence synthesis for decision making in healthcare. (Statistics in practice), 2012, Wiley.この本はIntroductionに “This book is at heart about a fusion of ideas from medical statistics, clinical epidemiology, decision analysis, and health economics.” と書かれている通り、臨床決断に関して医学統計学、臨床疫学、決断分析、医療経済学の見地からすべて取り込んだ内容になっています。この本が2012年にすでに出版されていました。

◯ Jiang Q, He W: Benefit-Risk Assessment Methods in Medical Product Development: Bridging Qualitative and Quantitative Assessments. 2017, Chapman and Hall/CRC.   FDAのBenefit-risk assessment frameworkについても含まれています。

他には、
Falasca T: Physician’s Guide to Better Medical Decision Making: Critical Thinking in Medicine. 2019。
Gross R: Making Medical Decisions: An approach to Clinical Decision Making for Practicing Physicians. 1999.リチャード・グロス:臨床決断のエッセンス―不確実な臨床現場で最善の選択をするために。2002年、医学書院。
があります。


Multi-Criteria Decision Analysis (MCDA)

MCDA多基準決断分析はMultiple Criteria Decision Analysisとも呼ばれています。MCDAでは、選択肢がいくつかある場合、それらを比較するための判定基準となる評価項目あるいは基準項目Criteriaをいくつか設定しモデルを作成します(図)。

評価項目の相対的重要性を決め、さらにそれぞれの評価項目ごとにどの選択肢が好ましいかを決めます。これらの決め方にはいろいろな方法があります。たとえば、Analytic Hierarchy Process (AHP)階層分析法では9分の1から9倍まででスコアリングします(図)。

各選択肢について選択肢の比較のスコアと基準項目の比較に基づく重みの積を合計してひとつの値に集約し、その値が最大の選択肢を最善の選択肢とします。多くの場合、スコアと重みは標準化(合計が1あるいは100%)になる様に変換する)してから計算が行われ、Eigen valueを用いたり、Centroidが用いられたりすることも行われています。AHPとOrdinal method(Rank order method)順位法については森實敏夫:第35回 価値観を反映した益と害の評価法。あいみっく 2015;36:86-91.を参考にして下さい。

さて、MCDAにはさまざまな手法がありますが、ISPOR MCDA Emerging Good Practices Task ForceがMCDAに関する2つの報告を出しています(文献リスト)。

その中でThokala P 2016ではMCDAが適用されるであろう例としてShared Decision Making協働意思決定を上げています。SDMにおける患者と臨床家のMCDAの適用は、”関連するリスクとベネフィットが症例ごとに異なる場合、患者さんが異なる好み(preferences)を持っている場合の一度きりの決断(one-off decision)。したがって、基準とその重要性は決断ごとに異なる。”場合であると。

PROTECT

PROTECTはPharmacoepidemiological Research on Outcomes of Therapeutics by a European Consortiumのことで、”治療アウトカムに関する薬剤疫学的研究ヨーロッパコンソーシアム”のこと。

Hallgreen CE, et al: Literature review of visual representation of the results of benefit-risk assessments of medicinal products. Pharmacoepidemiol Drug Saf 2016;25:238-50. PMID: 26521865の論文もPROTECT Benefit-Risk groupから出されている。

PROTECT Benefit-Risk groupのサイトのVisualisationsのページはかなり包括的で興味深い。VisualizationsではなくVisualisationsというスペルはアメリカより英国に近いということだが、ヨーロッパ系であることがわかる。医療者と患者・介護者のコミュニケ―ションについても研究がかなり行われており、Evidence-based communicationという言葉も使われている。

PROTECTからは PrOACT-URL: Problem, Objectives, Alternatives, Consequences, Trade-offs, Uncertainty, Risk tolerance, and Linked decisions というBenefit-Risk assessmentのためのフレームワークが提言されている。

PrOacTive

フォーマル(正式)な益と害の評価法として提言されている方法のひとつです。

” Do not use verbal expressions such as leikely, possibly, rarely, occasionally. Use probabilities and related numerical expressions.  You can not reach an agreement while using the same expressions for differenct nunmbers. “と書かれています。しかし、エキスパートは、無意識の内にすべての要素を取り入れたうえで決断しているので、後でうまく説明できないこともあります。

このPrOacTiveと似た方法で、PrOACT-URLというのもあります。

Alternativesとは介入の選択肢のことで、Optionsという言葉が使われることが多いかもしれません。ConsequencesはOutcomesと同じことです。Trade-offsトレードオフは”あちらを立てればこちらが立たず”ということです。たとえば、益のアウトカムに対して治療効果はAの方がいいが、副作用はBの方がいいという場合にはTrade-offがあるということになります。

医療経済の分野と臨床医学の分野では同じ概念に対して異なる用語が用いられていることが結構あります。Harm害に対してRiskリスクという言葉が使われている場合も多いです。