Synthesis without meta-analysis (SWiM)について

Campbell Mらの提唱する、メタアナリシスのないエビデンスの統合方法について要点をまとめてみました。以下の9項目のチェックリストが提案されており、これらの項目を記述することが求められています。

1.統合のための研究のグループ化 Grouping studies for synthesis

介入、対象、アウトカム、研究デザインなど、統合に用いた研究のグループ化の際の基準項目の記述とその理論的根拠を記述する。特に、RCTに限定するわけではないので、さまざまな点で違いがある研究を統合する必要があり、研究をグループ化する際の基準項目を説明することが求められる。

介入のアウトカムへの影響に対する理論(Theory)や理論的根拠rationaleを述べる、あるいは引用する。

2.標準化した効果指標と用いられた変換方法Describe the standardised metric and transformation methods used

リスク比、オッズ比、リスク差、平均値差、標準化平均値差、平均値比、効果の方向、あるいはP値などのいずれかを用い、共通の指標で効果の大きさを提示する。オッズ比から標準化平均値差へ変換するなど、変換が必要な場合は、その方法を記述する(Cochrane handbook 第6章参照)。

3.統合の方法 Describe the synthesis methods

メタアナリシスができない場合、代替として用いた統合の方法を記述し、その正当性を述べる。P値を結合する、中央値と中央四分位などまとめ値を提示する、効果の方向について投票結果を提示するなど(Cochrane handbook 12章参照)。

4.まとめと統合のために優先的に用いた研究結果の選択基準 Criteria used to prioritise results for summary and synthesis

研究デザイン、バイアスリスク、非直接性、サンプルサイズなど、研究選択の基準を記述し、正当性を説明する。事前に基準を設定した場合はそれを記述するが、文献検索後に変更が必要になった場合は、それを記述する。

5.報告されている効果の異質性の調査 Investigation of heterogeneity in reported effects

異質性を調べた方法を記述する。メタアナリシスによる亜群分析、メタリグレッションができないので、研究間の異質性を、表やグラフで示し、そのような方法を用いた理由を記述する。

6.エビデンスの確実性 Certainty of evidence

統合した知見の確実性を評価するのに用いた方法を記述する。統合した知見の精確性(可能であれば信頼区間など)、研究数、参加者数、研究間の効果の非一貫性、各研究のバイアスリスク、非直接性、出版バイアスなど。投票の結果を提示することもある。

7.データの提示方法 Data presentation methods

表、グラフ(フォレストプロット、ハーベストプロット、箱ひげ図、効果方向プロット、アルバトロスプロット、バブルプロットなど)とそれらの解説。研究を等級づけた場合の基準項目など。

8.結果の報告 Reporting results

それぞれの比較とアウトカムに対して、統合された知見、その確実性を記述する。クリニカルクエスチョンに対応する結果を記述し、貢献度の大きな研究について説明する。

含めた研究の重要な特徴や、可能であれば、信頼区間、確実性の評価の結果などを記述する。

異質性の調査の結果を記述する。事前に予定した手法を変更した場合は、それを理由とともに記述する。

9.統合の限界 Limitations of the synthesis

統合に用いた方法やグループ化に用いた方法の限界を記述し、得られた結論への影響をオリジナルのリサーチクエスチョンと関連付けて記述する。

統合方法の限界について報告する際には、標準化した効果指標、用いた統合の方法、統合するために必要だった研究のグルーピングの再構成について記述する。

効果の方向、あるいはそれに関する投票を効果指標(metric)として用いた場合、“介入の効果の平均はどれくらいか?”よりも“効果を示す何らかのエビデンスがあるか?”というクエスチョンが適切である。(ランダム効果モデルのメタアナリシスの場合と同様)。

エビデンスが限られていたり、アウトカムや効果推定値の報告が不完全であったりしために、初期の分析プロトコールを変更せざるを得なかった場合、それによる限界を報告すること。

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メタアナリシスができない、あるいは含まないシステマティックレビュー(SR)については、論文報告の方法や形式に差があり、スタンダードの必要性が主張されてきた。また、従来、Narrative synthesis, Qualitative synthesis, Synthesis without meta-analysis、定性的システマティックレビュー、質的統合、定性的統合などさまざま用語が用いられてきたが、ほぼ同じ意味で用いられてきた。ただし、質的研究Qualitative Researchのシステマティックレビューという意味ではないので、注意が必要である。

SWiMはPRISMA、RAMESESなどを発展させたもので、開発方法もフォーマルな公正さ、透明性を確保する方法が用いられている。SWiMによれば、効果のmetricすなわち効果指標として、たとえばリスクが低下するがその正確な程度はわからないような場合、すなわち「定性的には効果がある」と言えるような場合、介入の効果の方向性についてエビデンスを統合することや、投票結果を用いることまで、方法として含めており、全体として非常に柔軟性の高い方法といえる。

文献:
Campbell M, McKenzie JE, Sowden A, Katikireddi SV, Brennan SE, Ellis S, Hartmann-Boyce J, Ryan R, Shepperd S, Thomas J, Welch V, Thomson H: Synthesis without meta-analysis (SWiM) in systematic reviews: reporting guideline. BMJ 2020;368:l6890. doi: 10.1136/bmj.l6890 PMID: 31948937

Microlearningマイクロラーニング

Kapp KM, Defelince RA: Microlearning: Short and sweet. 2019, ATD Press, VA, USAを紹介します。

Microlearningマイクロラーニングは、・ゲーム・クイズ・フラッシュカード・ビデオ・テキストメッセージこれらを通じて迅速で、意味のある相互作用interactionを作り出すことによって、毎日のちょっとした時間で、知識を増やし、スキルを磨くことを実現する。

学習ゴール、学習目標、学習アウトカム、相互作用、届けるメカニズムによりその内容が決まってくる。

・5分以内に消費できる一片の学習コンテンツ(Torgerson 2016)。
・自分の学習の成り行きをコントロールしながら、いつでも、どこでも学びたいという人々の希望に答えるようにマイクロラーニングが作成される(Tipton 2017)。
・中規模mesoあるいは大規模macroな学習に対比して、比較的小さな、時間が限定された学習ユニットと学習活動(Hierdeis 2007)。
・マイクロラーニングはコンテンツを短い、焦点を定めた、ひとかじり分提供する、トレーニングに対するアプローチである。効果的にするためには、毎日のワークフローに自然にフィットしなければならないし、自発的な参加を約束し、脳科学(人々はどのように実際学習するのか)に基づき、成功に必要な知識を持続的に根付かせるように調整され、究極的には目的の仕事の結果にインパクトを与える行動に駆り立てる(Dillon 2018)。
・学習に関連した活動の中で比較的短い参加を要求するものであり、典型的には数秒から20分(あるいはある場合には1時間)の長さで、コンテンツの提示、レビュー、練習、振り返り、行動を促すこと、パフォーマンスのサポート、ゴールを思い出させること、説得的メッセージ、仕事の割り振り、社会的相互作用、診断、コーチング、相互作用の管理、あるいはその他の学習に関連する方法論(Thalheimer 2017)。

「マイクロラーニングは、参加者から特定のアウトカムを引き出すために、意図的にデザインされた活動に短時間のエンゲージメントを提供する教育ユニットである」

・短いが独立している。
・ひとつのアウトカムを学習目標とする。
・自発的に参加したくなるように注意を引く。・メンタルなあるいは身体的なアクティビティーを伴う。
・意図をもってデザインされている。
・特定のアウトカムを引き出す。
・多くの場合、何かを知るというより、何かができるようにする。
・学習者、学生というより参加者。

しかし、一方でその限界を認識すべき:
・マイクロラーニングですべてができるようになるわけではない。
・深いレベルの学習を目的にすることはできない。
・マイクロラーニングだけで、専門家としての広範な知識、スキルを身に付けられるわけではない。
・より大きな学習活動の中に位置づけられるべきである。
・文脈の中で経験を通して学ぶことを可能にすることはできない。
・ばらばらの知識やスキルをつなげることはできない。

医療的介入に用いた例:
Ramachandran A, et al: Effectiveness of mobile phone messaging in prevention of type 2 diabetes by lifestyle modification in men in India: a prospective, parallel-group, randomised controlled trial. Lancet Diabetes Endocrinol 2013;1:191-8. doi: 10.1016/S2213-8587(13)70067-6 PMID: 24622367https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24622367/
糖代謝能異常の人々を対象に、最初に生活習慣の変化を促すアドバイスを受ける VS モバイルフォンで頻回に生活習慣を変える教育的で動機付けるメッセージを受ける;後者は2型糖尿病の発生を抑制した。

Nanditha A, et al: A pragmatic and scalable strategy using mobile technology to promote sustained lifestyle changes to prevent type 2 diabetes in India and the UK: a randomised controlled trial. Diabetologia 2020;63:486-496. doi: 10.1007/s00125-019-05061-y PMID: 31919539https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31919539/https://link.springer.com/article/10.1007/s00125-019-05061-y
糖尿病の発症は抑制されなかった。

カナダの医学教育 Competency-Based Medical Education (CBME), Entrustable Professional Activities (EPA)

Royal College of Physicians and Surgeons of Canadaから2016年にコンピテンシーに基づく医学教育(Competency-Based Medical Education, CBME)に関する動画と委託可能な専門的活動(Entrustable Professional Activity, EPA)に関する動画がYouTubeにアップロードされています。短いですが、非常にわかりやすいです。

Understanding Entrustable Professional Activities (EPAs): Video

2016 by Royal College of Physicians and Surgeons of Canada.
https://youtu.be/5Ase3ETcsu0

Introduction to CBME and CBD

2016 by Royal College of Physicians and Surgeons of Canada.
https://youtu.be/pSBs9Mg-GIM

Storyboardストーリーボード

ストーリーボードはさまざまな目的で使われています。例えば、ビデオの作成の際に絵コンテを作成して、全体のストーリーを考えたり、確認したりということは聞いたことがあると思います。レクチャー、セミナー、プレゼンテーション、ワークショップ、実習、eLearning、等々を構想、設計する時に利用できます。

THINKIFICではストーリーボードを次の様に解説しています:”ストーリーボードは、映画制作をルーツとする企画手法である。元々、ストーリーボードは、映画やアニメーションのイベントのシーケンスを事前に視覚化するために使用されていた。教育分野では、コース、レッスン、講義、その他あらゆる種類の学習体験の内容を計画するのに役立つ。情報の優先順位付け、トレーニングプログラムの要素を論理的な順序に並べる、ビデオ教材のマッピング、音声ナレーションの計画など、さまざまなことに役立つ。”

医学の領域でも、例えば、健康診断のデータをモバイル用に可視化したり、生活習慣病に対する教育コンテンツを作成したりするのに、ストーリーボードを用いたという報告(Aida A 2020)があります。心肺蘇生の学習ビデオを作成する際にスクリプト、ストーリーボードを用いたという報告(Alves MG 2019)もあります。文献欄にいくつかリストアップしておきます。

レクチャーを設計する際や、eLearningのコンテンツを設計・制作する際に、案を練る、共同制作者と議論する、ステークホルダの意見を聴く、等の際に有用と考えられます。

いろいろなフォーマットが使われていますが、Devlin Peck氏のYouTubeの動画、How to write a storyboard?では基本形がいくつか紹介されています。Wordでこの投稿の最後に示すような表形式で、連続したコンテンツを書いていけばストーリーボードができます。このようなフォーマットであれば、プロンプト、ナレーションの文章、プログラミング、画像、オンスクリーンのテキストなど、詳細を検討することができます。

また、MindMapのようなフォーマットでもストーリーボードを作ることができます。このようなフォーマットは、全体の流れを確認したり、足りない要素が無いか確認したりすることに向いています。一例はこちらです。

Subject Matter Expert (SME)やContents expert (CE)は一人で教材の制作を行っていることが普通でしょう。あるいは今まで行ってきたと思います。文章を中心としたコンテンツについてはそれで十分かもしれません。教科書を読めばいいのであれば、それで十分かもしれません。

しかし、マルチメディアを活用したeLearning教材では、PowerPointのスライドにナレーションを付けただけよりも、もっと複雑なコンテンツを作ることができ、それがより優れた教育的効果あるいはコンピテンシーの獲得につながることが証明されているものもあります。少なくとも教科書とオンラインのeLearning教材の両方ある方が、医学部の学生には好まれているということが報告されています。また、医療技術を学ぶには、Virtual reality, Extended virtual realityも含めた、マルチメディア学習教材が安全性の面から有用であり、学習効果の点からも有効であることは容易に想像できます。

ストーリーボードは製作者の立場で作るだけでなく、例えば、学習者を主人公にして作ることもできます。対象の学習者は学生や研修医だけでなく、患者さん、介護者、一般市民も含まれます。これら学習者の立場に立った、ストーリーボードを作成することは、学習体験Learning expericnesを明確にし、コンテンツや方略をブラッシュアップするのに役立つと思います。学習者が学習を開始し、学習体験を進めて行く中で何を見て、何を聞いて、何をして、何を感じ、何を獲得するかを熟考し、学習者を含めたステークホルダーのインプットを取り入れるのにも役立ちます。

文献:
Aida A, Svensson T, Svensson AK, Urushiyama H, Okushin K, Oguri G, Kubota N, Koike K, Nangaku M, Kadowaki T, Yamauchi T, Chung UI: Using mHealth to Provide Mobile App Users With Visualization of Health Checkup Data and Educational Videos on Lifestyle-Related Diseases: Methodological Framework for Content Development. JMIR Mhealth Uhealth 2020;8:e20982. doi: 10.2196/20982 PMID: 33084586

Alves MG, Batista DFG, Cordeiro ALPC, Silva MD, Canova JCM, Dalri MCB: Production and validation of a video lesson on cardiopulmonary resuscitation. Rev Gaucha Enferm 2019;40:e20190012. doi: 10.1590/1983-1447.2019.20190012 PMID: 31389480

Roberts ML, Mazurak JOE. Virtual Clinical Experiences in Nursing Education: Applying a Technology-Enhanced Storyboard Technique to Facilitate Contextual Learning in Remote Environments. Nurs Educ Perspect. 2021 Aug 23. doi: 10.1097/01.NEP.0000000000000883. Epub ahead of print. PMID:34431824.

Rim D, Shin H. Effective instructional design template for virtual simulations in nursing education. Nurse Educ Today. 2021 Jan;96:104624. doi: 10.1016/j.nedt.2020.104624. Epub 2020 Oct 10. PMID: 33099091.

Storyboardのテンプレートの例
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