システマティックレビューのためのAnalytic framework分析的枠組み

システマティックレビューの際にクリニカルクエスチョンあるいはリサーチクエスチョンを設定します。PICO、PECO、PICOTSなどの形式に当てはめて、クリニカルクエスチョンが作成されます。Population, Intervention, Exposure, Comparator, Outcome, Timing, Settingの頭文字を組み合わせた語句です。これらの要素がきちんと定義されないと、システマティックレビューを行うのが難しくなります。

一方で、クリニカルクエスチョンそのものが科学的に妥当かについても検討する必要があります。その際に、Analyltic framework分析的枠組みを作成し、それを基盤に議論することが有用とされています。分析的枠組みは、「アウトカムと関連付けながら、臨床的概念、エビデンスおよび対象集団をリンクし、定義づけるエビデンスモデルのひとつ」とされています。

この分析的枠組みについての解説を作成しました。こちらは約20分の動画です。

同じ内容ですが、HTMLのページはこちらです。システマティックレビューのためのAnalyltic framework

クリニカルクエスチョンの臨床的な文脈における位置づけを明確にし、介入の効果の科学的に妥当な分析を行うことが分析的枠組みの目的と考えられます。

文献:Harris RP, Helfand M, Woolf SH, Lohr KN, Mulrow CD, Teutsch SM, Atkins D: Current methods of the US Preventive Services Task Force: a review of the process. Am J Prev Med 2001;20:21-35. PMID: 11306229

Living SRとは?

前回の投稿で紹介したElliott JHらのLiving SRに関する論文の内容を紹介したいと思います。従来のSRとの違いと、研究のエコシステムにおけるLiving SRの位置づけについて述べられています。できるだけ原文のまま紹介したいと思います。

従来の通常のシステマティックレビュー(SR)とLiving systematic review (SR)は、出版形式、作業プロセス、著者チームマネージメント、統計学的方法の4つの点で異なる。

1. 出版形式:動的で、持続的で、オンラインのエビデンスのまとめで、更新が早く、頻回である。
2. 作業プロセス:通常のSRとは異なり、文献検索戦略は維持され、アウトプットは連続的にSRのワークフローに追加され、採択される文献、研究の質の評価、データの抽出、メタアナリシス、SRレポートは連続的に更新される。通常のSRあるいはSRの更新の集中的で間欠的な努力の代わりに、Living SRは中等度の進行中の貢献が必要となる。
3. 著者チームのマネージメントは連続的なワークフローに対応し、長期間にわたる協働と著者チームの進化を許容しながら、組織としての記憶が保たれなければならない。
4. メタアナリシスの更新は、データの再解析を伴い、蓄積される一次臨床試験のデータの再解析とともに、もし統計学的検定を単に繰り返すと、偽陽性の所見の率が上昇する。また、エフェクトサイズの推定値は不安定で、特にエビデンス生成の初期段階でそうなる。これらの問題はすべてのメタアナリシスの更新に関連するが、Living SRでは、更新の回数が多くなる可能性が高いので、特に重要となる。正式のSequential methodを用いる方法や、ベイジアンアプローチが有用である。

ワークフローおよび協働作業ツール
セミオートメーション

文献検索・選定作業、バイアスリスクの評価、データ抽出作業への機械学習などAIの活用が進む可能性がある。

データレポジトリとリンクされたデータ
 重要なヘルスケアクエスチョン(クリニカルクエスチョン)は多くのSR作成者に共通であり、互いに独立してSRを行うことは、無駄が多い。SRのプロトコールを共通のサイトに登録すること、SRのプロセスや作成データ(アウトプット)を保管し再利用を許可することで繰り返しの無駄を省くことができる。共通の概念に基づいた一定のフォーマットを用いることで、不必要な二重の作業を減らすことができる。

リンクされたデータには以下の様式が用いられるであろう:
W3C: World Wide Web Consortium
RDF:RDFはResource Description Frameworkの略です。 RDFファイル拡張子を含むファイルは、リソース記述フレームワーク言語で記述されたドキュメントである。これらのファイルは、このファイル形式を使用するWebサイトに関する情報を保存するために使用される。
Web Ontology Language ( OWL )は インターネット 上に存在する オントロジー を用いてデータ交換を行うための データ記述言語 。 OWLは RDF の語彙拡張であり、DAML+OILに由来している。

Living SRの出版
オンラインのみの出版により、ピアレビュー、編集委員会のレビューがスピードアップする。

International Committee of Medical Journal Editors (ICMJE)の基準のような出版の基準に従うことを原則とすることで、ノルムを維持できる。著者の変更も正確に反映されるべきである。

医学文献データベースでの取り扱いは、マイナーアップデートの場合、追加分の情報だけを提供し、メジャーアップデートの場合は、新規の出版として掲載する。

研究のエコシステムとLiving SRの関係
Living SRのサイクル医療Health Practice ー ヘルスケアシステムの学習 – 健康”ビッグデータ” – リンクされたデータレポジトリ – Living システマティックレビュー – Livingエビデンスサービス – Livingガイダンス – 意思決定支援システム – 医療

一次研究のサイクル医療 – 仮説の優先付け – 一次研究 – 出版 – システマティックレビュー – 出版 – ガイダンス – 知識の翻訳* – 医療

*translationは翻訳という意味であるが、研究結果をまとめた情報を実臨床に使える形に変えることを意味する。

2つのサイクルは赤字で示す一次研究とリンクされたデータレポジトリの部分でつながる。

論文のサマリーから著者らの主張が次のようなものであることがわかる:

我々は、最新であることと正確さを向上させるための厳密さとヘルスエビデンスの活用の両者を結合するエビデンスの統合への貢献として、Living systematic review “生きたシステマティックレビュー”を提案する。

Living systematic reviewは高品質で、新しい研究が得られるたびにアップデートされる最新のオンラインのまとめで、改善された作成効率と学問的コミュニケーションの基準の順守によって可能となる。

一次研究報告の技術革新と健康システムにおけるエビデンスの創生と使用を合わせて、Living systematic reviewは新しいエビデンスエコシステムに貢献する。

以下は投稿者の意見です:Living SRの著者はチームになり、その構成も随時変わっていき、一度出版してもそれで終わりではなく、新しい論文が出たら、すぐに再解析して、書き直して、アップデートを出版しなければならない。その作業の負担はかなり大きいと思われます。その出版を引き受けるジャーナルの側も、迅速なピアレビューが必要で、オンラインで出版しなければならない、旧版の処理など、いろいろな、変革が必要になります。PubMedの対処の仕方は、前回例として解説しました。また、利用者の立場からは、リサーチクエスチョン(クリニカルクエスチョン)がLiving SRになじむものに偏る可能性、それぞれのLiving SRに、臨床決断に必要な情報がすべて含まれていない可能性があることに注意が必要ではないかと思います。

文献:
Elliott JH, et al: Living systematic reviews: an emerging opportunity to narrow the evidence-practice gap. PLoS Med 2014;11:e1001603. doi: 10.1371/journal.pmed.1001603 PMID: 24558353

Living Systematic Review (SR)

Living systematic review (SR) ”生きたシステマティックレビュー”と称する論文があります。特に、最近はCOVID-19に関するSRがLiving SRとして発表されているのをみかけます。Livingなので、今後変わりうるという意味を含んでいます。SRなので、そのリサーチクエスチョンあるいは、クリニカルクエスチョンに関する新しい論文が発表されたら、それを追加してSRを更新updateして新しい論文として発表することになります。変更が小さい場合は、追加分だけ発表されることもあります。

実際の例を見てみましょう。Siemieniuk RA, et al: Drug treatments for covid-19: living systematic review and network meta-analysis. BMJ 2020;370:m2980. doi: 10.1136/bmj.m2980 PMID: 32732190は2020年7月30日にBMJに発表された論文で、タイトルにLiving systematic reviewという言葉が含まれています。この論文をPMIDからPubMedで開くと、Abstractは表示されず、下の方に、Update in となっていて、2020年7月30日以降に更新された論文が表示されます。この例では、2020年9月11日、2020年12月17日のアップデート、そして最新のアップデートが2021年3月31日です。これらのリストの下に、2020年7月30日の論文のAbstractが示されます。アップデート版のリンクを開くと、この論文の場合は、Abstractは表示されません。そして、Update ofという見出しの下に、古い論文のリンクが表示されます。Update inとUpdate ofに注意する必要があり、もしUpdate inの見出しがあったら、アップデート版があるので、そちらを見る必要があるということがわかります。

この例で分かるように、Living SRはPubMedでの取り扱いが通常のSRの論文とは異なっており、検索した結果からアップデートがある場合あるいは古い版がある場合は、それがわかるようになっています。

CochraneのSRもPubMedで検索できますが、例えば、Piechotta V, et al: Convalescent plasma or hyperimmune immunoglobulin for people with COVID-19: a living systematic review. Cochrane Database Syst Rev 2020;7:CD013600. doi: 10.1002/14651858.CD013600.pub2 PMID: 32648959は2020年7月10日の出版で、Update inと表示され、そちらをクリックするとAbstractも表示されます。そして、第一著者がChai KLに変わっています。

さて、Living SRがどのようなものかについては、Elliott JHらが2014年に論文を発表しているので、それが参考になります。Elliott JH, et al: Living systematic reviews: an emerging opportunity to narrow the evidence-practice gap. PLoS Med 2014;11:e1001603. doi: 10.1371/journal.pmed.1001603 PMID: 24558353
出版形式、作業プロセス、著者チームのマネージメント、メタアナリシスの更新において、従来のSRとはいろいろな点で異なっています。現在のICTを活用して、迅速にアップデートを行い、迅速に出版するというのが特徴と言えます

Living SRに関連した事項として、Rapid recommendationEvidence ecosystemなどがあります。

BMJは2016年にRapid recommendationに関する論文を発表しています。Siemieniuk RA, Agoritsas T, Macdonald H, Guyatt GH, Brandt L, Vandvik PO: Introduction to BMJ Rapid Recommendations. BMJ 2016;354:i5191. doi: 10.1136/bmj.i5191 PMID: 27680768

BMJはMAGICappと協働し、RapidRec projectを推進しているようです。MAGICappの活動は、診療ガイドラインだけでなく、Evidence ecosystem、Rapid recommendationと深いかかわりがあります。

また、Evidence ecosystemについては、上記のElliot JHらの論文や、下記のBoutron Iらの論文、Gough Dらの論文が参考になります。

Boutron I, et al: The COVID-NMA Project: Building an Evidence Ecosystem for the COVID-19 Pandemic. Ann Intern Med 2020;173:1015-1017. doi: 10.7326/M20-5261 PMID: 32931326

Gough D, et al: Clarifying differences between reviews within evidence ecosystems. Syst Rev 2019;8:170. doi: 10.1186/s13643-019-1089-2 PMID: 31307555

交絡因子Confounders

疫学Epidemiologyと臨床疫学Clinical Epidemiologyは同じではありません。前者の方が歴史が長く、非常に奥が深い領域です。Evidence-Based Medicine (EBM)に興味を持って、研究の内的妥当性の評価、いわゆる批判的吟味Critical appraisalを学んだとしても、疫学の奥深さにはなかなか到達できないと思います。

Rothman KJ, Greenland S, Lash TL: Modern Epidemiology (3rd ed.) 2008 Lippincott Williams & Wilkins. PA, USA.のは発刊されてから10年以上経っていますが、今でも非常に優れた疫学のテキストブックだと思います。このChapter 9. Validity in Epidemiologic Studies. Rothman KJ, Greenland S, Lash TLではValidity of Estimation推定値の妥当性、Confounding交絡、Selection Bias選択バイアス、Information Bias情報バイアス、Generalizability一般化可能性について書かれています。

交絡因子は曝露/介入ともアウトカムとも関連のある因子として認識されていると思います。例えば、飲酒者と非飲酒者で口腔癌の発症を比較する場合、飲酒する人は喫煙する人が多く、喫煙は口腔癌のリスクファクターであり、喫煙は飲酒と口腔癌発症発症の両方に関連があるため、交絡因子であり、飲酒の口腔癌発症への効果を歪めることになります。

Counterfactual反事実の対照を設定できない限り、対照群と暴露群の比較では交絡の影響を考慮することが必須だと言えます(最後の追加を見てください)。

Rothman KJらは上記の第9章で、交絡因子については3つの基準Criteriaがあることを述べています(図1)。

図1.交絡因子の3基準。

さらに、これらの3つの特徴が交絡因子の定義として誤解されることがあること、ここれらの基準が満たされても必ず交絡因子と言えるわけではないことを指摘しています。

アウトカムの原因となる外部因子と関連があり、その代理となりうる因子も交絡因子と呼ばれる。すなわち、代理交絡因子Surrogate confounderが単に交絡因子と呼ばれることも多いと述べられています。例えば、多くの研究で年齢が交絡因子として取り扱われていますが、年齢は代理交絡因子の代表的なものです。加齢によって起きる、細胞の変異の蓄積、組織の損傷の蓄積などが疾患発症(アウトカム)の原因であって、年齢自体が疾患発症を引き起こすわけではないということです。

この3条件についての彼らの記述をリストアップしてみます:

・交絡因子、代理交絡因子のいずれでも、交絡因子候補として扱っていいが、研究下の暴露のそのレベルで危険因子として作用するものでなければならない。
・データで認められる交絡因子候補とアウトカムの関連は交絡があるかどうかを見極めるガイドになるが、見かけ上の関連でなく、実際の関連でなければならない。
・交絡因子候補とアウトカムの関連を知るには外部のエビデンス、すなわち事前の知識Prior knowledgeが必要になり、特に小規模な研究の場合はそうである。
・しかしながら、外部のエビデンスの限界に注意が必要である。
・コホート研究では原集団Source populationは研究コホートになり、測定誤差が無ければ、研究コホートで暴露と関連のある因子は交絡因子と考えてよい。
・ランダム化比較試験であれば交絡が起きないとは言えない。小規模な試験の場合は大きくなりやすく、大規模な試験であっても介入のアドヒアランスが悪い場合、脱落が多い場合は交絡が起きやすい。
・症例対照研究では原集団の内、ケースとなる集団で、暴露と交絡因子の候補の関連があるはずである。対照群が十分大きく、選択バイアス・測定誤差が無ければ、研究データから交絡をチェックできるが、一般的には暴露と交絡因子の候補との関連を適切に推定できないかもしれない。(Bias analysisが必要)。
・交絡因子が暴露よりも先行Precedeしている。
・交絡因子がアウトカムより先行している。
・もし、交絡因子候補が暴露の結果であり、その結果がアウトカムに関連している場合=中間因子の場合、交絡因子として解析しないで、中間因子として解析する必要がある。
・3条件が満たされる交絡因子が同定できた場合でも他に未知の交絡因子があるかもしれない。
・未知の交絡因子は解析できない。
・未知の交絡因子の効果が混ざり合った結果がプラスマイナス0になることもありうる。
・条件によっては、未知の交絡因子の効果を暴露の効果と取り違える可能性もある。

さて、バイアスや交絡因子あるいは交絡という用語の使い方は使う人によってさまざまであることが指摘されています。Schwartz Sらはこの投稿の最後に示す論文で、Internal validity, Source population, Causal effect, Actual effect of exposure, Bias (i.e., invalidity)についての定義を示したのち、”Confounding, selection bias, and information bias are categories of bias thus defined. What unites them is their consequence—what they do to the study results. They each create noncomparability, which prevents the identification of the true causal effect the exposure had on the exposed in the source population.”「交絡、選択バイアス、情報バイアスは、このように定義されたバイアスのカテゴリーである。これらのバイアスをまとめているのは、その結果、すなわち研究結果に何をもたらすかということである。これらのバイアスはそれぞれ非比較可能性を生み出し、暴露が原集団の被暴露者に与えた真の因果関係を特定することを妨げる。」と述べています。

異なる視点、異なる分野での異なる考えなどを知ることがとても重要に思えます。

文献:
Rothman KJ, Greenland S, Lash TL: Modern Epidemiology (3rd ed.) 2008 Lippincott Williams & Wilkins. PA, USA.

Schwartz S, Campbell UB, Gatto NM, Gordon K: Toward a clarification of the taxonomy of “bias” in epidemiology textbooks.  2015;26:216-22. doi: 10.1097/EDE.0000000000000224 PMID: 25536455

追加:

効果測定値Measures of effect関連測定値Measures of association
集団と暴露以外は同じ反事実集団を比較する。集団と暴露を受けていない異なる人々の異なる集団を比較する。
効果effectと関連associationを使い分けています。本当の値と研究結果で得られた値と考えてもいいと思います。

2つの集団間の差が見られ、これら2つの測定値、すなわち効果測定値と関連測定値、が異なる場合、我々は、関連associationが交絡しているconfounded、または交絡が関連に存在していると言う。  これら2つの測定値が同じであれば、交絡は存在しないと言う。

交絡因子とは、関連性の測定値と、反事実counterfactulalの理想を用いて得られるであろう効果の測定値との間の差の全部または一部を説明するか、または作り出す因子(暴露、介入、治療など)である。