FDAのBenefit-Risk Assessment(続き)

The Food and Drug Administration Safety and Innovation Actが2012年に発効し、その Section 905はFDAのCenter for Drug Evaluation and Research (CDER) に対して新薬の承認にあたり、構造化されたbenefit-risk assessment frameworkを実施することを求めることになりました。 2018年CDERは、Benefit-Risk Assessment in Drug Regulatory Decision-Making. Draft PDUFA VI Implementation Plan (FY 2018-2022)を発表しています。こちらからダウンロードできます。

さらに、同じく2012年に, FDAのCenter for Devices and Radiological Health (CDRH) はGuidance to clarify the principal benefit-risk assessmentというガイダンスを発表し、“patient tolerance for risk and perspective on benefit”すなわち「患者のリスクに対する許容度とベネフィットに対する視点を承認のレビューの際に追加のファクターとして考慮することを発表しました。その後、CDRHは2013年Patient Preference Initiativeというプロジェクトを開始し、Medical Device Advisory Committee (MDAC) に患者のパネルの参加について方針を定めたそうです。 CDRHのMedical Device Innovation Consortium MDICは、The MDIC Patient Centered Benefit-Risk (PCBR) Projectを2013年に開始し、MEDICAL DEVICE INNOVATION CONSORTIUM (MDIC) PATIENT CENTERED  BENEFIT-RISK PROJECT REPORT: A Framework for Incorporating Information on Patient Preferences Regarding Benefit and Risk into Regulatory Assessments of New Medical Technologyという報告書を2015年に発行しました。こちらからダウンロードができますが登録が必要。

CDRH Patient Engagementも見てください。いろいろな資料が掲載されています。Patient and Public Involvementも重要な課題です。

論文としては、
Johnson FR, Zhou M: Patient Preferences in Regulatory Benefit-Risk Assessments: A US Perspective. Value Health 2016;19:741-745. PMID: 27712700が発表されています。 Role of Patient Preferences患者の選好の役割については、”Weighing benefits and risks of new health technologies requires not only assessing the available scientific evidence but also making societal value judgments about the relative importance of benefits and risks measured in different, noncomparable units.” と記述されており、単なる効果推定値の値、すなわち効果の大きさと不確実性だけでなく、価値観に基づく、ベネフィットとリスクの評価が必要なことが述べられています。この文章を読むだけで、①ランダム化比較試験などで得られた科学的エビデンスの評価だけでは、ベネフィットとリスクの評価はできない、②ベネフィットとリスクの相対的な重要性に関する社会的な価値判断が必要、③ベネフィットとリスクは比較ができない異なる尺度で測定が行われている、ということが分かります。

さらに、
Ho M, Saha A, McCleary KK, Levitan B, Christopher S, Zandlo K, Braithwaite RS, Hauber AB, Medical Device Innovation Consortium’s Patient Centered Benefit-Risk Steering Committee: A Framework for Incorporating Patient Preferences Regarding Benefits and Risks into Regulatory Assessment of Medical Technologies. Value Health 2016;19:746-750. PMID: 27712701 には具体的な手法について記述されています。この論文の中にMDIC’s Preference Assessment Methodology Catalogがあり、Table 2-List of methods included in the Catalog には、Prefrence選好の評価法に関してさまざまな方法がまとめられています。

表2-カタログに含まれる方法のリスト

グループ 方法
Structured weighting
構造化された重みづけ
Simple direct weighting 単純直接重みづけ
Ranking excercises ランキングエクササイズ
Swing weighting スウィングウェイティング
Point allocation ポイント配置
Analytic hierarchy process 分析的階層法
Outranking methods アウトランキング法
Health-state utility健康状態効用Time trade-off 時間得失法
Standard gamble 標準賭け法
Stated preference表明選好Direct-assessment questions 直接評価質問
Threshold technique 閾値テクニック
Conjoint analysis and discrete-choice experiments コンジョイント分析および離散選択分析
Best-worst scaling exercises 最善最悪スケーリングエクササイズ
Revealed preference
顕示選好
Patient preference trials 患者選好試験
Direct questions in clinical trials 臨床試験における直接質問

FDAもEMAもほとんど同じ考え方で定量的なベネフィットとリスクの評価法Quantitative Benefit-Risk Assessmentを模索してきたことが分かります。

診療ガイドライン作成時に益と害の評価をどのように行うかは重要なテーマですが、”効果推定値の大きさと不確実性”と”益と害の大きさとバランスの不確実性または正味の益の不確実性”は同じではないということを認識する必要があります。益と害の評価には価値観が関係します。また、これはComparative Effectiveness Research (CER)の理解とも関係します。なお、リスクRiskは害Harmと同じ意味で用いられています。また、PreferenceとValueも同じ意味で用いられています。

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IMI PROTECTとPPI

PPIとはPatient Public Involvementのことですが、医薬品のベネフィット・リスク評価における患者・市民の参画についてEUではかなり議論が進んでいます。

Innovative Medicines Initiative (IMI) 
 Innovative Medicines Initiative (IMI)革新的医薬品イニシアティブはEUとヨーロッパ製薬企業のパートナーシップですべての人の健康と幸福のための個別化医薬の、特に医療ニーズに十分応えられていない領域での、開発とそれらへの患者さんのアクセスを促進する研究におけるオープンなコラボレーションを促進する活動をしています。

 IMI2期プログラム(2014-2020年)を通じ約4100億円(33億ユーロ)の予算が用意されました。IMIのゴール、特に第2期(IMI2, 2014-2020)は次の世代のワクチン、新しい抗生物資のような、医薬品、治療法を開発することだそうです。

Pharmacoepidemiological Research on Outcomes of Therapeutics by a European Consortium (PROTECT) 
 治療アウトカムに関する薬剤疫学的研究ヨーロッパコンソーシアムは革新的医薬品イニシアティブ(IMI)の下で作られたプロジェクトで、医薬品の副作用をさまざまなデータソースから早期に検出し評価することを促進する一連の革新的ツールと方法を開発し、ベネフィットとリスクに関するデータの統合と提示を可能にすることを目的としています。

ベネフィットとリスクとはベネフィットとハームつまり益と害と同じ意味です。診療ガイドライン作成で介入の益と害をシステマティックレビューで明らかにするのとほとんど同じ事をすることになります。

 PROTECTは34の民間および公的パートナーの間の共同作業であり、欧州医薬品局のもとで連携しています。PROTECTでは計6つのワークパッケージが成果として発表されており、それぞれ異なる領域に焦点が当てられています。

さて、
The patient and public involvement (PPI)患者・市民の参画についてはWork Package Five (WP5)で取り扱われています。IMI PROTECT Benefit-Risk Group PAATIENT AND PUBLIC INVOLVEMENT REPORT version 1.0  Recommendations for Patient and Public Involvement in the assessment of benefit and risk of medicines. (Team leader Kimberley Hockley, Imperial college London). (PDF file)

Patient Public Involvement (PPI)の定義
Patient and public: 
”患者と市民”とは、臨床試験への参加者、患者および将来患者になりうる者、障害者、両親と保護者、健康サービス・社会福祉サービスの利用者、介護者、一般市民メンバー、これらの人々の利益を代表する組織。

Involvement:
”参画”とは、患者、市民と意思決定にあたる規制当局の間の能動的なパートナーシップであり、患者と市民を意思決定の対象者として扱うことではない。患者・市民の参画とは患者・市民とともになされるあるいは患者・市民によってなされる意思決定と定義され、患者・市民へ、に関して、あるいは、のための意思決定という意味ではない。

これらの定義はイギリスのNational Health Service (NHS)国民健康サービスにおけるより多くの市民参加をサポートしている全国規模のアドバイザリーグループであるInvolveから採用したそうです。

この報告書では、PPIが重要な場面として、a) 関連するアウトカム測定の選択、採用、除外、b)アウトカム測定の順位付けと重みづけ、が挙げられています。For example, PPI may be considered important during (a) the selection, inclusion and exclusion of relevant outcome measures, or (b) the ranking and weighting of outcome measures

FDAのBenefit-Risk Assessment Framework

FDA U.S. Food and Drug Administration米国食品医薬品局は2013年にStructured Approach to Benefit-Risk Assessment in Drug Regulatory Decision-Makingという実行プランを発表しています。そのアップデートが2018年3月30日にDraft PDUFA VI Implementation Planとして発表されています。(PDUFAは Prescription Drug User Fee Actのことです。)この文書の中で、Benefit-Risk Framework (BRF)を強化し、コミュニケーションを促進することがFDAの使命のひとつであると述べられています。

2016年12月16日に発効したThe 21st Century Cures Act (Cures Act)によって、許認可に関わる意思決定に資するために関係のある患者の経験のデータおよび関連のある情報を構造化されたBenefit-Risk Frameworkベネフィット・リスクアセスメントの枠組みにを取り入れることに対してFDAはどのように期待しているかを述べたガイダンスを出すことが求められています。

現時点で、FDA Benefit-Risk FrameworkはDecision FactorとしてAnalysis of Condition, Current Treatment Options, Benefit, Risk, Risk Managmentが設定されており、各項目に対してEvidence and UncertaintiesとConclulsions and Reasonsを記載し、まとめとしてBenefit-Risk Summary Assessmentを記載するように作られています。

EMAのBenefit-risk methodology

EMAはEuropean Medicines Agency (欧州医薬品局)のことで、European Union (EU)欧州連合の医薬品規制当局です。EMAは医薬品の許認可の際にBenefitsがRisksを上回るかどうかを審査します。次のように述べられています:”The European Medicines Agency’s opinions are based on balancing the desired effects or ‘benefits’ of a medicine against its undesired effects or ‘risks’. The Agency can recommend the authorisation of a medicine whose benefits are judged to be greater than its risks. In contrast, a medicine whose risks outweigh its benefits cannot be recommended for marketing.”すなわち、”医薬品の望ましい効果=Benefitsベネフィットがその望ましくない効果=Risksリスクより大きいと判断された時に認可を推奨する”とのことです。

EMAは医薬品のbenefitsとrisksのアセスメントをより一定した、より透明性の高い、審査がより容易なものにするために、当局の作業の中で使用できる、Decision-making model決断モデル(意思決定モデル)を見つけるためのBenefit-risk methodology projectを2009年に開始しました。その結果を5つのWork packageとして公開しています。ただし、これらはThe Committee for Medicinal Products for Human Use (CHMP) 欧州医薬品庁ヒト用医薬品委員会の見解を代表するものではなく、研究あるいは一つの例として取り扱うべきことが免責条項で述べられています。

Work packge 1 report: description of the current practice of benefit-risk assessment for centralised procedure products in the EU regulatory networkを見ると、2009年に、5か国の規制当局の42名のキーパーソンにインタビューをして当時の現状の調査をしています。インタビューの項目の中には、Benefits、Risksの理解、Benefit-risk assessmentのプロセスが含まれています。インタビューの結果、全員が”Benefit-risk balanceは専門家の判断によるものであり、許認可のプロセスで最も難しいステップである”ことを認め、”The benefit-risk balance is assessed mainly intuitively, the responsibility of an accountable senior assessor in some agencies or of a group in other agencies, as a result of extensive discussion. “と述べられています。つまり、この時点では、Benefit-riskのバランスは主に直感的に評価されていたと述べられています。

Work package 4 report: Benefit-risk tools and processesを見ると、Benefit-riskアセスメントの枠組みとしては、PrOACT-URL、モデルとしては、Multi-criteria decision analysis (MCDA) models(多基準決断分析モデル)が最も医薬品の許認可の作業プロセスに適合すること、また、これらの適用は”判断が難しい場合、異論が多い場合に有用であろう”と述べられています。具体的には、”ベネフィット・リスクのバランスが近接している、効果の臨床的意義の判断により望ましいあるいは望ましくないのいずれの方向にも傾きうる場合、多くの属性が相反する方向である場合”が上げられています。PrOACT-URLについてはPharmacoepidemiologic Reseach on Outcomes of Therapeutics by European Consortium PROTECT解説を参照してください。MCDAについてもPROTECTに解説があります。