比較効果研究CERと診療ガイドライン作成

比較効果研究Comparative Effectiveness Research (CER)のNAM National Academy of Medicine (旧IOM Institute of Medicine)の定義は、“比較効果研究CERは臨床状態の予防、診断、治療、モニターのためあるいはケアの供給を改善するための方法の選択肢の益と害を比較するエビデンスの生成と統合を行うことである。CERの目的は個人および集団の両方で、消費者、臨床家、購入者と政策決定者が、ヘルスケアを改善するであろう、情報を与えられた上での決断を支援することである。”です。以前の投稿で述べたとおりです。

一方、診療ガイドラインのMindsの定義は、WHOやGRADE Working groupと同じですが、”診療上の重要度の高い医療行為について、エビデンスのシステマティックレビューとその総体評価、益と害のバランスなどを考量して、患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する文書”です。(Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017」)

CERは一次研究だけでなくエビデンスの統合も含まれます。つまり、システマティックレビュー/メタアナリシスもCERになる可能性があります。CERの目的のひとつは”個人および集団の両方で、…情報を与えられた上での決断を支援すること”になっています。ここには”推奨”という言葉は出てきませんが、”決断を支援する”、つまり”意思決定を支援する”ことが目的であることが明確に述べられています。

ひとつのクリニカルクエスチョンを取り上げてみると、診療ガイドライン作成における、システマティックレビューまでの過程をひとつのCERと呼ぶことにはあまり異論はないのではないかと思います*。また、患者さんの参加という点でもCERと共通点があります。推奨作成の過程も科学的に進めることができるのであれば、推奨も含めてひとつのCERであると言っていいのではないでしょうか。このような考えを認めるのであれば、”診療ガイドライン作成はCERを行うことである”ということになり、診療ガイドライン作成に参加され尽力された方の学問的業績として取り扱うべきであるということになります。

システマティックレビュー/メタアナリシスの論文として発表するだけでなく、決断分析なども含めた推奨までの過程をCERの論文として発表することを今後推進すべきではないでしょうか。そうすることで、推奨作成の過程も含めて、ピアレビューを受けたうえで、出版され、それらの蓄積を束ねる形で、診療ガイドラインを作成することが可能になります。

文献:——–
Asche CV ed.: Applying Comparative Effectiveness Data to Medical Decision Making: A Practical Guide. 2016, Adis (Springer International Publishing Switzerland) この本にはCERの定義について、IOMだけでなく、NIH、AHRQ、PCORI、Federal Coordinating Council for Comparative Effectiveness Researchの定義も記載されています。

*もともとIOMは2011年の時点で、システマティックレビューの定義のなかで、システマティックレビューは”scientific investigation”科学的研究であると述べています。 ”A systematic review is a scientific investigation that focuses on a specific question and uses explicit, preplanned scientific methods to identify, select, assess, and summarize the findings of individual, relevant studies. ” (Clinical Practice Guidelines We Can Trust, 2011) また、多くのシステマティックレビュー/メタアナリシスの論文がさまざなジャーナルに発表されていて、システマティックレビュー/メタアナリシスは学問的な活動の成果であることについては異論はないと思います。さらに、CERの条件にあえば、CERとしても成立します。

SOLO taxonomy

SOLOとはStructure of Observed Learning Outcomesのことです。知識や技能の浅い理解から深い理解への分類で理論ではなく、エビデンスに基づく分類体系です。学習者が知識や技能を獲得していく過程の研究から生まれたものです。1982年のBiggsとCollisを嚆矢とします( Biggs JB, Collis KF: Evaluating the Quality of Learning: The SOLO taxonomy. 1982, New York: Academic Press. )。カリキュラムを作成する際に用いるタキソノミーすなわち分類体系と呼ばれるもののひとつです。

学習目標/アウトカムの知識、技能、態度すなわちコンピテンスが小さな単位に分割(全体の一部)され単独のものから、それらが複数集まったものになり、更に関連付が強化され、抽象化され他の領域ともつながるということになります。浅い理解から深い理解へということです。

他には理論に基づくBloom’s taxonomyというのが知られています。(Bloom BS, Engelhart MD, Furst EJ, Hill WH, Krathwohl DR (Eds): Taxonomy of Educational Objectives: The classification of Educational Goals – Handbook 1 Cognitive Domain. 1956, David McKay, New York, NY, USA. )こちらの方は、 知識の形式と知識の獲得・利用とが同列に扱われていることが問題点として指摘されています。

Hook & Millsはその著書で、SOLO taxonomyを用いることで、以下のことが実現できると述べています。
学習者と教師は
•学習企図と学習経験を思慮深くデザインできる。
•有効な方略と成功の基準を決めて、用いることができる。
•学習アウトカムのフィードバックと事前のアセスメントを提供することができる。
•次に何をすべきかについて意味のある振り返りができる。
(Hook P, Mills J: SOLO Taxonomy: A guide for Schools BK1: A common language of learning. 2011, Essential Resources Educational Publishers Limited, Laughton, UK.
Hook P, Mills J: SOLO Taxonomy: A Guide for Schools. Planning for differentiation. Book 2. 2011, Essential Resources Educational Publishers Limited, New Zealand. )

SOLO taxonomyでは学習アウトカムあるいは学習目標を以下の図および表に示すように分類します。アウトカムあるいは目標は知識だけでなく技能、態度にも適用できるはずです。

各レベルに対して、使用する動詞がおよそ決められていますが、それぞれの対象領域において必要なものを追加する必要があります。

たとえば、単構造では以下の動詞が用いられます。
define(定義する)
identify(同定する)
name(名前を言う)
find(見つける)
label(分類する)
match(合わせる)
follow a simple procedure(簡単な手順に従って作業する)

多構造では、
describe(記述・説明する)
list(列挙する)
outline(アウトラインを述べる)
follow an algorithm(アルゴリズムに従って作業する
combine(結合する)

関連多構造では、
sequence(並べ替える)
classify(分類する)
compare and contrast(比較対照する)
explain causes(原因を説明する)
explain effects(効果を説明する)
analyze (part-whole)(部分-全体を分析する
form an analogy(アナロジーを形成する)
organize(整理、構成する)
distinguish(区別する)
interview(インタビューする)
question(質問する)
relate(関連付ける)
apply(適用する)

拡張抽象的では、
generalize(一般化する)
predict(予測する)
evaluate(評価する)
reflect(振り返る)
hypothesize(仮説を立てる)
theorize(理論化する)
create(創造する)
prove(証明する)
plan(計画する)
justify(正当化する)
argue(論じる)
compose(構成する)
prioritize(優先順位を付ける)
design(デザインする)
construct(組み立てる)
perform(遂行する、実演する)

そして、HOT SOLO mapが学習支援のために用意されます。

HOT SOLO mapもその知識・概念の構造、学習アウトカムによってさまざまなものが使われます。これらはまた、学習者のセルフアセスメントにも使われます。

また、学習アウトカムを記述する際のボキャブラリーも最初に提供されます。

学習者は自分に次の問いかけをしながら学習を進めていきます。教師の側はこれらの質問に対応する資料を用意する必要があります。

自己管理のための三つの質問
1.どこに進んでいるか?
学習作業、ゴール、企図(SOLOコード)
成功/合格の基準 (SOLOで仕分けされた異なるレベル)
2.どれくらい進んでいるか?
基準に対して進行状況を自己査定
3.次はどこへ進むか?
次の学習ステップ
新しいゴール

…integrating cost effectiveness evidence into clinical practice guidelines

Guidelines and Economists Network International ( GENI )という国際的組織があります。そのAgenda課題は、

” To facilitate the effective integration of Clinical Practice Guidelines (CPGs), economic and clinical evidence into national decision making and clinical practice in the health sector, especially hospitals and primary care. “

すなわち「 診療ガイドライン、経済的および臨床的エビデンスを特に病院とプライマリケアの健康セクターでの医療と国レベルの意思決定のために効率的に統合することを促進すること 」です。ここではEconomic evidenceとClinical evidenceという言葉が使われています。

GENIの Chair: Michael Drummond (UK)    CEO: Kathryn M. Antioch (Australia) とBoard Members: Louis Niessen (USA) 、 Hindrik Vondeling (Denmark) らの論文が2017年に発表されており、”Economic evidence”を”Clinical Practice Guideline”と”National decision making”にどのように取り入れるかについて、オーストラリアでの体験を踏まえて、述べています。

こちらの論文です。 Antioch KM, Drummond MF, Niessen LW, Vondeling H: International lessons in new methods for grading and integrating cost effectiveness evidence into clinical practice guidelines. Cost Eff Resour Alloc 2017;15:1 DOI 10.1186/s12962-017-0063-x. PMID: 28203120

Economic evidenceはCost-effectiveness analysis (CEA) thresholds, Opportunity cost, Willingness-to-pay (WTP)に関するものです。ただし、End-of-life therapiesは特別の考慮が必要とされます。さらに、”Involvement time, logistics, innovation price, price sensitivity, substitutes and complements, absenteeism and presentismに関わってきます。

Economic evidenceのグレーディングにはThe Consolidated Guidelines for the Reporting of Economic Evaluations (CHEERS) 24 item check listとthe Drummond ten-point check listおよび結果をスコア化するための質問票を用いることを提案しています。(CHEERSとその日本語訳については別の投稿で紹介しました)

この論文のTable 1 Assessing CEA evidence using shadow prices in Australia: NHMRC*ではRanking of evidence on costsとRanking of evidence on effectsの組み合わせで、生存年あたりの費用($)によって推奨する/推奨しないという判定の基準が示されています。(*National Health and Medical Research Council)

そして、”Priority setting remains essential and trade-off decisions between policy criteria can be based on MCDA, both in evidence based clinical medicine and in health planning.” すなわち、「優先度の設定は必須であり、方針基準の間のトレードオフのある意思決定はMCDA(Multi-Criteria Decision Analysis)をよりどころにできるであろう」と述べています。MCDAについてはISPORのGood Practice Guidelines for conduction MCDAの論文、Thokala P 2016Marsh K 2016が引用されています。(以前の投稿で紹介しました。)

Willingness to pay per QALYまたはLYG (life years gained)の受け入れ可能な最大値(閾値)を設定することで、Cost-Effectiveness Analysis (CEA)のDecision ruleを設定できるのではないかと述べられています。その最大値は、患者と家族のQOL, 生存の改善、機能的状態、重篤でまれで予防可能であるいは若年で永続的な効果につながるか、他の選択肢がない、その介入が平等の見地から他のセクションへの有害な流れを防止できる、などの項目を検討したうえで、妥当性が検討されます。

診療ガイドライン作成者は最新のCost-effective methodologyを知る必要があり、NICEのReference Caseはその一つであることが述べられています。NICEの医療経済評価については以前の投稿で紹介しました。

また、International Health Economists Association (iHWA )という組織があり、2019年7月13-17日スイスBaselで学会が開催されます。そのミッションは以下のとおりです。医療経済学の発展が大きな目的のようです。

“iHEA’s mission is to:    Increase communication among health economists;    Foster a higher standard of debate in the application of economics to health and health care systems; and    Assist young researchers at the start of their careers. “

さて、MCDAについてですが、医療経済学的な評価の結果と臨床的な効果の評価は異なる尺度が用いられているので、MCDAでトレードオフのある複数の評価項目に含めて評価し介入を比較するのはワンステップではできません。やはりスコア化のステップが必要です。

Shared decision makingすべての帰結を考える

Elwyn Gらは2016年の論文の中で、Shared decision makingの影響は広範囲に及び、それらをすべて解析すべきであると述べています。そして、Abstractの最後に次のように書いています。

“…well-informed preference-based patient decisions might lead to safer, more cost-effective healthcare, which in turn might result in reduced utilization rates and improved health outcomes.” 
「十分に情報を与えられたpreference選好に基づく患者の決断(意思決定)はより安全で、より費用効果のある医療へ通じるかもしれず、それはさらに利用率の低下と健康アウトカムの改善をもたらすかもしれない」

Elwyn Gらは2016年にShared Decision Making in Health Care: Achieving Evidence-based Patient Choiceという書籍を出版していることは、「Medical Decision Making書籍」の投稿で紹介しました。

AHRQのSHAREアプローチのツール5で述べられているように、益だけでなく害についても絶対リスクを提示しながら説明することが勧められています。もしそれが広く行われるようになると、その治療を受けようとする人が減るかもしれません。正味の益net benefitが期待していたより小さいと考える人が多ければ、その治療を受けようとする人が減るでしょう。Risk seekerリスクをとることをいとわない人が多い場合は、益が大きければ害が大きくても治療を受けるという人が多いかもしれません。

文献:Elwyn G, Frosch DL, Kobrin S: Implementing shared decision-making: consider all the consequences. Implement Sci 2016;11:114. PMID: 27502770