英国NICEのShared Decision Making guideline

英国NICE (National Institute for Health and Care Excellence)は2021年6月にShared Decision Making協働意思決定に関するガイドラインを発表しています。

その中で、リスク、ベネフィット、結果のコミュニケーションに関する部分では以下の様に述べられています。

1.4 リスク、ベネフィット、結果(Consequences)のコミュニケーション

1.4.1 リスク、ベネフィット、および結果について、それぞれの人の人生とその人にとって何が重要か という観点から話し合う。リスクコミュニケーションには、質の高い患者意思決定支援ツールやピクトグラムなどの図解を用いることが有効であることを知っておく(推奨1.3.1~1.3.3参照)。

1.4.2 リスク、ベネフィット、結果についての情報は、できる限り個人に合わせて提供する。提供する情報が個人にどのように適用されるか、また、それにどの程度の不確実性が伴うかを明確にする。不確実性への対応の詳細については、General Medical Council’s guidance on decision making and consentを参照

1.4.3 組織は、リスク、ベネフィット、結果に関する情報を人々に提示するスタッフが、その情報を十分に理解し、どのように適用し、明確に説明するかを確認する必要がある(推奨1.1.12および1.1.13参照)。

1.4.4 その人に特有のリスク、ベネフィット、結果に関する情報が得られない場合は、本ガイドラインに概説されている協働意思決定の原則を引き続き使用する。

数値情報について話し合う

1.4.5 肯定的な情報と否定的な情報(推奨1.4.11参照)を同時に見ることができるように、例えば、率の値とピクトグラムあるいはアイコン配列を合わせて提示するなど、数字と絵を組み合わせて使用することを考える。

1.4.6 利用可能であれば、リスクを説明するために数値データを使用する。「リスク」、「まれ」、「めずらしい」、「一般的」などの用語は、人によって解釈が異なることに注意する。

1.4.7 相対リスクではなく絶対リスクを用いる。例えば、ある事象のリスクが 2 倍になるのではなく、1,000 人に 1 人から 1,000 人に 2 人に増加するというように。

1.4.8 パーセンテージ(10%)ではなく、頻度数(例えば、100人に10人)を使用する。

1.4.9 データを使用する際には一貫性を持たせる。例えば、リスクを比較する際には、14分の1と5分の1ではなく、あるリスクには100人に7人、別のリスクには100人に20人というように、同じ分母を使用する。

1.4.10 適切な場合は、定義された期間(月または年)にわたるリスクを提示する。例えば、100人が1年間治療を受けた場合、10人が特定の副作用を経験するとする。

1.4.11 ポジティブなフレーミングとネガティブなフレーミングを両方用いる。例えば、100人のうち97人は治療が成功し、100人のうち3人は治療が失敗するとします。

NICEのShared Decision Makingに関するウェブページでは、医療提供者、医療利用者向けの情報や、Patient decision aids (PDA)などに関する情報もあります。

アメリカのAHRQのSHAREアプローチについてはすでに紹介しましたが、比べてみてください。(SHAREアプローチツール4ツール5)。

診療ガイドライン作成方法解説

YouTubeのIZ statというチャンネルで、「Rの使い方」、「診療ガイドライン作成方法解説」という動画再生リストを公開しています。

診療ガイドライン作成方法解説」は以下の動画を含んでいます。

「診療ガイドライン作成プロセス全般の概要のエッセンス」(3分40秒)
「診療ガイドライン作成におけるスコープ作成プロセスのエッセンス」(6分10秒)
「診療ガイドライン作成におけるシステマティックレビュープロセスのエッセンス」(7分10秒)
「診療ガイドライン作成における推奨作成プロセスのエッセンス」(4分45秒)

「システマティックレビューのためのAnalyltic framework分析的枠組み」(20分)
「Googleスプレッドシートを使ってPubMedからダウンロードした文献を管理する」(6分)

*ナレーションはVOICEROID+東北きりたんEXを用いています。聞きやすい声です。

システマティックレビューのためのAnalytic framework分析的枠組み

システマティックレビューの際にクリニカルクエスチョンあるいはリサーチクエスチョンを設定します。PICO、PECO、PICOTSなどの形式に当てはめて、クリニカルクエスチョンが作成されます。Population, Intervention, Exposure, Comparator, Outcome, Timing, Settingの頭文字を組み合わせた語句です。これらの要素がきちんと定義されないと、システマティックレビューを行うのが難しくなります。

一方で、クリニカルクエスチョンそのものが科学的に妥当かについても検討する必要があります。その際に、Analyltic framework分析的枠組みを作成し、それを基盤に議論することが有用とされています。分析的枠組みは、「アウトカムと関連付けながら、臨床的概念、エビデンスおよび対象集団をリンクし、定義づけるエビデンスモデルのひとつ」とされています。

この分析的枠組みについての解説を作成しました。こちらは約20分の動画です。

同じ内容ですが、HTMLのページはこちらです。システマティックレビューのためのAnalyltic framework

クリニカルクエスチョンの臨床的な文脈における位置づけを明確にし、介入の効果の科学的に妥当な分析を行うことが分析的枠組みの目的と考えられます。

文献:Harris RP, Helfand M, Woolf SH, Lohr KN, Mulrow CD, Teutsch SM, Atkins D: Current methods of the US Preventive Services Task Force: a review of the process. Am J Prev Med 2001;20:21-35. PMID: 11306229

Living SRとは?

前回の投稿で紹介したElliott JHらのLiving SRに関する論文の内容を紹介したいと思います。従来のSRとの違いと、研究のエコシステムにおけるLiving SRの位置づけについて述べられています。できるだけ原文のまま紹介したいと思います。

従来の通常のシステマティックレビュー(SR)とLiving systematic review (SR)は、出版形式、作業プロセス、著者チームマネージメント、統計学的方法の4つの点で異なる。

1. 出版形式:動的で、持続的で、オンラインのエビデンスのまとめで、更新が早く、頻回である。
2. 作業プロセス:通常のSRとは異なり、文献検索戦略は維持され、アウトプットは連続的にSRのワークフローに追加され、採択される文献、研究の質の評価、データの抽出、メタアナリシス、SRレポートは連続的に更新される。通常のSRあるいはSRの更新の集中的で間欠的な努力の代わりに、Living SRは中等度の進行中の貢献が必要となる。
3. 著者チームのマネージメントは連続的なワークフローに対応し、長期間にわたる協働と著者チームの進化を許容しながら、組織としての記憶が保たれなければならない。
4. メタアナリシスの更新は、データの再解析を伴い、蓄積される一次臨床試験のデータの再解析とともに、もし統計学的検定を単に繰り返すと、偽陽性の所見の率が上昇する。また、エフェクトサイズの推定値は不安定で、特にエビデンス生成の初期段階でそうなる。これらの問題はすべてのメタアナリシスの更新に関連するが、Living SRでは、更新の回数が多くなる可能性が高いので、特に重要となる。正式のSequential methodを用いる方法や、ベイジアンアプローチが有用である。

ワークフローおよび協働作業ツール
セミオートメーション

文献検索・選定作業、バイアスリスクの評価、データ抽出作業への機械学習などAIの活用が進む可能性がある。

データレポジトリとリンクされたデータ
 重要なヘルスケアクエスチョン(クリニカルクエスチョン)は多くのSR作成者に共通であり、互いに独立してSRを行うことは、無駄が多い。SRのプロトコールを共通のサイトに登録すること、SRのプロセスや作成データ(アウトプット)を保管し再利用を許可することで繰り返しの無駄を省くことができる。共通の概念に基づいた一定のフォーマットを用いることで、不必要な二重の作業を減らすことができる。

リンクされたデータには以下の様式が用いられるであろう:
W3C: World Wide Web Consortium
RDF:RDFはResource Description Frameworkの略です。 RDFファイル拡張子を含むファイルは、リソース記述フレームワーク言語で記述されたドキュメントである。これらのファイルは、このファイル形式を使用するWebサイトに関する情報を保存するために使用される。
Web Ontology Language ( OWL )は インターネット 上に存在する オントロジー を用いてデータ交換を行うための データ記述言語 。 OWLは RDF の語彙拡張であり、DAML+OILに由来している。

Living SRの出版
オンラインのみの出版により、ピアレビュー、編集委員会のレビューがスピードアップする。

International Committee of Medical Journal Editors (ICMJE)の基準のような出版の基準に従うことを原則とすることで、ノルムを維持できる。著者の変更も正確に反映されるべきである。

医学文献データベースでの取り扱いは、マイナーアップデートの場合、追加分の情報だけを提供し、メジャーアップデートの場合は、新規の出版として掲載する。

研究のエコシステムとLiving SRの関係
Living SRのサイクル医療Health Practice ー ヘルスケアシステムの学習 – 健康”ビッグデータ” – リンクされたデータレポジトリ – Living システマティックレビュー – Livingエビデンスサービス – Livingガイダンス – 意思決定支援システム – 医療

一次研究のサイクル医療 – 仮説の優先付け – 一次研究 – 出版 – システマティックレビュー – 出版 – ガイダンス – 知識の翻訳* – 医療

*translationは翻訳という意味であるが、研究結果をまとめた情報を実臨床に使える形に変えることを意味する。

2つのサイクルは赤字で示す一次研究とリンクされたデータレポジトリの部分でつながる。

論文のサマリーから著者らの主張が次のようなものであることがわかる:

我々は、最新であることと正確さを向上させるための厳密さとヘルスエビデンスの活用の両者を結合するエビデンスの統合への貢献として、Living systematic review “生きたシステマティックレビュー”を提案する。

Living systematic reviewは高品質で、新しい研究が得られるたびにアップデートされる最新のオンラインのまとめで、改善された作成効率と学問的コミュニケーションの基準の順守によって可能となる。

一次研究報告の技術革新と健康システムにおけるエビデンスの創生と使用を合わせて、Living systematic reviewは新しいエビデンスエコシステムに貢献する。

以下は投稿者の意見です:Living SRの著者はチームになり、その構成も随時変わっていき、一度出版してもそれで終わりではなく、新しい論文が出たら、すぐに再解析して、書き直して、アップデートを出版しなければならない。その作業の負担はかなり大きいと思われます。その出版を引き受けるジャーナルの側も、迅速なピアレビューが必要で、オンラインで出版しなければならない、旧版の処理など、いろいろな、変革が必要になります。PubMedの対処の仕方は、前回例として解説しました。また、利用者の立場からは、リサーチクエスチョン(クリニカルクエスチョン)がLiving SRになじむものに偏る可能性、それぞれのLiving SRに、臨床決断に必要な情報がすべて含まれていない可能性があることに注意が必要ではないかと思います。

文献:
Elliott JH, et al: Living systematic reviews: an emerging opportunity to narrow the evidence-practice gap. PLoS Med 2014;11:e1001603. doi: 10.1371/journal.pmed.1001603 PMID: 24558353