Entrustable Professional Activity (EPA)委託可能な専門的活動:医学部生、研修医、専門医

アメリカの医学教育、研修医教育、専門医教育はEPAという概念で、学習目標が設定されており、マイルストーンによって、到達目標も示されています。アセスメントの基準についても明確にされています。以前解説したことがあります。

例えば、アメリカ消化器病学会American Gastroenterological Association (AGA)と関連学会は、2014年に13のコアEPAを提示しています。

AGA 13のEPA
1. Manage common acid peptic related problems.
2. Manage common functional gastrointestinal disorder
3. Manage common gastrointestinal motility disorders
4. Manage liver diseases
5. Manage complications of cirrhosis
6. Perform upper and lower endoscopic evaluation of the luminal gastrointestinal tract for screening, diagnosis, and intervention
7. Perform endoscopic procedures for the evaluation and management of gastrointestinal bleeding
8. Manage biliary disorders
9. Manage pancreatic diseases
10. Manage common GI infections in non-immunosuppressed and immunocompromised populations
11. Identify and manage patients with noninfectious GI luminal disease
12. Manage common GI and liver malignancies, and associated extraintestinal cancers
13. Assess nutritional status and develop and implement nutritional therapies in health and disease

Rose S, Fix OK, Shah BJ, Jones TN, Szyjkowski RD: Entrustable professional activities for gastroenterology fellowship training. Gastroenterology 2014;147:233-42. doi: 10.1053/j.gastro.2014.04.038 PMID: 24954665

EPAという概念には、対象者にその業務を信頼して委託できるか=まかせられるかという概念が含まれていますので、単に知識・技能を十分習得しただけでは、不十分なこともありますし、評価法も多選択肢問題をパスすればいいというだけでは済まなくなります。指導者が判断し、一緒に業務を行う人たち、業務の対象になる人たち、360度の評価も必要になります。指導者は学習者が独立して一人で作業をできるかをさまざまなレベルで評価する必要があります。

アメリカ医科大学協会(AAMC)が作成した、レジデンシー前のコア委託可能な専門的活動(Core EPA)のひとつ、”EPA 7: 患者ケアを進めるためのクリニカルクエスチョンの作成とエビデンスの検索”を日本語に翻訳してみました。こちらのExcelのファイルです。

この図の中に、”修正のため対応が必要な態度”という欄があり、”問題に対するアプローチを考え直す、助けを求める、あるいは新しい情報を探すことをしない”、そして、”新しい情報テクノロジーを使おうとしない”、”文献のさまざまなギャップと限界を考慮すること、あるいは、出版されているエビデンスを具体的な患者ケアに適用することを拒絶する”、”医療チームと知見について議論することをしない。促されても、アウトカムおよび/あるいはプロセスを決めたり議論することをしない”という項目があります。 これらは、学部学生の段階で、修正が必要とされています。

AAMCのCore EPAの解説とリソースはこちら、EPA Toolkitsはこちらです。

また、ACGME (Accreditation Council for Graduate Medical Education) 米国卒後医学教育認定評議会はマイルストーンを提示しています。The Milestones Guidebook, The Milestones Guidebook for Residents and Fellowsなどもあります。

診断の統計学基礎

表記のタイトルでスライドと解説をまとめました。最後のスライドの解説にはQuizへのリンクも付けてあります。Analytic frameworkでの位置づけ、ベイズの定理、ROC解析、多項ロジスティック回帰分析、共分散による感度の調整、治療検査閾値、などについて解説します。

診断は感度・特異度の世界のままで、実臨床への応用においてはまだまだ未発達だと思います。2つの診断法を比較して、どちらを実施すべきかを決めるために、それぞれの診断法の感度・特異度だけでもいいかもしれませんが、実臨床の場では、複数の診断法を組み合わせるのがノルムで、その場合の感度・特異度はいくつなのかについてはデータがほとんどありません。さらに、陽性・陰性の二値ではなく、診断法の結果は3つ以上のカテゴリの場合も普通です。鑑別診断では疾患がある無しではなく、3つ以上の想定される疾患からどの疾患の可能性が一番高いかを決めるのが普通です。

こちらですLink

四分表 Two-by-two table, 2×2 table

ランダム化比較試験で2つの治療選択肢の効果を比較する場合、ひとつのアウトカムに対して、アウトカムが二値変数Dichotomous variableであれば、いわゆる四分表 two-by-two table、 2×2 tableにデータをまとめます。

四分表はクロス集計表のひとつです。クロス集計表は二つのカテゴリー、例えば、男性と女性でいくつかのカテゴリーに分類される変数、例えば、好きなスポーツ、について度数を集計したような場合に作成されるものです。四分表ではその変数が二つのカテゴリーに分類される場合のクロス集計表に相当することになります。

例えば、このような表です。a, b, c, d, nt, ncは人数を表します。

アウトカム(+)アウトカム(-)症例数
介入群abnt
対照群cdnc

診断精度に関する研究の場合も、対象者が疾患あり、なしの二値変数で分類され、診断検査法の結果が陽性・陰性の二値変数の場合は、同様に四分表で結果を表し、診断能の指標である感度・特異度が算出されます。

陽性陰性症例数
疾患群abnd
対照群cdnc
感度=a/(a + b) = a/nd 特異度 = c/(c+ d) = c/nc

このように四分表はさまざまな分析で活用されますが、単純化され、分かりやすいという利点があります。ランダム化比較試験で介入の効果を表すために効果指標としてリスク比、オッズ比、リスク差などが計算されますが、上記の四分表のデータであれば以下の様に計算されます。

リスク比 = [a/(a + b)]/[c/(c + d)] = (a/nt)/(c/nc)

オッズ比 = (a/b)/(c/d)

リスク差 = a/(a + b) – c/(c +d)

これらの効果指標の95%信頼区間を計算し不確実性の評価ができますし、アウトカム(+)の割合に差が無いという帰無仮説に対するP値を計算することもできます。

四分表は単純化されているという点について少し考えてみましょう。ランダム化比較試験の例について元データはどのようなものか考えてみます。元データは、個人個人のデータを1行に集計します。それを症例数分集めます。上記の四分表のデータからは以下の様な元データが復元できます。アウトカムは1がアウトカム(+)、0がアウトカム(-)を意味します。もし各群で平均値を計算 すると、アウトカム(+)の症例の割合が得られます。

症例番号治療アウトカム
1介入1
2介入0
3介入1

介入群の症例数nt人分の行が続く:           1がa人、0がb人

例えば51対照0
52対照0
53対照1

対照群の症例数nc人分の行が続く:          1がc人、0がd人

さて、治療選択肢とアウトカム以外のそれぞれの個人の属性についてのデータはここでは含まれていません。治療選択肢が2つ、アウトカムが2つの値をとる変数であるため、クロス集計表を作成すると四分表になります。その他の、それらの属性の中にアウトカムに影響を与える因子が含まれているのが普通です。たとえば、年齢はさまざまな疾患で生存を含め、さまざまなアウトカムに影響を与えるはずです。もし年齢が介入群で対照群より若い場合、結果は介入群に有利に働く可能性が高くなります。

実際には元データは以下の様にさまざまな属性のデータを含んでいます。病期、重症度などもアウトカムに影響を与えるでしょう。

症例番号治療アウトカム性別年齢病期重症度その他・・・
1 介入1男性55I1・・・
2介入0女性75II2・・・
3介入1女性62I1・・・

介入群の症例数nt人分の行が続く:  アウトカム1がa人、0がb人

例えば51 対照0 女性 70II 2 ・・・
52対照0男性83II2・・・
53対照1男性74I1・・・

対照群の症例数nc人分の行が続く: アウトカム1がc人、0がd人

これらの因子を無視して介入の効果を証明することは可能なのでしょうか?もし可能だとしたら、ランダム割り付けが適切に実施され、介入群と対照群でこれらの因子、すなわち背景因子についてバランスがとれていることが前提として必要になります。

実際には、ランダム化を危うくするバイアスがあり、例えばコンシールメントがされていない場合がそれに該当します。コンシールメントは担当医が割り付けを予測できないようにすることで、例えば、中央管理で割り付けが通知されるような方法がとられていれば、コンシールメントは守られ、他のバイアスがない場合には、ランダム化が確実になると言えます。

観察研究では背景因子のバランスを取るために、傾向スコア解析Propensity score analysisや操作変数法Instrumental variable methodなどが用いられることがありますが、未知の因子についてはバランスを取ることはできないため、ランダム化の達成には限界があります。

ここでいう背景因子は交絡因子に相当するものです。つまり、割り付けとアウトカムの両方に影響を与える共通因子です。交絡因子の影響はデータ解析の時点である程度調整が可能で、そのためには多変量解析が用いられます。多変量解析では各説明変数間の相関も加味されてそれぞれの変数の介入の効果への関わりの程度を知ることができるとともに、それらで調整された介入の効果を知ることができます。ランダム化比較試験でも多変量解析が意味を持つ場合があります。

四分表を用いて解析をする際には、元データを想像することが重要だと思います。四分表だけを見ているとそれを忘れがちです。

アウトカムが二値変数であれば、異なるアウトカムに対して、それぞれ四分表を作成することができます。しかし、それら四分表のデータから元データの表を復元することはできません。それら因子の間の相関については、個別の四分表からは知ることができません。

相関を知りたい変数のデータが個々の症例について必要になります。データ収集の際にはこの点も認識しておく必要があります。これは複数の診断検査を診断に用いる場合には、個別の診断検査の感度・特異度だけでは不十分であり、それらの共分散(あるいは相関)のデータが必要であるということとも関係しています。

また、アウトカムのカテゴリーが3つ以上、治療のカテゴリーが3つ以上の場合は、2×3や3×3になったりします。2×2は一番単純で、解析もより容易ですが、オールマイティ―というわけではありません。

Cochrane Risk of Bias Tool ver.2.0と評価用ウェブツール

ランダム化比較試験のバイアスリスクの評価ツールとしてCochrane Risk of Bias Tool ver.2.0が2019年8月に最終版が完成し、広く使われるようになってきました (Current versionへの Link)。評価ドメインが5つに限定され、概念は同じですが、名称が解説的なものに変わりました。シグナリングクエスチョンに答えてゆくことで、アルゴリズムに従って、評価がLow, Some concerns, Highのいずれかに決まる仕組みになっています。(Version 1.1ではLow, Unclear, High, でした。)アルゴリズムによる自動判定のツールも含んだExcel macroも公開されています。なお、アルゴリズムによる判定と評価者の判定が違う場合は、評価者の判定を優先します。また、クラスターランダム化比較試験、クロスオーバー試験用のツールは別になっています。

シグナリングクエスチョンに答えていけば、判定ができるようになっていますが、アルゴリズムのどこに合致するかを見ないといけませんし、初心者にはシグナリングクエスチョンそのものの意味が分からない場合もあると思います。従来の方法と比べると、判定の手順はかなり労力を要するものになっていると思います。特にアルゴリズムは記憶できる範囲を超える量なので、RoB 2ガイダンスドキュメントを参照しながら判定する必要があり、時間もかかります。

その様な作業を容易にするために、シグナリングクエスチョンの行をクリックすると表示される解説を見ながらシグナリングクエスチョンに答えていくことで、アルゴリズムに従い、自動的に判定するWeb toolを作成しました。(プログラミングはJavaScriptを用いています)。Cochraneのウェブサイトの紹介、RoB 2のガイダンスドキュメントの紹介、RoB 2ウェブツールの紹介、評価シートとの連携、評価シートからR+metafor, forestplotによるメタアナリシスの実行まで解説した動画(11分13秒)を作成しました。