Microlearningマイクロラーニング

Kapp KM, Defelince RA: Microlearning: Short and sweet. 2019, ATD Press, VA, USAを紹介します。

Microlearningマイクロラーニングは、・ゲーム・クイズ・フラッシュカード・ビデオ・テキストメッセージこれらを通じて迅速で、意味のある相互作用interactionを作り出すことによって、毎日のちょっとした時間で、知識を増やし、スキルを磨くことを実現する。

学習ゴール、学習目標、学習アウトカム、相互作用、届けるメカニズムによりその内容が決まってくる。

・5分以内に消費できる一片の学習コンテンツ(Torgerson 2016)。
・自分の学習の成り行きをコントロールしながら、いつでも、どこでも学びたいという人々の希望に答えるようにマイクロラーニングが作成される(Tipton 2017)。
・中規模mesoあるいは大規模macroな学習に対比して、比較的小さな、時間が限定された学習ユニットと学習活動(Hierdeis 2007)。
・マイクロラーニングはコンテンツを短い、焦点を定めた、ひとかじり分提供する、トレーニングに対するアプローチである。効果的にするためには、毎日のワークフローに自然にフィットしなければならないし、自発的な参加を約束し、脳科学(人々はどのように実際学習するのか)に基づき、成功に必要な知識を持続的に根付かせるように調整され、究極的には目的の仕事の結果にインパクトを与える行動に駆り立てる(Dillon 2018)。
・学習に関連した活動の中で比較的短い参加を要求するものであり、典型的には数秒から20分(あるいはある場合には1時間)の長さで、コンテンツの提示、レビュー、練習、振り返り、行動を促すこと、パフォーマンスのサポート、ゴールを思い出させること、説得的メッセージ、仕事の割り振り、社会的相互作用、診断、コーチング、相互作用の管理、あるいはその他の学習に関連する方法論(Thalheimer 2017)。

「マイクロラーニングは、参加者から特定のアウトカムを引き出すために、意図的にデザインされた活動に短時間のエンゲージメントを提供する教育ユニットである」

・短いが独立している。
・ひとつのアウトカムを学習目標とする。
・自発的に参加したくなるように注意を引く。・メンタルなあるいは身体的なアクティビティーを伴う。
・意図をもってデザインされている。
・特定のアウトカムを引き出す。
・多くの場合、何かを知るというより、何かができるようにする。
・学習者、学生というより参加者。

しかし、一方でその限界を認識すべき:
・マイクロラーニングですべてができるようになるわけではない。
・深いレベルの学習を目的にすることはできない。
・マイクロラーニングだけで、専門家としての広範な知識、スキルを身に付けられるわけではない。
・より大きな学習活動の中に位置づけられるべきである。
・文脈の中で経験を通して学ぶことを可能にすることはできない。
・ばらばらの知識やスキルをつなげることはできない。

医療的介入に用いた例:
Ramachandran A, et al: Effectiveness of mobile phone messaging in prevention of type 2 diabetes by lifestyle modification in men in India: a prospective, parallel-group, randomised controlled trial. Lancet Diabetes Endocrinol 2013;1:191-8. doi: 10.1016/S2213-8587(13)70067-6 PMID: 24622367https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24622367/
糖代謝能異常の人々を対象に、最初に生活習慣の変化を促すアドバイスを受ける VS モバイルフォンで頻回に生活習慣を変える教育的で動機付けるメッセージを受ける;後者は2型糖尿病の発生を抑制した。

Nanditha A, et al: A pragmatic and scalable strategy using mobile technology to promote sustained lifestyle changes to prevent type 2 diabetes in India and the UK: a randomised controlled trial. Diabetologia 2020;63:486-496. doi: 10.1007/s00125-019-05061-y PMID: 31919539https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31919539/https://link.springer.com/article/10.1007/s00125-019-05061-y
糖尿病の発症は抑制されなかった。

カナダの医学教育 Competency-Based Medical Education (CBME), Entrustable Professional Activities (EPA)

Royal College of Physicians and Surgeons of Canadaから2016年にコンピテンシーに基づく医学教育(Competency-Based Medical Education, CBME)に関する動画と委託可能な専門的活動(Entrustable Professional Activity, EPA)に関する動画がYouTubeにアップロードされています。短いですが、非常にわかりやすいです。

Understanding Entrustable Professional Activities (EPAs): Video

2016 by Royal College of Physicians and Surgeons of Canada.
https://youtu.be/5Ase3ETcsu0

Introduction to CBME and CBD

2016 by Royal College of Physicians and Surgeons of Canada.
https://youtu.be/pSBs9Mg-GIM

Storyboardストーリーボード

ストーリーボードはさまざまな目的で使われています。例えば、ビデオの作成の際に絵コンテを作成して、全体のストーリーを考えたり、確認したりということは聞いたことがあると思います。レクチャー、セミナー、プレゼンテーション、ワークショップ、実習、eLearning、等々を構想、設計する時に利用できます。

THINKIFICではストーリーボードを次の様に解説しています:”ストーリーボードは、映画制作をルーツとする企画手法である。元々、ストーリーボードは、映画やアニメーションのイベントのシーケンスを事前に視覚化するために使用されていた。教育分野では、コース、レッスン、講義、その他あらゆる種類の学習体験の内容を計画するのに役立つ。情報の優先順位付け、トレーニングプログラムの要素を論理的な順序に並べる、ビデオ教材のマッピング、音声ナレーションの計画など、さまざまなことに役立つ。”

医学の領域でも、例えば、健康診断のデータをモバイル用に可視化したり、生活習慣病に対する教育コンテンツを作成したりするのに、ストーリーボードを用いたという報告(Aida A 2020)があります。心肺蘇生の学習ビデオを作成する際にスクリプト、ストーリーボードを用いたという報告(Alves MG 2019)もあります。文献欄にいくつかリストアップしておきます。

レクチャーを設計する際や、eLearningのコンテンツを設計・制作する際に、案を練る、共同制作者と議論する、ステークホルダの意見を聴く、等の際に有用と考えられます。

いろいろなフォーマットが使われていますが、Devlin Peck氏のYouTubeの動画、How to write a storyboard?では基本形がいくつか紹介されています。Wordでこの投稿の最後に示すような表形式で、連続したコンテンツを書いていけばストーリーボードができます。このようなフォーマットであれば、プロンプト、ナレーションの文章、プログラミング、画像、オンスクリーンのテキストなど、詳細を検討することができます。

また、MindMapのようなフォーマットでもストーリーボードを作ることができます。このようなフォーマットは、全体の流れを確認したり、足りない要素が無いか確認したりすることに向いています。一例はこちらです。

Subject Matter Expert (SME)やContents expert (CE)は一人で教材の制作を行っていることが普通でしょう。あるいは今まで行ってきたと思います。文章を中心としたコンテンツについてはそれで十分かもしれません。教科書を読めばいいのであれば、それで十分かもしれません。

しかし、マルチメディアを活用したeLearning教材では、PowerPointのスライドにナレーションを付けただけよりも、もっと複雑なコンテンツを作ることができ、それがより優れた教育的効果あるいはコンピテンシーの獲得につながることが証明されているものもあります。少なくとも教科書とオンラインのeLearning教材の両方ある方が、医学部の学生には好まれているということが報告されています。また、医療技術を学ぶには、Virtual reality, Extended virtual realityも含めた、マルチメディア学習教材が安全性の面から有用であり、学習効果の点からも有効であることは容易に想像できます。

ストーリーボードは製作者の立場で作るだけでなく、例えば、学習者を主人公にして作ることもできます。対象の学習者は学生や研修医だけでなく、患者さん、介護者、一般市民も含まれます。これら学習者の立場に立った、ストーリーボードを作成することは、学習体験Learning expericnesを明確にし、コンテンツや方略をブラッシュアップするのに役立つと思います。学習者が学習を開始し、学習体験を進めて行く中で何を見て、何を聞いて、何をして、何を感じ、何を獲得するかを熟考し、学習者を含めたステークホルダーのインプットを取り入れるのにも役立ちます。

文献:
Aida A, Svensson T, Svensson AK, Urushiyama H, Okushin K, Oguri G, Kubota N, Koike K, Nangaku M, Kadowaki T, Yamauchi T, Chung UI: Using mHealth to Provide Mobile App Users With Visualization of Health Checkup Data and Educational Videos on Lifestyle-Related Diseases: Methodological Framework for Content Development. JMIR Mhealth Uhealth 2020;8:e20982. doi: 10.2196/20982 PMID: 33084586

Alves MG, Batista DFG, Cordeiro ALPC, Silva MD, Canova JCM, Dalri MCB: Production and validation of a video lesson on cardiopulmonary resuscitation. Rev Gaucha Enferm 2019;40:e20190012. doi: 10.1590/1983-1447.2019.20190012 PMID: 31389480

Roberts ML, Mazurak JOE. Virtual Clinical Experiences in Nursing Education: Applying a Technology-Enhanced Storyboard Technique to Facilitate Contextual Learning in Remote Environments. Nurs Educ Perspect. 2021 Aug 23. doi: 10.1097/01.NEP.0000000000000883. Epub ahead of print. PMID:34431824.

Rim D, Shin H. Effective instructional design template for virtual simulations in nursing education. Nurse Educ Today. 2021 Jan;96:104624. doi: 10.1016/j.nedt.2020.104624. Epub 2020 Oct 10. PMID: 33099091.

Storyboardのテンプレートの例
Storyboardのテンプレートの例

EPAとCompetency

Entrustable Professional Activities (EPA)”委託可能な専門的活動”については、以前の投稿で解説しました。

コンピテンシーは個人の能力=知識、技能、態度、他のことを示して用いられることが多く、コンピテンスはその職業や業務に必要な能力という意味でより公式の意味合いで用いられることが多く、中身はほぼ同じです。

EPAとコンピテンシーの違いについてはどうでしょうか?Society of American Gastrointestinal and Endoscopic Surgeons (SAGES)は年次集会やウェビナーから有用な内容のものをYouTubeのチャンネルで紹介しています。その中で、2019年 Brenessa Lindeman, MD, MEHPによる”Entrustable Professional Activities – Competency Assessment as a Day-to-Day Activity”というタイトルの講演を見ることができます。

この講演から、アメリカにおける専門医教育の現状、Competency-Based Medical Education (CBME)やEPAについての情報が得られます。

Lindeman先生によると、コンピテンシーとEPAの違いは次の様になります。

項目コンピテンシーEPA
評価単位個人の能力活動のアウトカム
内容文脈に依存しない臨床の文脈に埋め込まれている
スコープ個々の能力の知識/技能/態度を取り扱う統合化された能力の知識/技能/態度を取り扱う
Dr. Brenessa Lindeman, MD, MEHP, at SAGES meeting in 2019.

個人のEPAの評価は毎日の活動に対して行われ、0. 見学だけ、1. 直接的指導・監督の下で行える、2. 間接的な監督の下で行える、3. 監督無しで行える、4. 自分が他の人の指導・監督ができる、のレベル評価を、Patient Care (PC), Knowledge for Practice (KP), Practice-Based Learning and Improvement (PBLI), Interpersonal and Communication Skills (IPC), Professionalism (P), Systems-Based Practice (SBP), Interprofessional Collaboration (IPC), Personal and Professional Development (PPD)などのそれぞれのコンピテンシーの観点から評価するとのこと。

EPAという概念を取り入れることで、すべてが変わると言えるほどの変化が医学教育、臨床の教育にもたらされるように思えます。