診療ガイドライン作成のプロセスでシステマティックレビューは重要なステップです。

そのシステマティックレビューを始める前に、スコープを作成しますが、その中で、重要臨床課題に基づきクリニカルクエスチョンを作成します。クリニカルクエスチョンを作成する際に、解析的枠組みAnalytic Frameworkを作成して、ステークホルダーの意見を調整し、臨床的な文脈におけるクリニカルクエスチョンの位置づけを明確にすることができます。

これからこの分析的枠組みについて解説します。

参考文献:Harris RP, Helfand M, Woolf SH, Lohr KN, Mulrow CD, Teutsch SM, Atkins D: Current methods of the US Preventive Services Task Force: a review of the process. Am J Prev Med 2001;20:21-35. PMID: 11306229 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11306229/

Lawlor PG, Davis DH, Ansari M, Hosie A, Kanji S, Momoli F, Bush SH, Watanabe S, Currow DC, Gagnon B, Agar M, Bruera E, Meagher DJ, de Rooij SE, Adamis D, Caraceni A, Marchington K, Stewart DJ: An analytical framework for delirium research in palliative care settings: integrated epidemiologic, clinician-researcher, and knowledge user perspectives. J Pain Symptom Manage 2014;48:159-75. doi: 10.1016/j.jpainsymman.2013.12.245 PMID: 24726762 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24726762/

Lazarus G, Valle F, Malas M, Qazi U, Maruthur N, Zenilman J, Boult C, Doggett D, Fawole OA, Bass EB: Chronic Venous Leg Ulcer Treatment: Future Research Needs: Identification of Future Research Needs From Comparative Effectiveness Review No. 127. AHRQ Future Research Needs Papers 2013; (unindexed) PMID: 24555206 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24555206/

Samson D, Schoelles KM: Chapter 2: medical tests guidance (2) developing the topic and structuring systematic reviews of medical tests: utility of PICOTS, analytic frameworks, decision trees, and other frameworks. J Gen Intern Med 2012;27 Suppl 1:S11-9. doi: 10.1007/s11606-012-2007-7 PMID: 22648670 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22648670/

Grossman DC, Moyer VA, Melnyk BM, Chou R, DeWitt TG: The anatomy of a US Preventive Services Task Force Recommendation: lipid screening for children and adolescents. Arch Pediatr Adolesc Med 2011;165:205-10. doi: 10.1001/archpediatrics.2010.299 PMID: 21383269 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21383269/

分析的枠組みは、「アウトカムと関連付けながら、臨床的概念、エビデンスおよび対象集団をリンクし、定義づけるエビデンスモデルのひとつ」とされています。

臨床的概念とは、疾患、病態、診断法の実施・治療などの介入、害、治療の効果、診断精度、予後予測などの事です。費用(医療費)や負担も分析的枠組みの要素に含めることができます。

また、因果経路と呼ばれることもあり、コンセプトの枠組み、理論的枠組みなどと関係があります。

いわゆる診療アルゴリズムでは、対象者の属性や生起事象に応じて、最善の選択肢へ至る経路が示され、個別対象者の意思決定を支援します。他方、分析的枠組みは、診療アルゴリズムとは異なり、対象者に対する診断的・治療的介入の有用性を分析するために、臨床的文脈の中にそれらを位置づけた枠組みと言えます。あくまで、科学的に妥当な分析を行うことが目的です。

分析的枠組みでも、矢印をたどることで、個別対象者がそのアウトカムをたどる経路を知ることができ、それぞれの経路の起きる確率を推定するためのエビデンスが何かを知ることができます。そのエビデンスを包括的に科学的に分析するために、Key Questionキークエスチョンを設定し、システマティックレビューの作業へと進みます。キークエスチョンはそのままクリニカルクエスチョンになる場合もあり、いくつかのクリニカルクエスチョンに分解されることもあります。

分析的枠組みの目的は、臨床的文脈を明確にすること、クリニカルクエスチョンの構成要素であるPICOあるいはPICOTSを定義づけること、中間アウトカム、代理アウトカム、重要アウトカムを明確にすること、Key Question (KQ)キークエスチョンの臨床的文脈における位置づけ、論理的枠組みを明確にすること、必要なエビデンスを明確にすること、ステークホルダーの議論の基盤を提供すること、などがあげられます。まとめると、診断的介入・治療的介入の効果の科学的に妥当な分析を行うことが目的と言えます。

キークエスチョンから、クリニカルクエスチョンを作成し、システマティックレビューへと進めていきます。システマティックレビューの作業の中でも、分析的枠組みは随時参照されます。

分析的枠組みはPICOTSの各要素とそれらをリンクする3種類の矢印で構成されます。

クリニカルクエスチョンは文章で表現されますが、分析的枠組みは、図あるいはダイアグラムで表現されます。

分析的枠組みで用いられる、図の要素を示します。

開始点は対象者を表す記述で、通常枠線で囲ったりせず、文字列だけを用います。最終点は重要アウトカムで、通常は患者中心のアウトカムを四角の中に記述します。

開始点と最終点の間に、中間アウトカムが配置され、角の丸い四角を用いて表現されます。

これらの要素が実線または点線の矢印でリンクされます。実線の矢印は、起点の側が先に起きる事象で矢じりの側がその帰結を示します。点線の矢印は起点の側と矢じりの側に関連があることを示します。たとえば、中間アウトカムと重要アウトカムは点線の矢印でリンクされます。単なる点線が関連を示すために用いられる場合もあります。

治療、診断法の実施などの介入(治療的介入/診断的介入)は実線の矢印の上に配置されます。複数の介入がある場合は、リスト形式で矢印の上下に配置されます。

診断法の実施の結果は中間アウトカムとして扱うことができます。

介入に伴う害・負担・コストは楕円形で表示されます。そして、それらへのリンクは実線の曲線を用いて表します。

そして、キークエスチョンはこれらのリンクを示す線の上に置かれることになります。

分析的枠組みの一例を示します。PICOの各要素と矢印から構成されていることがわかります。

診断法の実施、治療などの介入は矢印上に置かれます。キークエスチョンも矢印上に置かれます。たとえば、“小児/思春期の若者に対する脂質異常症のスクリーニングは冠動脈疾患イベントの発症の遅延と頻度の減少に有効か?”といったKQを、開始点と最初の中間アウトカムをリンクする矢印と最終点である重要アウトカムをリンクする矢印に設定することができます。①と書かれている矢印です。

Grossman DC, et al: The anatomy of a US Preventive Services Task Force Recommendation: lipid screening for children and adolescents. Arch Pediatr Adolesc Med 2011;165:205-10. doi: 10.1001/archpediatrics.2010.299 PMID: 21383269

https://jamanetwork.com/journals/jamapediatrics/fullarticle/384409

分析的枠組みの実際の例を見てみましょう。ここで示す例は、US Preventive Services Task Force (USPSTF)の小児および思春期の若者の脂質スクリーニングに対する分析的枠組みです。2011年に発表された論文からの引用で、日本語に翻訳したものです。あくまで、分析的枠組みの理解のための例としてとらえてください。

一番左側が開始点ですが、”一般人口の小児および思春期の若者”となっており、対象者を表しています。”リスク評価と検査”は介入に相当しますが、中間アウトカムの”脂質異常症の検出”と対象者をリンクする実線の矢印の上に置かれています。

一番右側に置かれる重要アウトカムは”冠動脈イベントの発症の遅延および減少”となっています。”リスク評価と検査”という介入が置かれている矢印の上でその右側からこの重要アウトカムへと実線の矢印でリンクされています。ここにKey Question (KQ)キークエスチョン①が置かれており、実際の文章は”小児/思春期の若者に対する脂質異常症のスクリーニングは冠動脈疾患イベントの発症の遅延と頻度の減少に有効か?”です。

また、②は”冠動脈疾患の高リスク小児/思春期の若者を同定するのに脂質異常症のスクリーニングの診断精度Diagnostic Accuracyはどれくらいか?”というキークエスチョンが設定されています。このキークエスチョンからは、さらに6個のサブクエスチョンが設定されています。これらについては、後で解説します。

さらに、下向きの曲線の矢印は”有害な効果”にリンクされており、その線上に③のキークエスチョンが設定されており、その内容は、”スクリーニングの有害な効果(偽陽性、偽陰性とラベリングを含む)は何か?”となっています。ここでは、検査自体に伴う直接的な害はないとみなすことができるので、間違った検査結果に伴う害を問題にしています。すなわち、偽陰性の結果で本来受けるべき治療が受けられなくなることによる損害、偽陽性の結果で不必要な治療を受けることによる副作用も含めた損害、または、脂質異常症とみなされることによる損害を問題にしています。

”脂質異常症の検出”のアウトカムの右側には治療的介入が置かれています。この例では、4種類の介入に対して矢印を分けて、それぞれの矢印の上に、キークエスチョンを設定し、それとともに治療全体からそのアウトカムへ実線の矢印でリンクされています。

たとえば、④は”小児/思春期の若者で薬剤、食事、運動療法、これらの組み合わせは成人期の脂質異常症の頻度、冠動脈疾患関連イベントの遅延と頻度の減少における効果(治療開始の最適年齢も含め)はどれくらいか?”というKey Question (KQ)が設定されています。⑤、⑥、⑦および⑧は”小児/思春期の若者で脂質異常症の薬剤、食事、運動療法、これらの組み合わせの効果はどれくらいか?”というKey Question (KQ)が設定されています。

⑩は”小児の脂質異常症の改善は成人期の脂質異常症のリスクを低下させるか?”というKey Question (KQ)が設定されています。

以上、この分析的枠組みの概略について解説しました。

このスライドに示す例では、介入について矢印を分けて描画していますが、ひとつの矢印で表しても同じ表現が可能です。次のスライドでそれを示します。

前のスライドと同じ内容ですが、介入の部分をひとつの実線の矢印で表しています。

このような表記方法でも、たとえば、④は”小児/思春期の若者で薬剤、食事、運動療法、これらの組み合わせは、成人期の脂質異常症の頻度、冠動脈疾患関連イベントの遅延と頻度の減少における効果(治療開始の最適年齢も含め)はどれくらいか?”というキークエスチョンを設定することができますし、⑤、⑥、⑦および⑧は”小児/思春期の若者で脂質異常症の薬剤、食事、運動療法、これらの組み合わせの効果はどれくらいか?”というキークエスチョンを設定することができます。

このような描画の方が、先ほどの例よりも単純で、わかりやすいのではないかと思います。

分析的枠組みの上で、個人の経過をたどることができます。さまざまな組み合わせが可能です。この例では、リスク評価と検査を受け、脂質異常症と診断され、運動療法を続け、脂質が改善し、成人期の脂質も改善した状態を保ち、冠動脈イベントが起きることなく老年期を迎えた個人です。

この例は、リスク評価と検査を受け、脂質異常症と診断され、食事療法を始め、脂質が改善したが、成人期には脂質異常症となり、冠動脈イベントが起きた個人です。

個人のたどる経過は様々ですが、・診断法実施の結果、・選択した治療、・中間アウトカム、・重要アウトカムの組み合わせになるか、害が起きるかで決まります。このように、分析的枠組みの上で個人のたどる経過を再現することができます。

個人のたどる経過が実際に臨床で起きうる経過をすべて再現しているかを検討することで、分析的枠組みの妥当性を検討することができるはずです。

そして、それぞれのアウトカムの起きる確率がわかれば、個人の経過をシミュレートすることが可能になり、それを多数例でシミュレートすることができます。そのために、必要な推定値が何かを明確にすることにも役立つはずですし、それらの推定値を得るのに必要な研究エビデンスを明確にすることにも役立つはずです。

今まで示した分析的枠組みのKey Question ①、②とそれらに対する結論を示します。②は6つのクリニカルクエスチョンに分解されています。

②のKey Questionは診断に関するクエスチョンですが、閾値をどこに設定するか?、診断標的である脂質異常症をどの程度同定できるか?、経時的な変化をどの程度とらえられるか?家族歴の診断精度はどの程度か?他のリスクファクターを測定する必要があるか?検査頻度などスクリーニング戦略は何か?の6つのクエスチョンに分解されています。

結論の部分を見ると、エビデンスがあまりないクエスチョンも取り上げられていることがわかります。すなわち、研究があることが前提になっているわけではなく、臨床的に必要と考えられるクエスチョンが取り上げられていることがわかります。

分析的枠組みの図を見ながら、ひとつひとつのKey Questionを確認してみてください。

次のスライドに続きます。

③以降の、分析的枠組みのKey Question とそれらに対する結論を示します。

以上で、分析的枠組みの基本については理解できたのではないかと思います。

それでは、別の例を見てみましょう。

これは慢性静脈性下肢潰瘍の治療に対する分析的枠組みの例で、2014年にAgency for Healthcare Research and Quality (AHRQ)から発表されたものです。これも一つの例として受け止めてください。

この例は、診断の部分がなく、中間アウトカムがひとつだけで、小児および思春期の若者の脂質スクリーニングに対する分析的枠組みと比べると、より単純です。一方で、害の項目が多数取り上げられています。また、重要アウトカムも複数設定されています。

キークエスチョンは治療と重要アウトカムの間のリンクにのみ設定されています。以下のスライドでは、キークエスチョンと知見とエビデンスの強さの表を示しますが、キークエスチョンはすべて“・x・x・の益と害はどれくらいか?”という記述になっています。そのため、楕円にリンクする曲線の矢印にはキークエスチョンが設定されていません。

また、中央の上に設定されている、効果修飾因子は治療と最終健康・患者中心アウトカムをリンクする矢印の上に置かれています。ここで取り上げられている効果修飾因子は治療対象者のさまざまな属性の内、治療効果に影響を及ぼす因子および研究のセッティングです。システマティックレビューで複数の研究を統合することが前提として考えられているため、この位置に置かれたと思われます。

対象者の属性は、治療開始前の時点で、“治療応答予測のための検査“として行い、その結果を中間アウトカムとして設定することも可能なはずです。どちらにすべきかは、分析者の考え方によるでしょう。この例の分析者は、効果修飾因子を回帰モデルを用いて分析することを考えたのではないかと推測されます。メタアナリシスの場合は、メタリグレッションの手法で複数の研究に対して、これらの因子の効果を分析することができます。

分析的枠組みの最大の目的は、介入の効果の科学的に妥当な分析を行うことにあると言えます。

文献:

Lazarus G, Valle F, Malas M, Qazi U, Maruthur N, Zenilman J, Boult C, Doggett D, Fawole OA, Bass EB: Chronic Venous Leg Ulcer Treatment: Future Research Needs: Identification of Future Research Needs From Comparative Effectiveness Review No. 127. AHRQ Future Research Needs Papers 2013; (unindexed) PMID: 24555206 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24555206/

このAHRQの報告書では、Key Questionとそれに対する研究の知見のまとめ、エビデンスの強さが記述されています。

分析的枠組みを参照しながら、Key Questionがどのように設定されているか、ひとつひとつ見てください。

Key Questionの残りです。こちらも、“・x・x・の益と害はどれくらいか?”という記述になっています。

以上、分析的枠組みAnalytic frameworkについて解説し、実例を2つ示しました。最後に、自分たちで分析的枠組みを作成する際の参考になるよう、分析的枠組みのテンプレートを示します。

これは、一般化できるように図の部分を残したもので、中間アウトカムはひとつだけにしてあります。

数字を設定してある、それぞれのポイントで以下の様なキークエスチョンが考えられます。これらのキークエスチョンからPICOの形式でクリニカルクエスチョンを作成し、システマティックレビューへと進み、効果の大きさと、確実性、アウトカムごとのエビデンス総体の確実性の評価を行います。中間アウトカムと重要アウトカムはひとつとは限りません。一方、害のアウトカムは別に設定されます。

① 診断法の実施は重要アウトカムを改善するか?

② 診断法の標的疾患に対する診断精度はどれくらいか?

③ 診断法の実施に伴う害はどれくらいか?偽陰性に伴う害はどれくらいか?偽陽性に伴う害はどれくらいか?

④ 標的疾患の患者で治療A,B,Cの内、重要アウトカムに対する効果が最も高いのはどれか?/標的疾患の患者で正味の益が最大の治療はA,B,Cの内どれか?

⑤ 標的疾患の患者で治療Aは重要アウトカムをどれくらい改善するか?/標的疾患の患者で治療Aの益と害はどれくらいか?

⑥ 標的疾患の患者で治療Bは重要アウトカムをどれくらい改善するか?/標的疾患の患者で治療Bの益と害はどれくらいか?

⑦ 標的疾患の患者で治療Cは重要アウトカムをどれくらい改善するか?/標的疾患の患者で治療Cの益と害はどれくらいか?

⑧ 標的疾患の患者に対して治療A,B,Cの害はどれくらいか?

⑨ 標的疾患の患者で中間アウトカムの改善から重要アウトカムの改善をどれくらい予知できるか?

診療ガイドラインにおける、推奨に対応するクリニカルクエスチョンは、“疾患Xに対して、診断法Yは有用か?”、“疾患Xに対して、治療Aは推奨されるか?”という表現になります。これらの推奨に対応するクリニカルクエスチョンはアウトカムごとにいくつかのクリニカルクエスチョンに分割されることになります。

これは、診断の部分を除き、治療以降の部分について、一般化できるように図の部分を残したものです。


  1. システマティックレビューのためのAnalytic framework
  2. Analytic framework分析的枠組みとは?
  3. 目的
  4. 構成要素
  5. 構成要素の図
  6. 小児および思春期の若者の脂質スクリーニング対するAnalytic Framework
  7. 小児および思春期の若者の脂質スクリーニング 表記法1
  8. 小児および思春期の若者の脂質スクリーニング 表記法2
  9. 個人の経過1
  10. 個人の経過2
  11. Key Questionsその1
  12. Key Questionsその2
  13. 慢性静脈性下肢潰瘍の治療に対するAnalytic Framework
  14. Key Questionsその1
  15. Key Questionsその2
  16. Analytic Framework分析的枠組みテンプレート1
  17. Analytic Framework分析的枠組みテンプレート2