SDM-Q-9 / SDM-Q-Doc

The 9-item Shared Decision Making Questionnaireというのが作られています。国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 在宅医療・地域医療連携推進部の先生方が翻訳された日本語版もあります。診療に関しては2012年、2015年、在宅ケアに関しては2019年に翻訳されています。各項目について6段階で回答し集計するようです。shared-decision-making.orgのサイトで紹介されています。

International Shared Decision Making Society

International Shared Decision Making (ISDM) Society は2018年に発足したそうです(Web site)。

10th International SHARED DECISION Making Conference が2019年7月に開催されるそうです。

3名のキーノートスピーカーは、カナダCIHR’s Institute of Indigenous Peoples’ Health (IIPH) の Scientific Directorである Carrie Bourassa, PhD 、カナダOttawa大学、 Faculty of Health Sciences、 School of Nursingの Claire Ludwig, RN PhD(c) 、アメリカMayo Clinicの内科教授でアメリカAHRQの Center for Evidence and Practice Improvement のSenior Adviserでもある Victor M. Montori, MD です。

Panel Speakersとしては、 世界で初めて優先度の設定に患者さんが参加したランダム化比較試験をリードしたカナダモントリオールの家庭医であるAntoine Boivin, MD PhD 、研究におけるPatients-Usersとのコラボレーションの評価、医療提供者の教育、などの活動をしているカナダケベックの Maman Joyce Dogba, MD PhD 、Cystic fibrosisと1型糖尿病があり肺移植、肝移植を受けた経験のあるカナダモントリオールの患者コーディネータである Alexandre Grégoire 、そして、アメリカワシントンの Patient-Centered Outcomes Research Institute (PCORI) で Dissemination and Implementation program の  Senior Program Officer である Ethan N. Chiang, PhD が紹介されています。

これらのメンバーの多様性は驚くほどです。日本にいるとこのような世界の動きがなかなか伝わってきません。”国際協働意思決定学会”なんですが、ほかの領域も含め、その”国際”にどのようにかかわっていくかよく考える必要があります。日本は国際的な貢献をしたいとみんなが思っているはずですが、さまざまな領域でサークルの中に入れてもらえるように、普段から仲間を作っておく必要があります。

そのためには自分の頭で考えることが一番重要で、同じことを考えている人が、周りにいなくても、たとえ日本にいなくても、ほかの国には必ずいると思うべきだと思います。

診療ガイドライン作成への患者・市民の参加状況

2017年に発表された論文です。

2011年のInstitute of Medicine (IOM)の”CPG we can trust”では患者・市民がガイドラインパネルに参加すること、CPGのドラフトに対して患者・市民からのインプットを求めることを推奨している。しかし、実際にはそれが十分には行われていない。患者市民の参加は、次のような点で必要である:
1.ガイドラインの優先すべき事項を決めること。
2.新しいトピックを紹介すること。
3.重要な対象者とアウトカムを同定すること。
4.知見が意味があるかについて情報を与えること。
5.ケアに対する全人的アプローチを促進すること。
6.推奨が患者の価値観とどのように関係するかを評価すること。
7.わかりやすい表現を用いたバージョンを作成することを求めること。

Armstrong MJ, Bloom JA: Patient involvement in guidelines is poor five years after institute of medicine standards: review of guideline methodologies. Res Involv Engagem 2017;3:19. PMID: 29062544

Swing weightingによるアウトカムの重要度設定

成人で急性虫垂炎になった場合、抗菌薬投与による保存的治療を受けるか外科的虫垂切除を受けるか?どちらの方が良いだろう?

これら2つの治療的介入を比較した4件のランダム化比較試験のメタアナリシスの結果得られた効果推定値を用いて解析してみます。

Swing weightingによるアウトカムの重要度の設定、すなわち、重みの設定には図のような最善の効果(矢じり)、最悪の効果(縦線)を表したグラフが役に立ちます。

アウトカム毎の”Swing”-from the worst estimate | to the best estimate → or ← .

アウトカムとカッコ内に単位が書いてあります。値が大きい方が最善になるものと、逆に値が小さい方が最善になるものがあります。”Swing”つまり、横幅が大きいものと小さいものがあります。

大きい場合は、二つの介入の効果の差が大きいことになります。たとえば、虫垂切除(1か月以内)(率)をみると、最善は約0.05つまり約5%で、最悪は約1.0つまり100%です。手術を受けないで治癒することが良いことであるという考えが背景にあるので、手術を受ける介入は約100%手術になり、抗菌薬の治療を受ける介入は1か月以内でみると約9%の人しか手術をうけません。ここでは、それぞれ95%信頼限界の値を最善値、最悪値に設定していますので、もう少し幅が広くなり、100%→4.8%になっています。

他のアウトカムについても、ありうる最善の効果と最悪の効果として95%信頼限界の値の中の最大値あるいは最小値を設定してあります。

このグラフを見ながら、どのアウトカムを一番重要と考えますか?

急性虫垂炎は手術を受ければ、それで治ります。今は、腹腔鏡下の手術で傷跡も小さく、数日の入院で済みます。そして、二度と虫垂炎になることはありません。つまり、再発は0です。一方で1か月以降1年以内の再発無し(率)を見ると、抗菌薬の治療では最悪30%くらいが1年以内に再発します。そうなると、その時点で結局は手術を受けることになってしまいます。

例えば、ある人は”1か月以降1年以内の再発無し”のアウトカムを一番重要と考えました。いつ再発するか心配しながら生活するのは嫌だと思いました。そうすると、このアウトカムの重みは100にします。それ以外のアウトカムについても、このアウトカムと比べて相対的にいくつにするかを考え、結論としてその人は、虫垂切除(1か月以内)20、主要な合併症20、そのほかの合併症15、入院期間10、病休期間20、費用5という重みを設定しました。

このような選好Preferenceの人の場合、抗菌薬投与による保存的治療を受ける方がいいのか、それとも外科的虫垂切除を受ける方がいいのかどちらになるでしょうか?

手術を受けないで済めばそれに越したことはないと考えて、虫垂切除(1か月以内)を20ではなく60にしたらどうなるでしょうか?

さらに、やはり傷跡が残るのは嫌なので、手術を受けないで済むことが一番重要でしかも”Swing”も一番広いからと考えて、虫垂切除(1か月以内)を100にして、1か月以降1年以内の再発無しを70にしたらどうなるでしょう?

益と害のアウトカムが複数あり、介入の効果がすべてのアウトカムについて一つの治療選択肢が優れていれば、判断は容易です。トレードオフがあって、効果の程度もさまざまな場合には、直観的に決めるのが難しくなります。特に、介入の間の差が小さいとさらに判断が難しくなります。このような際にはSwing weightingを用いたMCDAは有用なツールになりえます。

また、価値観が人によって異なり、最善の選択肢が人によって変わるかもしれない、さらに、選択肢の間の差が小さい、このような際にはSwing weightingを用いたMCDAはその個人の選択の適切さを確認するための有用なツールになりえます。

さて、アウトカム毎の”Swing”グラフに2つの選択肢の効果推定値、この場合は率または平均値ですが、の表示を追加したグラフを示します。上のグラフと比べて、どちらの方が、重みの決定がやりやすいでしょうか?

アウトカム毎の”Swing”グラフ。黒が外科的虫垂切除、赤が抗菌薬投与による保存的治療。