AHRQのEvidenceNOW Projects

EvidenceNOW は、アメリカAgency for Healthcare Research and Quality (AHRQ)医療研究品質局 のイニシアチブのひとつです。2022年4月9日の時点で、EvidenceNOW Projectsとして、Advancing Heart Health, Managing Unhealthy Alcohol Use, Building State Capacity, Managing Urinary Incontinenceの5つがあるようです。
説明には、”EvidenceNOWイニシアチブは、米国のプライマリーケアシステムを活性化するためのAHRQのソリューションの1つで、プライマリーケア診療所が最新のエビデンスを実践し、質向上のための能力を向上できるよう、外部支援のモデルを使用しています。EvidenceNOWモデルは、中小規模の診療所がワークフローの最適化、電子カルテの有効活用、ケアの質と患者アウトカムの向上に不可欠なその他のタスクの管理を行うために、外部の診療所コーチまたはファシリテーターなどの外部サポートを利用します。ここ数十年、プライマリーケア診療所は、医療システムの断片化、患者のニーズを満たすためのリソース不足、そして質の向上(QI)を支援するインフラへのアクセス制限によって妨げられてきました。AHRQは、これらの課題に対応するためにEvidenceNOWを開発しました。”とあります。

不健康なアルコール使用の管理Managing Unhealthy Alcohol UseのSolutionの箇所を見ると、以下の様に解説されています。
”2019年、AHRQはEvidenceNOWを立ち上げました。Managing Unhealthy Alcohol Use Initiativeを立ち上げ、そのエビデンスについての認識を高め、以下の実施を支援しています。
・不健康なアルコール使用のスクリーニング。
・不健康なアルコール使用に対するスクリーニング。スクリーニングで陽性となった人に対する簡単な介入と治療への紹介。
・アルコール使用障害と診断された人々に対する薬物療法。
AHRQは、プライマリーケアを改善するためにEvidenceNOWモデルの外部支援を利用する6つの助成団体に資金を提供しました。この外部支援の一環として、助成対象者は、不健康なアルコール使用のスクリーニングと治療に関するエビデンスに基づく実践を、全米の約750のプライマリケア診療所に普及させ、実施するために、プラクティスファシリテーションを利用することにしています。さらに、AHRQは、助成対象者間の影響を把握し、有用な臨床ツールの特定や共有ピアツーピアの学習のための学習コミュニティの創設を通じて、助成対象者の活動を支援するための契約者に資金を提供しました。”

単なる情報の提供、ガイダンスの提示などではなく、外部支援のモデルを用い、プラクティスファシリテーターによるプラクティスファシリテーションpractice facillitationを行うというところが非常に重要だと思います。実践の促進です。

”プラクティスファシリテーションは、プライマリケア診療所における改善を支援するためのアプローチで、継続的な改善のための組織能力の構築に重点を置いています。プラクティスファシリテーターは、特別な訓練を受けた人たちで、プライマリケア診療所と協力して、患者のアウトカムを改善するために有意義な変化をもたらすために活動します。プラクティスファシリテーションは、EvidenceNOWモデルの中心的かつ統一的な戦略です。”

品質向上能力構築のための診療ファシリテーションの利点として:
1. 臨床エビデンスの実装 implementation
2. リソースへの接続

3. EHR使用の最適化
4. 品質向上のためのデータ活用
5. 混乱への対処

の5つが挙げられています。

Bloom’s Taxonomy

学習目標を設定する際に、単純な知識やスキルからより複雑なものへと分類することができます。その分類を表すのにタキソノミーTaxonomy(分類学)という用語が使われています。Bloom’s TaxonomyとSOLO Taxonomyが広く使われていると思います。SOLO Taxonomyについては、以前このブログでも紹介しました。(SOLOはStructure of Observed Learning Outcomesです。)

Bloom’s Taxonomyの現在のバージョンでは、remember – understand – apply – analyze – evaluate – create 記憶する – 理解する – 応用する(適用する) – 分析する – 評価する – 創造すると6段階に分類されています。(Vanderbilt UniversityのCenter for TeachingのBloom’s Taxonomyのページを参照)。

Understand理解するは下から二番目のレベルですが、Explain ideas or concepts: Classify, describe, discuss, explain, identify, locate, recognize, report, select, translateとなっています。つまり、考えや概念を説明する:分類する、記述する、議論する、説明する、同定する、探し出す、認識する、報告する、選択する、翻訳する、です。

Armstrong, P. (2010). Bloom’s Taxonomy. Vanderbilt University Center for Teaching. Retrieved [2022.04.04] from https://cft.vanderbilt.edu/guides-sub-pages/blooms-taxonomy/
  1. Create 創造する – 新しいあるいはオリジナルの作品を作る:デザインする、組み立てる、構築する、推測する、開発する、策定する、著作する、調査・研究する
  2. Evaluate評価する – 立場あるいは決定を正当化する:吟味する、主張する、防御する、判断する、選択する、サポートする、価値を図る、批判する、重さをはかる
  3. Analyze 分析する – さまざまな考え(アイディア)をつなげる:鑑別する、整理する、関連付ける、比較する、区別する、検査する、実験する、質問する、テスト(試験)する
  4. Apply応用する – 新しい状況で情報を用いる:実行する、実装する、解決する、用いる、デモンストレーションする、解釈する、操作する、スケジュールを管理する、スケッチする
  5. Understand理解する – 考え、概念を説明する:分類する、記述する、議論する、説明する、同定する、見つけ出す、認識する、報告する、選択する、翻訳する
  6. Remember記憶する – 事実と基本的概念を思い出す:定義する、複製する、列挙する(リストアップ)、記憶する、繰り返す、述べる

カリキュラムあるいは学習プログラムを開発する際には、Taxonomyの理解が必要です。

OECD Education 2030プロジェクト

OECD Education 2030 projectは、2015年から始まった、2030年において子ども達に求められるコンピテンシーを検討するとともに、そうしたコンピテンシーの育成につながるカリキュラムや教授法、学習評価などについて検討していくプロジェクトです。その最終報告書のひとつの仮訳「OECD ラーニング・コンパス(学びの羅針盤)2030」が文部科学省により公開されています。OECD Future of Education and Skill 2030はこちらです。ここではさまざまな資料が提供されています。

OECD (Organisation for Economic Co-operation and Development)は経済協力開発機構です。医学教育に直接関係ないのですが、このプロジェクトの中間報告は教育学の進歩が取り入れられ、未来に向けた教育の在り方が述べられており、素晴らしい内容です。

中間報告のFigure 1を書き直したものが図1です。

図1. OECD学習フレームワーク2030:作業進行中

左側の知識、スキル(技能)、態度と価値観が絡み合って、中央のコンピテンシーを構成することが表されています。このような教育を受けた人は、新しい価値を創造し、ちゃんと責任をとり、緊張やジレンマを融和させ、個人としても社会としてもWell-beingな状態になる。WHOのいうWell-beingウェルビーイングと同じですね。WHOのWell-beingについては、こちら、Health Promotion Glossary Terms 2021はこちら(PDF)を参照してください。

コンピテンシーCompetencyとは:
コンピテンシーという概念は、単なる知識やスキルの習得にとどまらず、複雑な要求に応えるための知識、スキル、態度、価値観を総動員することを意味する。将来に準備ができている学生には、幅広い知識と専門的な知識の両方が必要とされる。

知識は、•分野別の知識 、多くの分野についての(学際的)知識、•認識論的知識、
例えば、数学者、歴史家、科学者のように考えるにはどうしたらよいかを知ること、
•手続き的知識に分類されています。

スキルも、・認知-メタ認知スキル(批判的思考、創造的思考、学習、自己制御など)、・社会・感情スキル(共感、自己効力感、コラボレーションなど)、・実践・身体スキル(新しい情報通信技術機器の使用など)に分類されています。

態度・価値観は、・個人、・地域、・社会、・世界に分類されています。

そして、•学生は、未知の状況や進化する状況において、自分の知識を応用する必要があり、そのためには、認知・メタ認知スキル(批判的思考、創造的思考、学習、自己制御など)、社会・感情スキル(共感、自己効力感、コラボレーションなど)、実践・身体スキル(新しい情報通信技術機器の使用など)など、幅広いスキルが必要となる。

知識の詰め込みではなく知識の応用ができないといけない、正解のない問題に対処できないといけない、等々言われていますが、そのためには、応用可能な形で、正しい知識を幅広く身に着けている必要があり、いままでの詰め込み以上の知識が要求されると思います。そして、・スキル・態度-価値観についても同様です。このような教育を受けてこなかった、今の大人たちは、自分たちには欠けたものがあることを認識したほうがいいかもしれません。

用語:
•Epistemology認識論: How we know?を論ずる学問。知識とは何か?知識はどのように獲得されるか?人々は何を知るか?何を知っているかをどのように知るか?人間の知識は信頼できるか?我々の感覚は信頼していいか?意見、知識、知恵の違いは何か?
•Epistemic knowledge 認識論的知識

•認知能力:知識の習得、情報の操作、推論において必要とされる脳を使った能力。
•メタ認知:メタ認知とは、自分の認知処理を監視し、適応的に制御する能力、または思考について考える能力のこと。自分の記憶を自覚することで、必要な知識が不足している状況を回避することができる機能。

コンピテンシーの概念が理解できていないと、Reusable Learning Object (RLO)のこともよくわからないと思いますし、マルチメディア学習デザインプリンシプルも、Entrustable Professional Activity (EPA)のこともよくわからないかもしれません。

マルチメディア学習のデザインプリンシプル

eラーニング用のマルチメディアデジタル学習オブジェクト(教材)を作成するときには、以下の項目が重要だそうです。確かにその通りです。

マルチメディア学習のデザインプリンシプル(Mayer 2005 and Clarke Mayer 2003)

対象・・・よりよい学習となる
マルチメディア文字情報だけより文字+画像情報の方が、
セグメント化連続したユニットにするより、学習者のペースに合わせられる配置の方が、
学習開始前主なコンセプトの名称と特徴を知る時、マルチメディアリソースからの方が、
モダリティ―アニメーションとオンスクリーンのテキストより、アニメーションとナレーションの方が、
統一性(一貫性)外部からの言葉、画像、サウンドは包含せず、外側に置く方が、
重複アニメーション、ナレーション、オンスクリーンテキストより、アニメーションとナレーションの方が、
シグナリング文章にプレゼンテーション全体構成の中の位置づけに関するキュー(合図)が含まれている方が、
空間的隣接性対応のある言葉や画像はページあるいはスクリーン上で互いに近くに表示された方が、
時間的隣接性対応のある言葉や画像は連続的により同時に提示したほうが、
個人化言葉が文語体より口語体(会話調)の方が、
音声言葉がマシンボイスや外国語なまりのヒトの声より標準語のヒトの声で話された方が、
個人的差デザインの効果は、知識の多い学習者より、知識の少ない学習者の方が;デザインの効果は、低空間識別能の学習者より、高空間識別能の学習者の方が

やはり、スライドを見せながら、ナレーションを入れるだけよりも、これらのことを実現する方が、学習者を引き付け、集中させる効果が、そしてそれ以外の効果も期待できそうです。

文献:
Clark RC, Mayer REE. Learning and the science of instruction. San Francisco: Jossey-Bass; 2003.  

Mayer RE. The Cambridge handbook of multimedia learning. New York: Cambridge University Press; 2005.

Konstantinidis ST, Bamidis PD, Zary N: Digital Innovations in Healthcare Education and Training. 2021, Elsevier Science, Oxford, UK.