Medical Decision Making関連ジャーナルと日本からの論文

PubMedのNLM Catalogでジャーナル名の検索ができます。次の検索式で検索すると currentlyindexed[All] AND (decision OR reasoning OR outcome OR outcomes OR quality of life OR preferences OR preference OR utility)
現在インデクシングが行われているジャーナルは22件あることがわかりました。ちなみに現在インデクシングが行われている全ジャーナル数は5256件です。

22件中、以下の4つのジャーナルが代表的な専門誌のようなので、発行者、発行開始年、今まで(2019.3.2時点)の発行論文数を調べてみました。

Medical Decision Making 2394件
Med Decis Making
Society for Medical Decision Making (US)
1981年

Value in health 7678件
Value Health
International Society for Pharmacoeconomics and Outcomes Research
1998年

Journal of evaluation in clinical practice 2875件
J Eval Clin Pract
Oxford, England : Wiley-Blackwell
1995年

The International journal of risk & safety in medicine 603件
Int J Risk Saf Med
Amsterdam : Elsevier Science Publishers
1990年

さらに、Medical Decision MakingとValue in Healthの国別の論文数を調べると、やはりアメリカがNo 1であることがわかります。

Medical Decision Making
アメリカ 733件
英国 252件
ドイツ 54件
フランス 29件
スウェーデン 28件
ノルウェー 14件
日本 5件

Value in Health
アメリカ 1984件
英国 1640件
ドイツ 481件
フランス 479件
スウェーデン 169件
日本 115件
ノルウェー 42件

これら以外の一般医学誌、専門科別ジャーナルにもMedical Decision Makingに関する論文が発表されていますから、これらですべではありませんが、Society for Medical Decision Making (US)から発行されているジャーナルであるMedical Decision Makingに掲載されている日本人の論文が少ないことがわかります。


Medical Decision Making書籍

Medical Decision MakingあるいはClinical Decision Making、日本語では臨床決断に関する書籍のリストです。

McNutt RA:Your health, your decisions: How to work with your doctor to become a knowedge-powered patient. 2016, The University of North Carolina Press. この本はアメリカで一般の人向けに書かれた本です。著者のMcNutt先生はここに書かれている手法(絶対効果を棒グラフで人数のデータを表でベースラインリスクとともに示すMulticriteria decision analysisの手法を取り入れた方法)を25年以上実際の診療で使ってきたそうです。このような本が2016年にアメリカで一般向けに出版されたということは驚きです。

Sox HC, Higgins M, Owens DK: Medical Decision Making (2nd ed.). 2013, Wiley-Blackwell. この本はアカデミックな内容を臨床家に理解できるようにという意図で書かれています。それでも理解するのはなかなか難しい内容を含んでいますが、単なる知識にとどまらず、実用的なレベルまで書かれています。必読書ではないかと思います。

Anderson BL, Schulkin J ed.: Numerical Reasoning in Judgements and Decision Making about Health. 2014, Cambridge University Press.この本は包括的な内容で、特にChapter 7 Using visual aids to help people with  low numeracy make better decisions.  は興味深く有用です。Evidence-based communicationについて考えさせられます。

Schwartz A, BergusG: Medical Decision Making: A Physician’s Guide. 2008, Cambridge University Press. 心理学的な面も取り上げられています。

◯ Elwyn G, Edwards A, Thompson R, ed.: Shared Decision Making in Health Care: Achieving Evidence-based Patient Choice. 2016, Oxford University Press. この本はShared Decision Making協働意思決定に関する教科書というような内容です。実用的な面は米AHRQ Agency for Healthcare Research and Quality医療研究・品質調査機構のThe SHARE Approach の方が参考になるでしょう。

◯ Welton NJ, Sutton AJ, Cooper N, Abrams K, Ades AE: Evidence synthesis for decision making in healthcare. (Statistics in practice), 2012, Wiley.この本はIntroductionに “This book is at heart about a fusion of ideas from medical statistics, clinical epidemiology, decision analysis, and health economics.” と書かれている通り、臨床決断に関して医学統計学、臨床疫学、決断分析、医療経済学の見地からすべて取り込んだ内容になっています。この本が2012年にすでに出版されていました。

◯ Jiang Q, He W: Benefit-Risk Assessment Methods in Medical Product Development: Bridging Qualitative and Quantitative Assessments. 2017, Chapman and Hall/CRC.   FDAのBenefit-risk assessment frameworkについても含まれています。

他には、
Falasca T: Physician’s Guide to Better Medical Decision Making: Critical Thinking in Medicine. 2019。
Gross R: Making Medical Decisions: An approach to Clinical Decision Making for Practicing Physicians. 1999.リチャード・グロス:臨床決断のエッセンス―不確実な臨床現場で最善の選択をするために。2002年、医学書院。
があります。


Multi-Criteria Decision Analysis (MCDA)

MCDA多基準決断分析はMultiple Criteria Decision Analysisとも呼ばれています。MCDAでは、選択肢がいくつかある場合、それらを比較するための判定基準となる評価項目あるいは基準項目Criteriaをいくつか設定しモデルを作成します(図)。

評価項目の相対的重要性を決め、さらにそれぞれの評価項目ごとにどの選択肢が好ましいかを決めます。これらの決め方にはいろいろな方法があります。たとえば、Analytic Hierarchy Process (AHP)階層分析法では9分の1から9倍まででスコアリングします(図)。

各選択肢について選択肢の比較のスコアと基準項目の比較に基づく重みの積を合計してひとつの値に集約し、その値が最大の選択肢を最善の選択肢とします。多くの場合、スコアと重みは標準化(合計が1あるいは100%)になる様に変換する)してから計算が行われ、Eigen valueを用いたり、Centroidが用いられたりすることも行われています。AHPとOrdinal method(Rank order method)順位法については森實敏夫:第35回 価値観を反映した益と害の評価法。あいみっく 2015;36:86-91.を参考にして下さい。

さて、MCDAにはさまざまな手法がありますが、ISPOR MCDA Emerging Good Practices Task ForceがMCDAに関する2つの報告を出しています(文献リスト)。

その中でThokala P 2016ではMCDAが適用されるであろう例としてShared Decision Making協働意思決定を上げています。SDMにおける患者と臨床家のMCDAの適用は、”関連するリスクとベネフィットが症例ごとに異なる場合、患者さんが異なる好み(preferences)を持っている場合の一度きりの決断(one-off decision)。したがって、基準とその重要性は決断ごとに異なる。”場合であると。

PROTECT

PROTECTはPharmacoepidemiological Research on Outcomes of Therapeutics by a European Consortiumのことで、”治療アウトカムに関する薬剤疫学的研究ヨーロッパコンソーシアム”のこと。

Hallgreen CE, et al: Literature review of visual representation of the results of benefit-risk assessments of medicinal products. Pharmacoepidemiol Drug Saf 2016;25:238-50. PMID: 26521865の論文もPROTECT Benefit-Risk groupから出されている。

PROTECT Benefit-Risk groupのサイトのVisualisationsのページはかなり包括的で興味深い。VisualizationsではなくVisualisationsというスペルはアメリカより英国に近いということだが、ヨーロッパ系であることがわかる。医療者と患者・介護者のコミュニケ―ションについても研究がかなり行われており、Evidence-based communicationという言葉も使われている。

PROTECTからは PrOACT-URL: Problem, Objectives, Alternatives, Consequences, Trade-offs, Uncertainty, Risk tolerance, and Linked decisions というBenefit-Risk assessmentのためのフレームワークが提言されている。